生まれてきてくれてありがとう。(後書きに軽い設定説明と補足あります)
「いただきます」
夕飯の合図が全員の口から出た。
その日の夕食は川魚のソテー。
ランの父親、ラカンが川で取ってきたものである。
春斗はそのソテーをナイフで一口大に切り、口にした。思わず目を大きく開き、いつも無表情な春斗の顔は緩んだ。
なぜならばそのソテーは春斗が今まで食べてきた中で一番美味しかったからだ。
心做しか身体の疲れがとれていくような感覚がする。
「あ、もしかして当たった?」
メルが春斗の様子を見て聞いた。
その顔は口角が上がり、嬉しそうな表情をしている。
しかし、メルの言っている「当たった」の意味が分からない。春斗は「当たった…?」とオウム返ししてしまった。
その様子を見たソロが解説をした。
「ここの世界のほとんどの生き物には僕らと同じように魂があります。自分と同じ魂を持つ生き物を食べると疲労回復、魔法強化、精神安定などに繋がります」
春斗の世界からすればそれはサプリと役割が同じようなものである。
きっとこの世界のサプリは同じ魂の食材ということになるのだろう。
その日はサフィニアと一緒にご飯を食べただけで終わった。夕食中にメルとラカンの許しを得るために何かしたかといえば、その間もサフィニアと両親が話して仲が深まったぐらいであった。
その日からサフィニアが家に来る日は多く、日に日にサフィニアと両親は仲が深まる。
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そしてあの日から約10日。
ついに今日がやってきた。
そう────
ランの誕生日!
5月26日はランの15歳の誕生日である。
そのため、メルとラカンは朝から機嫌がより良くなっている。
ランは朝眠い目を擦り起き上がった。するとソロと春斗とアリアが「お誕生日おめでとう」とランに向けて言った。
その直後に草木龍の雄叫びが上がった。
正直ランはこのようなサプライズをされると考えてなかったので目を開き、少し笑ったあとすぐに「ありがとう」と言った。
「お誕生日プレゼントは…ありませーん、ごめんね〜ラン〜忘れちゃってた〜!」
ソロが言うと春斗とアリアは驚いた。長い付き合いのこの2人だから何かしらソロは用意していると思っていたのだ。
ランは小さなため息をしながら
「まぁそんな事かと思ったよ、去年もそうだったしね。」
と言った。
ソロの打ち明けで少し喧嘩するんじゃないかとおもったが、それすらも越える展開であった。
ちなみに春斗とアリアも用意はしていない。
なんせ誕生日なんて知らなかったからである。
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今日はサフィニアも来ていた。いつもサフィニアが来ていたのは昼下がり、しかしこの日は午前から来ていた。
春斗、アリア、ラン、ソロ、サフィニアの5人はおつかいを頼まれ、誕生日パーティのご飯の材料を買いに行き大量の食材を持って帰ってきた。
帰ってきたのは15時頃。
そこから作業分担しながら夕食を作る。
バキッ!!!!
玄関の方から何かが折れる音がした。
その音を聞きつけてメル、春斗、ラン、ソロが向かった。
玄関につくと、玄関ドアが粉々に壊れておりそのドアの近くには一人の巨大な男が立っていた。
その男は筋肉質で背は高め、見た目からして圧を少し感じるが、顔は非常に朗らかである。
彼を見るに耳が少し横に尖っているためエルフであろう。
しかし春斗はエルフの存在を名前でしか知らないため、ただ目の前に巨大な男が立っていることしか認識できなかった。
「あらぁイヤモンさん!」
メルが彼を見るなりすぐそう言った。
それに彼は呼応した。
「こんにちは!お久しぶりです!イヤモンです!それとすみません!ドア壊してしまいました!」
彼、イヤモンは大きな声でハッキリと言った。
見た目通りの雰囲気である。
とりあえず、何かと思ってきたメル以外の3人は敵襲でもなんでもなくただ気さくな人であることを確認した。
そしてイヤモンはまた大きな声で三人に自己紹介をした。
しかし春斗は不思議に思った。
メルが知っている人のであれば、同居しているソロも知らないはずがないのである。
イヤモンもソロの事を知らず自己紹介をしているのでとにかく不思議で仕方がない。
ところが、ソロもアリアも特に気にしていないので春斗はうまくいいだせなかった。
イヤモンがドアを壊してそのまま家の中に入り何も無かったかのように食事の手伝いをしている。
イヤモンはランの腕のそばにある卵を取って欲しいとランにお願いすると、ランは「はい」と言って渡した。
イヤモンは満面の笑みで「ありがとう!」と言った。
(誰だコイ…この人)
そしてそのたまごはイヤモンの手で潰され、ランの顔に飛び散った。
(なんなんだコイ…この人)
イヤモンは砂糖を探していた。それを見抜いたサフィニアが「砂糖」とだけ言って渡した。
また、イヤモンは満面の笑みで「ありがとう!」と言い、砂糖を受け取った。
(誰だコイツ…)
そして砂糖の入ったガラス容器は潰されて足元に落ちた。
(なんなんだコイツ…)
その一部始終を見ていた春斗は密かに怯えていた。
その様子を見たソロが春斗に耳元で囁いた。
「僕もあれぐらい全然出来るよ」
春斗は恐怖の対象が増えた。
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時刻はあっという間に18時頃。
いつもより豪華で煌びやかな夕食、見るだけで食欲がそそられる。
本来ルーローズ家では19時頃に食べるのだが、今日はいつもより少し早め。とはいえ、家の中にいる人全員の胃と脳は目の前の食べ物を求めている。
そして空いた最後の椅子にメルが座った。
「ご飯食べましょう、みんな手伝ってくれてありがとう!それと…」
メルが真っ直ぐにランの目を見た。
「ラン、お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。いただきます!」
「うん、ありがとう。」
そして全員が「いただきます」と言って目の前の夕食を食べ始めた。
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全員が夕食を食べ始めて少し経った頃、ランがついにあの話題に触れた。
「お母サマ?えっと、エルフのあのお方はいったいどちら様でしょうか…?」
メルが口に入れていた物を飲み込んでゆっくり答えた。
「あぁ〜、イヤモンさんのこと?イヤモンさんはぁ…
ランへの誕生日でーす!ちょっと変な感じだけどね!」
その言葉を聞いた瞬間、ラン達に雷が走った。
特にサフィニア。
「ランの結婚相手ってこと…?!」
思わず春斗がそう呟くとメルが大笑いした。
ランは突っ込む所か空いた口が塞がらなくなっている。
「違うわよっ!結婚相手じゃなくて旅のおとも!」
その言葉に春斗が勢いよく立ち上がった。
また、ランも空いた口が塞がらずメルの方を見続けている。
ランほどではないが、アリアもソロもサフィニアも口が空いたままである。
ランがやっと喋り始めた。
「つまり…旅に出てもいいって…こと…?ですか…?」
ランの目は少し潤んでいる。
メルは何も言わずに優しい目微笑みながらでランを見つめながら小さく頷いた。そしてまた喋り始めた。
「その代わりちゃんと魔法学校卒業したらね、一応卒業はしておかなきゃ。」
学校の話を全く聞いていない春斗とアリアとサフィニアはこれまた驚いている。
ランは一目散にメルに向かって走り、飛びついた。
「ありがとう…ありがとうっ!」
声が裏返ったり震えたりしている。
泣いているのだろうが、その顔は満開の花のように咲き誇った。
【設定説明】
魂はここにもあるように、ここの世界のほぼ全部の生き物に魂があります。
この魂の役割は、主に生命線・魔力貯蔵庫となります。
なので魂がなくなった場合、その生き物は植物状態になります。
地底人→人間が地中で暮らすようになり、地中の暗い場所・狭い場所に適応した種。
そのため瞳孔の運動が鈍っており、常にほぼ開きっぱなし。また、狭い場所に入り込むために柔軟性が高いかつ低身長が多い。太陽にほぼあたらないので肌は白い。
地中は暗く見えにくいため視力がとても高い。
視力は5~8度。アリアは7度。(アリア)
草の人→身体が特定の植物で構成されている種。
魂は必ず草の魂であり、草の神に最も近いとされている種。(ラカン)
エルフ→人間よりも長い寿命をもつ種。エルフの中でも寿命の長さによって族が別れており、寿命が長ければ長いほど耳が横に尖っている。
超短命族…100年、短命族…200年、普通族…500年、
長命族…800年、超長命族…1000年。
イヤモンは長命族です。
菌糸人→身体の一部もしくは全てが菌糸で構成されている種。生まれ持った特定の菌だけを操ることが出来る。
(サフィニア)
吸血人→主食が血液で耳が縦に少し尖っている種。
あくまで主食が血液なだけで食べなくても生きていけるが、貧血になりやすく寝起きが悪い。(サフィニア)
魔法に詳しい名前がつくのは応用されたもののみ。
例:目暗の魔法→元は光魔法のただ明度を調節するだけ(0orそれ以上しかできない)→これが影魔法として調節できるようになった(0orそれ以下)→それが特定の人だけに魔法をかけられる
なので初魔法種には応用魔法が少ない、そこから派生したものに応用魔法が多い。
ここの世界の学制は6歳で学校に入学、12歳で卒業。現代と同じです。しかし義務教育はここまでです。そのあと魔法学校がありますが、それは極めたい人だけで、3年間通います。
ランは魔法学校に首席入学、今でも在籍していますが優秀で3年間の単位を取ったので登校しなくていいようになっています。
そのあとにも専門学校があります。現代でいう大学です。これは魔法をより詳しく学びたい人もしくは研究をする人だけであり、3年間通います。
サフィニアは専門学校を卒業しています。
ここの世界の成人は16歳からです。
義務教育が6年で終わっているのは科学技術などの発達が遅れているため学生の覚えることが少なく、学力よりも魔法のほうが重要視されているからです。
【補足】
ちなみに春斗がいた世界と話してる言語は同じだけど、文字は違うので春斗はアリア、ラン、ソロの3人に教えられています。今はもう普通に手紙もかけるレベルです。
頭いいので吸収が早い上、真面目なので寝る前に今のところ毎日練習してます。
ラカンが全然喋らないのは普通に人見知りと物静かな人だからです。無視されてる訳じゃないです。




