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6話 公開処刑

 探索者ギルドのロビー。

 周囲には探索を終えた探索者たちが行き交い、受付カウンターには素材の換金や報告を待つ列ができている。

 そんな日常の風景の中で。

 銀星騎士団の幹部――剣城剛士は、まるで部下を叱責する上司のような顔で綾乃たちを見下ろしていた。

「とにかく、予定時刻を超過したことの罰は考えておこう」

 剣城は取り合わない。

 最初から話を聞く気がない。

 その態度に真琴の顔が赤くなる。

「この――」

「真琴」

 エマが制した。

 真琴は悔しそうに歯を食いしばる。

 俺はその様子を黙って見ていた。

 会社員時代を思い出す。

 話を聞かない上司。

 結論ありきの叱責。

 事実よりも立場を優先する人間。

 別に珍しい光景じゃない。

 だが。

 だからといって見ていて気分の良いものでもなかった。


「それと、三十二階層まで潜ったらしいな」

「はい」

 エマが答える。

「許可は取ったのか?」

「……え?」

 綾乃が顔を上げた。

「許可?」

「危険階層への進出だ」

 剣城は鼻で笑う。

「クランへの事前報告は?」

 エマが固まる。

「ありません」

「規則違反だな」

 一瞬。

 場の空気が凍った。

 真琴が目を見開く。

「は?」

「規則違反だと言った」

「ちょっと待って」

 真琴が一歩前に出る。

「私たちノルマ達成のために行ったんだけど?」

「だから何だ」

「だから何だって――」

「ルールはルールだ」

 剣城は切り捨てた。

「勝手な判断で危険階層へ進出した」

「結果的に成果も出してる!」

「規則違反だ」

 会話になっていない。

 真琴もそれが分かったのだろう。

 呆れたように額を押さえた。

「意味分かんないんだけど」

「だからお前は駄目なんだ」

 剣城が冷たく言う。

「感情でしか物事を考えない」

「……っ」

「これだから女は困る」

 その言葉に綾乃の肩が震えた。

「判断力がない」

「責任感もない」

「だから失敗する」

 周囲からざわめきが起こる。

 探索者たちも聞いているのだ。

 だが誰も止めない。

 銀星騎士団。

 日本有数の大手クラン。

 その看板は重い。

 下手に関われば面倒になる。

 皆そう考えているのだろう。

「そもそもだ」

 剣城は続ける。

「女だけのパーティーに三十階層以降は早い」

 エマの表情が険しくなる。

「それは」

「違うと?」

「……」

 反論しようとして、飲み込んだ。

 相手は最初から結論を決めている。

 何を言っても無駄だと分かっているのだろう。

 その姿に、俺は少しだけ眉をひそめた。

 ◇

「篠崎エマ」

「はい」

「評価ランクを一段階降格」

 剣城が告げる。

 エマの拳が強く握られた。

「白峰綾乃」

「……はい」

「報告書を再提出」

「はい」

「真琴」

「何」

「その態度を改めろ」

「……」

「返事は?」

「はい」

 明らかに納得していない声だった。

 剣城は満足そうに頷く。

「なお、今回の件はクラン内で共有する」

 嫌な予感がした。

 綾乃たちも同じだったらしい。

 全員の顔が曇る。

「反省事例としてな」

 やはり。

 公開吊し上げだ。

 成果を出したにもかかわらず。

 それどころか命懸けでノルマを達成したにもかかわらず。

「次回までに不足分を補填しろ」

 剣城は続ける。

「不足分?」

 真琴が思わず聞き返した。

「今回の規則違反による損害分だ」

「何それ」

「聞こえなかったか?」

「いや、意味が分からないんだけど」

 真琴が本気で困惑していた。

 俺も同じだった。

 成果は出している。

 ノルマも達成した。

 それなのに不足分とは何だ。

 理屈が通っていない。

「質問があります」

 気付けば俺は口を開いていた。

 剣城がこちらを見る。

「何だ」

「彼女たちはノルマを達成していますよね」

「だから?」

「なら評価を下げる理由になっていません」

 剣城の目が細くなった。

「部外者が口を出すな」

「理由を聞いているだけです」

「銀星騎士団の内部規定だ」

 予想通りの答えだった。

 便利な言葉だ。

 内部規定。

 会社でもよく見た。

 理不尽を正当化する時に使われる魔法の言葉だ。

「便利ですね」

 俺が言う。

「何?」

「内部規定という言葉は」

 剣城の顔が険しくなった。

「成果を出しても罰を与えられる」

「規則違反だからだ」

「では次からは三十階層以上へ行かなければいい」

「当然だ」

「その結果ノルマ未達になったら?」

 剣城は答えない。

 答えられないのだろう。

「終わりだ」

 剣城は話を打ち切った。

「余計なことを考える暇があるなら働け」

 そう言い残し、踵を返す。

 取り巻きたちも続く。

 やがて姿が見えなくなった。

 ロビーの空気が少しだけ緩む。

 ◇

「……最悪」

 最初に口を開いたのは真琴だった。

「毎回あんな感じなの?」

 俺が聞く。

「まあね」

 真琴は肩を竦めた。

「今日はむしろマシな方」

「マシ?」

「いつもはもっと酷い」

 俺は綾乃を見る。

 彼女は苦笑していた。

「すみません」

「何がです?」

「巻き込んでしまって」

 その発想自体がおかしい。

 被害を受けている側が謝っている。

 会社員時代にもよく見た光景だった。

「気にしなくていいですよ」

 俺が言う。

「ですが」

「助けてもらった礼に話を聞かせてもらう約束でしたよね」

 綾乃が目を瞬かせた。

 そうだった。

 俺が協力した理由はそこにある。

 銀星騎士団。

 その実態を知ること。

「どこかで話せませんか」

 俺は言った。

「もっと詳しく聞きたい」

 エマが少し考える。

 そして静かに頷いた。

「……分かった」

 その表情は重かった。

 まるでこれから語る内容が、自分でも嫌になるほど酷いものだと分かっているかのように。

 そして俺はまだ知らない。

 銀星騎士団という組織が、俺の想像よりも遥かに腐敗していることを。



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