7話 契約の中身
定食屋の空気は、探索帰り特有の重さをまだ引きずっていた。
沈黙の合間に、箸が器に当たる音だけがやけに響く。
俺は味噌汁を一口飲んでから、単刀直入に切り出した。
「皆さんはどうしてあの悪名高い銀星騎士団に入ったんですか?」
一瞬、三人の動きが止まる。
真琴が苦笑した。
「いきなりそこから行く?」
「気になることは先に潰したいだけです」
「まぁ、そういうタイプよね」
彼女は諦めたように肩をすくめた。
「私たちの時はまだ、悪名が広まってなかった頃なのよ」
エマが語り始める。
「私が、騙されたの。見たところ、一見普通の契約書だった。基本給もあって、装備も支給されて、報酬体系も明確で……」
「“まともな大手クラン”って説明でした」
綾乃が小さく頷いて補足する。
「実際は違ったんですか」
俺が聞くと、エマは少しだけ視線を落とした。
「ええ」
「ノルマが“目安”から“義務”に変わるの」
「未達成は?」
「減給」
真琴が即答する。
「しかも段階的にじゃない。いきなり」
綾乃が続ける。
「私たちの週間ノルマは、六十万円分の魔石です」
「それが前回は五十八万円分の達成だった。それで、給与が全額保留」
「保留?」
俺が聞き返すと、エマはあっさり言った。
「支払われないのよ」
その言葉は軽かったが、中身は重い。
制度というより制裁だ。
俺はそこで話を変えた。
「銀星騎士団の中で、不審な動きはありますか」
空気が少しだけ変わる。
真琴の目が細くなる。
「それ、聞く?」
「重要だと思っています」
エマが短く息を吐いた。
「一応、あるわ」
真琴が嫌そうに口を開いた。
「副団長クラスのパーティーが動いてる」
「副団長?」
「上層部直轄の連中よ」
エマが続ける。
「普通の探索とは違う動きをしている」
「どう違うんですか」
俺が聞くと、真琴が即座に言った。
「利益を出さない」
一瞬、意味が分からなかった。
「利益を出さない?」
「魔石を持ち帰らない」
綾乃が補足する。
「記録上は探索しているんですけど……」
「成果がほぼない」
エマが静かに続ける。
「それなのに定期的に潜っている」
俺は眉をひそめた。
「どこまでですか」
少しの沈黙。
エマが答える。
「四十五層付近」
その数字が、妙に浮いた。
中層と上層の境界に近い領域。
通常の探索者が安定して踏み込む階層ではない。
「何をしているかは?」
俺が聞くと、真琴は肩をすくめた。
「知らない。四十五層だし」
「知ってそうな人はいますか?」
「やめときなさい。情報統制されてるし、下手に踏み込んだら貴方が潰されるわ」
「……そうですか」
思わず声が漏れた。
「なら尚更、調べる必要がありますね」
エマがこちらを見る。
「話、聞いてた?」
「四十五階層でしたね」
俺は短く答える。
「この目で確認します」
「確認?」
「実際に何が起きているのか」
真琴が眉をひそめる。
「やめた方がいいと思うけど」
「いつもそう言われます」
俺は席を立った。
綾乃が不安そうに見上げる。
「危険です」
「分かっています」
短く返す。
だが止まる理由にはならない。
店を出ると、外は少しだけ暗くなっていた。
街は何も変わらない顔をしている。
だが、その裏側で何かが確実に動いている。
銀星騎士団。
四十五層。
副団長のパーティー。
そして“利益を出さない潜行”。
きな臭い何かがある。
俺は歩き出した。
次に踏み込むべき場所は、もう決まっている。




