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15話 強制捜査

 葛城の尋問から三日後。

 銀星騎士団本部に対する強制捜査が決定した。

 秩序局。

 ギルド監査部。

 そしてギルド理事会。

 三者の承認を経た正式な捜査だった。

 キメラ実験施設。

 違法契約。

 報酬横領。

 証拠は十分に揃っている。

 もはや銀星騎士団を庇う者はいない。

 そう思っていた。

「甘いな」

 久世が資料を机へ放った。

「まだいるんですか」

「いる」

 即答だった。

「銀星騎士団は大手クランだ」

「取引先も多い」

「利益を受けている連中もいる」

 俺は眉をひそめる。

 確かにそうだ。

 大きな組織ほど利権が絡む。

 潰れれば困る人間も出る。

「だがもう止まらん」

 久世は資料を閉じた。

「今日で終わりだ」

 その声には確信があった。

 そして同時刻。

 銀星騎士団本部。

 秩序局の車両が建物を取り囲んでいた。

 探索者達がざわついている。

 野次馬も増えている。

 これだけ大規模な強制捜査は滅多にない。

 黒瀬が先頭へ出た。

「秩序局だ」

 低い声が響く。

「銀星騎士団に対する強制捜査を執行する」

 周囲が騒然となる。

 職員達が顔を見合わせる。

 逃げようとする者もいた。

 だが既に遅い。

 秩序局員達が一斉に動く。

 入口が封鎖される。

 退路はない。

 その様子を俺は少し離れた場所から見ていた。

「ぐ、貴様ら! こんなことをして許されると思っているのか!」

 スキンヘッドの巨体な男が怒声を上げる。

「控えなさい。貴方は……銀星騎士団幹部の剣崎剛士ですね?」

 相対するのは制圧部隊の白石雪那だ。

「ああそうだ! 女、お前何をしてるのか分かっているのか……! 」

「これは正式な捜査です」

「黙れ!」

 瞬間、驚く。

 白石が掲げた制圧部隊の手帳を、剣崎が払い除けたのだ。

 手帳が床を転がる。

 それを白石が拾い上げ、次の瞬間、剣崎は地面に倒れていた。

「な……!!」

「公務執行妨害ですね。逮捕します」

 白石が剣崎に手錠をかける。

 ダンジョン外でスキルも使えないのに、あの巨体を一撃で組み伏せた……。

「貴様……!! 女如きがァ!!」

 剣崎が暴れるが、白石はびくともしない。

 ダンジョンによって強化された肉体が、あの細身でも剣崎を押さえつけているのだ。

 この様子に抵抗を考えていた他の職員も大人しくなった。

 しばらくして、秩序部隊の局員達が建物へ雪崩れ込む。

 次々と資料が押収され始めた。

 箱。

 帳簿。

 契約書。

 魔導端末。

 量が異常だった。

 そして。

「黒瀬班長!」

 局員の一人が駆け寄る。

「出ました!」

 黒瀬が振り向く。

「何がだ」

「裏帳簿です!」

 空気が変わった。

 局員が運んできた箱を開く。

 中には書類がぎっしり詰まっていた。

 黒瀬が一枚を手に取る。

 その表情が険しくなった。

「……なるほど」

 久世も覗き込む。

 そして舌打ちした。

「やはりか」

 俺には内容が見えない。

 だが二人の反応だけで十分だった。

 ろくなものではない。

 その後も次々と証拠が見つかる。

 違法契約。

 偽装報告。

 資金流用。

 架空経費。

 そして。

 探索者達への不当請求。

 綾乃達と同じ手口だった。

 だが規模が違う。

 十人や二十人ではない。

 何年も続けられていた。

 その数字を見た瞬間、背筋が冷えた。

 ここまで来ると事故ではない。

 組織そのものが腐っている。

「これは……決定的な証拠だな」

 久世が呟く。

「銀星騎士団は探索者を育てる組織じゃなかった」

「金を生み出すための装置だ」

 その言葉に誰も反論できなかった。

 実際、その通りだったからだ。

 さらに大きな騒ぎが起きた。

「発見しました!」

 再び局員が駆け込んでくる。

 今度は興奮していた。

「団長室です!」

 黒瀬が眉を動かす。

「団長は?」

「団長はいませんでした! しかし、隠し金庫があります!」

 久世と黒瀬が顔を見合わせた。

 すぐに移動する。

 俺も後を追った。

 団長室は最上階にあった。

 豪華だった。

 高価な調度品。

 広い執務室。

 普通の探索者では一生触れないような品が並んでいる。

 そして壁の奥。

 隠された金庫。

 局員が扉を開く。

 中にあったのは金貨ではない。

 資料だった。

 大量の資料。

 その一枚を黒瀬が開く。

 数秒後。

 空気が凍った。

「……どうしたんですか」

 俺が聞く。

 黒瀬は無言で資料を差し出した。

 目を通す。

 そこに書かれていたのは、

 キメラ実験計画。

 その予算案だった。

 そして。

 計画責任者。

 銀星騎士団団長。

 その署名。

 さらに目を下へ落とす。

 成功時の利益予測。

 私設戦力保有計画。

 独立戦力構築案。

 ダンジョン利権拡大計画。

 俺は思わず資料から顔を上げた。

 久世も同じだった。

「人類のため、じゃないな」

 黒瀬が呟く。

 静かな声だった。

 だが怒りが混じっている。

 俺も理解した。

 葛城は騙されていた。

 少なくとも本当の目的は知らなかった。

 団長が欲しかったのは救世主の力ではない。

 権力だ。

 より大きな力。

 より大きな支配。

 そのためにキメラを利用しようとしていた。

「最低だな」

 思わず漏れた。

 久世が頷く。

「ようやく全体像が見えた」

 そして資料を閉じる。

「これで終わりだ」

 その言葉に迷いはなかった。

 銀星騎士団はもう終わっている。

 残るのはただ一人。

 全ての中心にいる男だけだった。

「団長はどこです」

 俺が聞く。

 黒瀬が答える。

「現在所在確認中だ」

 そして続けた。

「だが遠くへは行けない」

 静かな断言だった。

「包囲網は完成している」

 窓の外を見る。

 夕日が街を赤く染めていた。

 長かった。

 だがようやくここまで来た。

 次は団長だ。

 銀星騎士団という腐った組織を生み出した男。

 その顔を、俺はまだ見ていない。



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