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14話 尋問


 葛城蓮司の身柄は秩序局へ引き渡された。

 キメラ事件から二日後。

 俺――黒崎遼は久世に呼び出され、ギルド本部を訪れていた。

 案内されたのは会議室だった。

 中には既に久世と黒瀬がいる。

 机の上には資料が山のように積まれていた。

 その量を見ただけで嫌な予感がする。

「来たか」

 久世が言う。

「進展があったんですか」

「あった」

 短い返事だった。

 だが表情を見れば分かる。

 良い話ではない。

 俺は席に着いた。

 しばらくして扉が開く。

 葛城だった。

 拘束こそされていないが、両脇には秩序局の局員が立っている。

 逃げられる状況ではない。

 葛城は静かに席へ座った。

 部屋の中を見回す。

 久世。

 黒瀬。

 そして俺。

 その視線が一瞬だけ止まった。

「君も同席するのか」

「参考人みたいなものです」

「そうか」

 葛城はそれ以上何も言わなかった。

 久世が資料を開く。

「始めよう」

 空気が張り詰める。

「施設から押収した資料は全て解析済みだ」

 葛城は黙っている。

「実験記録もある」

 沈黙。

「資金の流れも追えた」

 沈黙。

「許可印も残っている」

 葛城の目が僅かに動いた。

 久世は続ける。

「もう隠す意味はない」

「……」

「誰の指示だ」

 葛城はしばらく黙っていた。

 机の上に積まれた資料へ視線を落とす。

 実験記録。

 資金の流れ。

 施設の設計図。

 どれも言い逃れのできない証拠だった。

 やがて葛城は息を吐く。

「指示、か」

 その言葉を噛みしめるように繰り返した。

「そういう関係じゃない」

 久世が眉をひそめる。

「何?」

「俺は自分の意思でやった」

 葛城は淡々と言った。

「実験にも賛同していた」

「必要だと思っていた」

 逃げる気配はない。

 だからこそ、その次の言葉が重かった。

「だが」

 葛城は視線を上げる。

「最初にこの計画を持ち込んだのは団長だ」

 部屋の空気が変わる。

 久世も黒瀬も黙ったまま葛城を見つめていた。

「キメラ実験も」

「施設の建設も」

「資金の手配も」

「全部、団長が始めた」

 静かな声だった。

 だが、その証言は誰の言葉よりも重かった。

「なぜ従った」

 俺が聞く。

 葛城は少しだけ笑った。

「従ったわけじゃない」

「?」

「俺も正しいと思っていた」

 静かな声だった。

「団長の言葉には説得力があった」

「今の探索者では限界が来る」

「人類は変わらなければならない」

「そう言われ続ければ、信じる人間も出る」

 葛城は自嘲気味に笑った。

「俺もその一人だった」

 久世が新しい資料を取り出した。

「次だ」

 机の上に資料が置かれる。

「不当契約」

 久世が言う。

「違法な違約金」

「報酬の中抜き」

「危険任務への強制参加」

 資料が次々と並べられる。

「そういったものを受けた、という探索者らの声だ」

 俺は眉をひそめた。

 多すぎる。

 綾乃達だけではない。

 同じような契約が何十件も存在していた。

「全部、銀星騎士団のものか」

「確認できているだけでこれだ」

 久世が答える。

 机の上の資料はまだ半分も減っていない。

「どう説明する」

「……必要悪だ。組織を運用するために必要だった」

 久世は呆れる。

 綾乃達だけじゃなかった。

 弱い探索者。

 立場の弱い探索者。

 そういう人間達が利用されていた。

 組織的に。

 継続的に。

 計画的に。

 俺は資料を見る。

 名前が並んでいる。

 知らない名前ばかりだった。

 だが、その一人一人に生活があったはずだ。

 夢があったはずだ。

 それを銀星騎士団は利用した。

「……最低だな」

 苦い顔で呟く。

 黒瀬が資料を閉じた。

「最後に聞く」

 葛城を見る。

「なぜキメラ実験を行った」

 部屋の空気が変わる。

 それが本題だった。

 葛城は目を閉じる。

 数秒。

 長い沈黙。

 やがて口を開いた。

「団長は言っていた」

 その声は静かだった。

「近いうちにダンジョンは変わる、と」

 久世が眉をひそめる。

「変わる?」

「ああ」

「何が根拠だ」

「知らない」

 葛城は首を振る。

「だが団長は言っていた」

「今の探索者では対応できない」

「今の人類では生き残れない」

「だから新しい力が必要だと」

 黒瀬の目が細くなる。

「その答えがキメラか」

「そうだ」

 葛城は即答した。

 その言葉に、俺は僅かな違和感を覚えた。

 だが今はまだ言葉にならない。

 分かっていることは一つだけだった。

 葛城は終わった。

 だが銀星騎士団は終わっていない。

 中心にいる団長こそが、本当の敵なのだろう。





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