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12話 制圧

 ダンジョン協会本部の会議室に集まった面々を見回し、俺は小さく息を吐いた。

 久世の隣には見慣れない四人が立っている。

 全員が探索者だ。

 だが、ただの探索者ではない。

 立ち姿だけで分かる。

 無駄な力みがない。

 周囲を警戒している様子もない。

 警戒する必要がないのだ。

 自分達より強い存在がそうそう現れないことを知っている者特有の余裕だった。

「紹介しよう」

 久世が口を開く。

「秩序局制圧部隊第一班だ」

 先頭の男が軽く頷いた。

「黒瀬恒一だ」

 三十代半ばほど。

 短く刈り込まれた黒髪。

 鍛え抜かれた体格。

 背中には巨大な大剣を背負っている。

 声は低いが、不思議とよく通った。

「白石雪那です」

 続いて名乗った女性は黒髪を後ろで束ねていた。

 腰には細剣。

 整った顔立ちをしているが、その目は冷たい。

 感情よりも合理性を優先する人間の目だった。

「高城蓮。よろしく」

 槍を携えた青年が気軽に手を上げる。

 場の空気に似合わないほど軽い調子だ。

 だが、その奥に隠れた鋭さは誤魔化せない。

「南雲誠司」

 最後の大男はそれだけ言った。

 巨大な盾を背負っている。

 口数は少なそうだった。

「今回の作戦では彼らが実働を担当する」

 久世が言う。

「君には案内役を頼みたい」

「了解です」

 頷くと、高城が興味深そうにこちらを見た。

「へぇ。この人が例の」

「高城」

 白石が静かに制した。

「余計な詮索は不要です」

「はいはい」

 高城は肩をすくめた。

 だが、その目はしっかりこちらを観察している。

 軽そうに見えて油断できないタイプだろう。

「対象戦力について確認しておく」

 黒瀬が地図を見ながら言った。

「銀星騎士団副団長、葛城蓮司」

 その名を聞いて久世が頷く。

「上級探索者の中でも上位だ」

「部下四名も同様ですね」

 白石が続ける。

「一般的な上級探索者より一段上」

「だが、最上級探索者ではない」

 黒瀬が言った。

「問題ない」

 あまりにも自然に言う。

 だが、その言葉に虚勢はなかった。

 俺は少しだけ興味を覚える。

 上級探索者の上澄み。

 それを問題ないと言い切る。

 秩序局という組織の底力が垣間見えた気がした。

「作戦開始は対象の入場後」

 久世が言う。

「現行犯を押さえる」

「了解」

 黒瀬が短く答えた。





 秩序局制圧部隊第一班との顔合わせは、思っていたよりもあっさり終わった。

 全員が実力者だ。

 それも、上級探索者という枠組みの中で語るべき人間ではない。

 彼らの立ち方や視線の動きを見ているだけで分かる。

 戦うことに慣れているのではない。

 勝つことに慣れている。

 それも、自分より強い相手など滅多に現れない環境で。

「今回の目的は二つだ」

 会議室で久世が言った。

「第一に銀星騎士団副団長、葛城蓮司およびその直属部隊の確保」

 机の上の資料に視線が落ちる。

「第二に、隠し通路内部の実態確認」

 久世はそこで俺を見る。

「案内は頼めるか」

「もちろんです」

 ここまで来た以上、断る理由はない。

「助かる」

 短いやり取りだった。

 だが、それで十分だった。

 俺と久世の関係は、もう説明を必要とする段階ではない。

 協力者。

 それで通じる。

 黒瀬が資料を閉じる。

「対象戦力は上級探索者上位」

「ああ」

 久世が頷いた。

「少なくとも葛城は本物だ」

 その言葉に高城が口笛を吹いた。

「銀星騎士団の副団長だもんな」

「だからといって油断する理由にはならない」

 白石が淡々と言う。

「強敵と認識し、確実に制圧する。それだけです」

 黒瀬も頷いた。

「その通りだ」

 だがその声に緊張感はない。

 強敵。

 そう認識はしている。

 だが負ける可能性は考えていない。

 それが秩序局制圧部隊第一班だった。

 

 翌日。

 ダンジョン入口付近には既に秩序局の人員が配置されていた。

 一見すると普通の探索者にしか見えない。

 だが、その配置は隙がない。

 逃走経路。

 監視地点。

 応援の投入経路。

 全てが計算されている。

 久世も来ていた。

 表には出ないが、今回の責任者だ。

「動いた」

 通信役の声が入る。

 全員の空気が変わった。

「対象、ダンジョンへ進入」

 俺も入口へ視線を向ける。

 葛城蓮司。

 そして直属部隊三名。

 以前見た顔だった。

 四人は周囲を警戒することもなくダンジョンへ入っていく。

「開始する」

 黒瀬が言った。

 

 追跡は静かに行われた。

 距離を保ちながら進む。

 途中で何度か魔物と遭遇した。

 だが、そのたびに俺は秩序局の異常さを思い知らされる。

 四十二層で現れた大型魔物がいた。

 上級探索者でも油断できない相手だ。

 だが黒瀬は立ち止まりもしなかった。

 大剣が振られる。

 それだけだった。

 魔物は真っ二つになって消えた。

 高城の槍はさらに異常だった。

 視界に入ったと思った瞬間には終わっている。

 速すぎる。

 白石は正確だった。

 無駄な動きが一切ない。

 最短距離で急所だけを貫く。

 南雲は壁だった。

 前に出るだけで魔物が押し潰される。

 力任せに見える。

 だが実際には極めて洗練されていた。

 強い。

 全員が。

 四十五層を拠点にできるほどの葛城達も間違いなく強者だ。

 普通の上級探索者なら相手にもならない。

 だが。

 黒瀬達はそのさらに先にいる。

 最上級探索者。

 久世がそう評した理由がよく分かった。

 

 四十五層へ到着する。

 執行者の感覚が反応する。

 空間の継ぎ目。

 違和感。

 隠された構造。

 前回と同じだ。

 黒瀬が資料を閉じる。

「対象戦力は上級探索者上位」

「ああ」

 久世が頷いた。

「少なくとも葛城は本物だ」

 その言葉に高城が口笛を吹いた。

「銀星騎士団の副団長だもんな」

「だからといって油断する理由にはならない」

 白石が淡々と言う。

「強敵と認識し、確実に制圧する。それだけです」

 黒瀬も頷いた。

「その通りだ」

 だがその声に緊張感はない。

 強敵。

 そう認識はしている。

 だが負ける可能性は考えていない。

 それが秩序局制圧部隊第一班だった。

 

 翌日。

 ダンジョン入口付近には既に秩序局の人員が配置されていた。

 一見すると普通の探索者にしか見えない。

 だが、その配置は隙がない。

 逃走経路。

 監視地点。

 応援の投入経路。

 全てが計算されている。

 久世も来ていた。

 表には出ないが、今回の責任者だ。

「動いた」

 通信役の声が入る。

 全員の空気が変わった。

「対象、ダンジョンへ進入」

 俺も入口へ視線を向ける。

 葛城蓮司。

 そして直属部隊三名。

 以前見た顔だった。

 四人は周囲を警戒することもなくダンジョンへ入っていく。

「開始する」

 黒瀬が言った。

 

 追跡は静かに行われた。

 距離を保ちながら進む。

 途中で何度か魔物と遭遇した。

 だが、そのたびに俺は秩序局の異常さを思い知らされる。

 四十二層で現れた大型魔物がいた。

 上級探索者でも油断できない相手だ。

 だが黒瀬は立ち止まりもしなかった。

 大剣が振られる。

 それだけだった。

 魔物は真っ二つになって消えた。

 高城の槍はさらに異常だった。

 視界に入ったと思った瞬間には終わっている。

 速すぎる。

 白石は正確だった。

 無駄な動きが一切ない。

 最短距離で急所だけを貫く。

 南雲は壁だった。

 前に出るだけで魔物が押し潰される。

 力任せに見える。

 だが実際には極めて洗練されていた。

 強い。

 全員が。

 四十五層を拠点にできるほどの葛城達も間違いなく強者だ。

 普通の上級探索者なら相手にもならない。

 だが。

 黒瀬達はそのさらに先にいる。

 最上級探索者。

 久世がそう評した理由がよく分かった。

 

 四十五層へ到着する。

 執行者の感覚が反応する。

 空間の継ぎ目。

 違和感。

 隠された構造。

 前回と同じだ。

「こっちです」

 俺は先導する。

 黒瀬達は迷いなくついてきた。

 そして隠し通路へ到達する。

 黒瀬が手を上げた。

 その瞬間、全員が散開する。

 隊列が変わる。

 戦闘配置だ。

「突入する」

 誰も返事をしない。

 必要ないからだ。

 

 通路を抜けた先。

 施設の入口付近に葛城達がいた。

 四人の視線がこちらへ向く。

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ空気が凍る。

 だが葛城は動じなかった。

「……なるほど」

 視線が俺に向く。

「そういうことか」

 責めるような口調ではない。

 ただ事実を理解した声だった。

「葛城蓮司」

 黒瀬が前へ出る。

「秩序局だ」

「見れば分かる」

「抵抗するな」

 黒瀬が言う。

「お前達を拘束する」

 葛城は笑った。

 小さく。

 だが確かに。

「断る」

 次の瞬間だった。

 四人が一斉に動く。

 

 速い。

 思わずそう感じるほどに。

 葛城が大剣を振り抜く。

 双剣使いが側面へ回る。

 弓使いが後方へ下がる。

 盾斧使いが前へ出る。

 連携は完成されていた。

 長く組んできたのだろう。

 だが。

 それでも。

「遅い」

 黒瀬が言った。

 

 大剣同士が激突する。

 轟音。

 衝撃。

 だが押し込まれたのは葛城だった。

 葛城の表情が初めて変わる。

 黒瀬はさらに踏み込んだ。

 速い。

 大剣使いとは思えない。

 重さと速度が両立している。

 

 双剣使いは白石と交戦していた。

 連続攻撃。

 鋭い。

 上級探索者なら十分脅威になる。

 だが白石は冷静だった。

 全て捌く。

 そして一瞬の隙を突く。

 双剣が弾かれた。

 

 弓使いが援護を試みる。

 しかし高城の槍がそれを許さない。

 射線に入った瞬間には距離を詰められている。

 

 盾斧使いは南雲と正面からぶつかっていた。

 力比べ。

 だが勝負にならない。

 数歩後退させられたのは盾斧使いの方だった。

 

 戦況は徐々に傾いていく。

 葛城達は弱くない。

 むしろ強い。

 上級探索者として見れば間違いなく一流だ。

 だが相手が悪かった。

 

 黒瀬の一撃が葛城の剣を弾く。

 体勢が崩れる。

 そこへ白石が入り、腕を制する。

 高城が死角を取る。

 南雲が退路を塞ぐ。

 

 包囲。

 

 葛城は歯を食いしばった。

 だが覆せない。

 力量差がある。

 

「終わりだ」

 黒瀬が言った。

 

 数分後。

 戦闘は終了した。

 葛城達四人は拘束されている。

 制圧完了。

 

 だが。

 

 そこで終わらなかった。

 

 執行者の感覚が反応する。

 

 奥だ。

 

 施設のさらに奥。

 

 前回見た実験室の方向。

 

 強い違和感。

 

 何かがある。

 

 黒瀬も気付いたらしい。

 ゆっくりと視線を向ける。

 

「……まだ終わっていないな」

 

 白石が眉をひそめた。

 

「魔力反応があります」

 

 高城が軽口を消す。

 

「嫌な感じだな」

 

 空気が変わる。

 

 葛城だけが静かに目を閉じた。

 

 その反応を見た瞬間、俺は確信した。

 

 本命はここからだ。




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