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【完結】追い出された白猫姫は、王太子にお猫様として溺愛される  作者: 木風


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第二十九話 初夜に、また猫になりました

それから一週間が経った。

今度は、本物のミレイユと殿下の結婚式が行われ、その夜、殿下の寝所に呼ばれた。


猫のとき、何度もこの部屋で眠ったはずなのに、まだ少し不思議な感じがする。

同じ部屋なのに、見え方がまるで違う。

天井は高い。でも、猫のときほど遠くはない。

床は近いのに、逆に、ちゃんと人の足で立つには少し心許ない。


「どうした。ぼんやりしている」

「少し……猫の目に慣れすぎていたみたいで、人間の視界がまだ新鮮で」

「そうか」


殿下がミレイユのそばへ来た。


「困ったことがあれば言ってほしい」

「はい」

「色々あったが……ミレイユ。君を大切に思っている」


ゆっくりと抱きしめられる。

猫のときとは違う。


あのときも温かかった。

でも今は、もっと近くて、もっとはっきりしていて、ひどくどきどきする。

腕の強さも、胸に響く鼓動も、猫だった頃にはぼんやりとしかわからなかったものが、今は全部、人間として伝わってくる。


(これが……人間としての時間)

(思っていたより、違和感がない。殿下と一緒にいることへの……違和感が)


ミレイユはそっと顔を上げ、殿下とキスをした。

猫のときに積み重ねたものが、ちゃんとここへ繋がっている気がした。

猫にならなかったら、こんなふうに関係を築くことはできなかったかもしれない。

そんなことを考えてしまう。


考えて——いると、ふと、頭上に違和感が走った。


「ミ……レイユ……耳が……」


殿下の目線を追うように、頭へ手をやる。

ふかっとした質感のものが、ぴる、と指先をかすめた。


「え……?」


さらに、腰のあたりに何かがしゅるりと巻きつく感覚がして、視線を落とす。

そこにあるのは、ベルトではない。白い尻尾だ。


「へ?……あ!?み、見ないでください」

「いや、だが耳が」

「言わないでください!」

「し、尻尾まで……」

「だから言わないでくださいってば!」


ぽん。

とでもいうような、妙な感覚が体を抜けた。


(この感覚……)

「……ミィ」

「ニャー!!(また……!?)」


世界が一気に大きくなる。

床が遠い。いや近い。ベッドが高い。

視線の高さが変わるたび、毎回少しだけ混乱する。


ミレイユは自分の前足を見た。

白い毛。小さな肉球。

猫になっていた。


(やっぱり……!)


さっきまでそこにあったはずの人間の手はなく、代わりに白い毛に埋もれたピンクの肉球がある。

見上げると、驚きながらミレイユを見つめる殿下の顔。


「い、急ぎ宮廷魔術師を呼ぶ……!」


宮廷魔術師が以前、「浸透変身の名残が出る可能性がある」と言っていたのを思い出す。

ほどなく呼ばれてきた宮廷魔術師は、猫になったミレイユを一目見て、ああと頷いた。


「これは……恐らく、猫であった期間が長かったための副作用でしょう」


長期間の変身は、体質に影響を与えることがあるらしい。


「二のつく日——二日、十二日、二十日から二十九日の間、再び猫になることが起きると思われます」

(ど、どうしよう……なんで、よりによって初夜に……)


耳までぺたりと伏せたくなる。

というか、たぶん実際に伏せていた。


「今はどうすることもできないのか」

「残念ながら」

「ニャア(ごめんなさい……変な体質になってしまって)」

「謝るな」


殿下がミレイユを見た。ミレイユも殿下を見た。


「ニャ?(え?謝っているとわかった?)」

「そういう顔だ」


ミレイユは思わず耳をぴくりと動かした。


(この人……相変わらず、猫の表情を読むのが上手い)

「大したことではない」


殿下が静かに続ける。


「月のうち三分の一ほどが猫になる、ということだな。残りの日は人間でいる」

「はい、おそらく」

「……それの何が問題なんだ。問題があるか?」

「いや、あの……月に三分の一、婚約者の方が猫になるというのは、かなり特殊な状況でございますが」

「そうか。では私の方から聞くが」


殿下がミレイユを抱いたまま、宮廷魔術師を見た。


「ミレイユが猫になっている日に、私が困ることは何かあるか」

「……特には」

「では問題はない」


あまりにも迷いのない言い方だった。


ばたばたした初夜のまま、再び二人きりになると、猫のまま抱きしめられる。

人間として触れ合いたかったのに、今は胸元に収まるしかない。


(ああ……好きなのに……なんだか猫の身体がもどかしい)


喉の奥が小さく鳴る。

困っているのか、嬉しいのか、自分でもよくわからない。


「ミレイユ。私も少し残念に思っている……」

「ニャ……」


それでも、抱く腕は優しかった。

その優しさが、余計にもどかしかった。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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