第17話「限界」
「もう少し、もう少しだけサスペンション硬くできない?」
「うーん、もうこれ以上硬くしちゃうと路面のちょっとのギャップ(凸凹)でクルマが跳ねまくるよ?」
「でも、もう少しオーバーステア傾向なセッティングにしたいの!」
「さすがにこれ以上は…」
2人でマシンを見ながら考え込む。
「どうした?お前ら、そんなに悩んで」
「あ、モントーヤさん、お疲れ様です」
「実は、今もう少しオーバーステアのセッティングにしたいんですけど、その方法が思いつかなくて。」
「これ以上サスペンションを硬くしてしまうと挙動がピーキーなものになってしまう可能性があるんです。」
「じゃあ、フロントウイングを立てて、リアのアンチロールバーを硬くしなさい。そうすれば多分松下の考えている挙動になるはずだ。」
「…!アンチロールバー!すっかり忘れてた!ありがとうございます!」
「これで…」
松下は明日、自分が表彰台の一番高いところに立っていることがイメージできていた。
一方、負けじと永野もセッティングを固めていた。
「ヒロくんに勝つには、ストレートが勝負のつけどころ。もちろんコーナーも走りやすく、でもストレートでの勝負がしやすく…」
「じゃあ、このくらいの調整でどうだ?俺が計算してみたんだが。」
そこにはタブレッドのメモ機能に計算式が並んでいた。
「この数字だったら、シュンが望むセッティングに近くなると思う。」
「サンキュー、ノア。お前の分も勝ってくるわ」
「いやいや、俺も諦めてないから!俺も優勝目指すよ!?」
「あ、そうだったの。」
「もちろん。勝つぞ、シュン。」
「あぁ。」
ART Grand Prixの2人も松下を超えることを決めた。
そして、予選が始まる。
その内容は世界中のファンが予想した通りだった。
松下が最速のタイムを記録すればそれを永野とノアが塗り替える。そんな接戦のタイム合戦が繰り広げられいていた。
「俺のポジションは?」
『ずっと気にしてるな…松下、お前の順位は今3位だ。永野が1位、ノアが2位だ。』
FIA F2ではポールポジションにはポイントが加算されるのだ。
加算されるのはわずか2ポイントだが、今となってはその2ポイントも必要なのだ。
とにかく、とにかく永野との差を…
限界までアクセルを踏み、ブレーキを踏むタイミングを変える。
松下、永野、ノアの3人の走りは異次元と言ってもいいほど攻めていた。
最後のタイム計測、松下がゴールラインを通過する。
『2位、2位だ。ただ、すごいことが起きたぞ…』
「何?1位がトラックリミット違反でタイム削除?」
『いや…お前と永野、タイムが1000分の1秒まで同タイムだ!』
「まぢで!?」
『あぁ、ただ、今回は永野が先に記録していたから彼に優先権が行く。』
「了解。」
たまげた。1000分の1秒まで同タイムとは…
F1では何度かあったが、そのタイムの記録者になると…特別感がある。
今シーズンを締めくくる最終戦、F2という、F1のサポートレースでありながら、今回のレースはF1に並ぶ注目を浴びていた。
翌日、ついにチャンピオンをかけたバトルの幕が上がる。




