霧
「いやぁ、相変わらずくっら。」
「おう、それは知ってんだがあの可愛い嬢ちゃんはどうした? 野郎と二人で廃坑探索なんかしたくねぇんだけど。」
エリスがリリカ達とキラキラした女子会(予想)をしている中、俺は再び蛇紋を連れて黒い霧がいた廃坑へ戻ってきていた。
「つーか、もう俺様この廃坑に興味なくなっちまってさ、もうちゃっちゃっと潰してくんねぇ?」
「お前意見コロコロかわりすぎだろ。爆弾はどうした?」
「あ、まだ回収してねえや。」
蛇紋は心底ダルそうに廃坑の中を一緒に歩いている。
まぁ実際変に拗れてきたしめんどくさくなってきた気持ちはわかる。
でも言ったのはお前だからな?当事者なんだから最後まで付き合ってもらうぞ。
「依頼者をこき使うなんて対策局様は人手不足なんか?」
「おう、永年人手不足だよ。頼むから助けてくれ。」
「一般人に頼むんじゃねぇ。」
なんで蛇紋と二人きりかというと、蛇紋は仮に移動されても土地勘があって、俺は飛ばされないからだね。
「あーあ、やっぱ適当に爆破しとくべきだったな。」
「・・・ほんとに、俺たちに頼む前に片付けてくれとけばよかったのに。」
二人で嫌そうにぶつくさ文句を言いながら探索していると、目の前にまた黒い霧が立ちふさがった。
「・・・なぁ兄ちゃん。この前移動させられたのとこの霧、同じだと思うか?」
「まだ根拠はないけどたぶん違う。この前移動させられたときは特に霧は周りになかった、ホント瞬きの間に急に動かされた感じだし、違和感あるんだよな。」
「ほーん、よくわからん。」
まぁね、俺もよくわからん。それを調べるために来たんだしあとでわかるやろ。
そう、来た理由は黒い霧とあの謎の声の関連性に関してだ。仮にあの黒い霧にユーカが関わってるとして、ではあの声は何なのか、、、その情報は須木原さんからもらっていない。
・・・しらない、なんてことはないだろうしどうせ何か隠してる。
あの秘密主義はなんなのかな?
理不尽な疑問を感じながら蛇紋の手をと、、、らずに自分と蛇紋の腕に手錠をかけた。
誰がオッサンと手を繋いで歩くか。
ーージャラッ
「おいおい、嬢ちゃんと違ってやけに冷たくないか?」
「わかるだろ、わかってくれ。」
「いやわかるがよ。」
少し泣きかけの俺に若干蛇紋は引きながら、仕方なく手錠で繋がれた状態で我慢する。
そのまま黒い霧をやり過ごし、進んでいると、「カチャンッ」と何処か金属が擦れる音が聞こえた。
「「ん?」」
2人で間抜けな声を出しながら振り返ると、やけに黒黒しい焼け焦げたような細い体躯に、錆びついたツルハシを引き摺っている。
ーーカリリリリリリッ
【ハアァァァァァァァァ、、、】
重々しい息をつきながらその謎の存在はこちらに向かって走り出し、ツルハシを振りかぶる。
「ーーちっ」
もし人間だったら最悪だし、懐から取り出した警棒の柄でツルハシの腹を殴って軌道を逸らす。
そのまま飛び込んで無力化しようとして、ピンッ!と張った手錠に引っ張られて俺と蛇紋は転ぶ。
「ーーはぶっ!?」
「いってぇ! 急に走り出すなよ!」
そうだった、片手にお荷物つけてんの忘れてた。
今度は横に振られたツルハシを懐から取り出したR-808で付け根を打ち抜き壊す。その間に体勢を整え2人で並んで、俺は銃を構えた。
「止まれ!警告したからな、動いたら撃ち抜く。」
【コォオオオ】
「おっしゃ!撃っちまえ!」
警告虚しく相手はこちらに向かってきたので俺は標準を定めて撃ち抜いた。
「ーーなぁ、こいつってなんだと思う?」
「おいおい、俺様に聞くのかよ。怪物じゃねぇのか?」
確かに今まで見た霧や声と違い、また違う存在に感じる。ただそうなるとこの廃坑には一体何種類の存在が住み着いてるんだ?
「てか話してる暇はなさそうだぞ、お出ましだ。」
振り返ると再び黒い霧が集まっていたが、漂ってるだけの先ほどと違い、爪や牙を形作っていく。
獣みたいになってきたな。
「・・・はぁ、やっぱ後で金請求しようかな?」
「おいおい、お礼だろ? 悪いが受け付けねぇよ。」
邪悪な笑みを浮かべながら蛇紋は腕を鳴らす。
その横で俺はため息をつきながら拳を構えたのだった。
ーーー
「ふぁっつい!」
「あははっ!たこ焼き一口で食べたらそうなるよ。」
長くカフェで話したあと、適当にふらつきながら目に入った店に入って買い物し、今はベンチで休憩となった。
リリカが目についた球体の何かヒラヒラしたのがかかったいい匂いのする食べ物を買って食べることになる(たこ焼きというらしい)。
それなりに冷まして食べたつもりなのだが、口に含むと中からトロットロの汁?が出てきて口の中を蹂躙する(火傷)。
「・・・ふぇっさいたいんたが?(めっさ痛いのだが?)」
「だから熱いって言ったじゃん、ほらお茶。」
冷たいお茶をリリカから受け取りコクコクと飲み干す。「ぷはぁ」とペットボトルを口から離すと、なぜか目の前で屈んで端末をこちらに向けていたユーカの首根っこがリリカに掴まれる。
「こら、盗撮。」
「・・・まるでお茶の広告かと。」
・・・うん、いろいろ警戒したほうが良さそうだな。
少し話した感じ、ユーカの人となりは僅かだがわかってきた。
何処か引っ込み思案ではあるが、言いたいことははっきり言って行動も我慢しないタイプ。
ただ、やってる職種柄、隠し事や内面を隠すのは上手い匂いがした。
というか、だ、、、
・・・ユーカの異能を確認するだけならリリカに見てもらえばよくないか?
彼女の異能なら見るだけで隠し持ってる異能もわかるはずだ。それなら関係だって悪くならないし万事解決なのでは、、、。
そう思ってそっとリリカの隣に寄る。
「(・・・なぁリリカ、ユーカの異能が何なのか教えてもらえたりしないか?)」
「(え、うーん、私勝手に人のことわかっちゃうから内情とか他の人に教えないようにしてるんだよなぁ。)」
名案だと思って聞いてみたが、リリカには少し渋い顔をされた。
・・・なるほど、無遠慮だったな。
リリカは確かに相手の情報がわかる。
でもそれは決して望んだものではないし、それを勝手に人に教えることはダメなことだとしっかり線引きしているのだ。
それなのに勝手に見て教えてくれというのは失礼だったな。
「(すまん、無遠慮だったな)」
「(ううん、いいんだけどね。ホントなら教えてあげたいけど昔からそれだけはダメかなって決めちゃってて)」
「(いや、私の方こそ失礼だった。やはり自分で調べてこその仕事か。)」
自分の軽弾みな発言を恥じてまた気合を入れる。
やはりこういうのは地道に調べ上げていかないとな、、、。
「ーーごほっ、こほっこほっ。」
たこ焼きを食べ終えてまた歩き出すと、ふとユーカが立ち止まって咳をする。
大丈夫かと心配になって近寄り、背中を擦ろうとすると、ユーカに慌てたように手を弾かれた。
「え?」
「あ! ご、ごめんなさい、違うの。」
ユーカは申し訳なさそうに慌てて後ろに下がる。
そのまま赤信号に入ろうとしたので私は慌てて走り、そのまま彼女を引っ張って抱えた。
ーードサッ!
「危ないぞ。」
「ご、ごめんなさ、、、」
ユーカが謝ろうとした瞬間、なにやら黒い霧が表れこちらに纏わりつこうとする。
嫌な予感をビリビリと感じながらユーカの顔をみると、彼女も焦ったような顔をしておりこれが故意的でないことがわかった。
自分はすぐにポケットをまさぐり取り出した小さな指輪を握りしめる。綾人がお守りとして渡してくれた能無しが込められたその指輪によって黒い霧はなにも出来ずに霧散した。
「「・・・。」」
そして後には2人して見つめ合う私達が転がる。
「大丈夫2人とも!?」
慌てて近寄ってきたリリカに起こされながら無言でいると、周りの声が耳に入った。
「・・・え、なにか今黒いのが」「まさか異能が暴発?怖いなぁ。」「悪影響ないよね?」「通報した方がいいんじゃ、、、。」「て言うかあの娘どこかで、、、」
少し目立ちすぎてしまったと慌てて私たちはこの場を後にした。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「はぁはぁ、こ、ここなら大丈夫かな?」
何とか私達は人気のない路地まで逃げ込めた。
落ち着くように息を吐くと、ユーカがいきなり頭を下げる。
「ごめんなさい!私のせいで迷惑をかけて!」
私は慌てて頭を上げさせた。
「やめてくれ、私もユーカも怪我をしなかったそれでいいだろう。」
ホントはあの黒い霧とか気になることはある。
でも申し訳なさそうにしている彼女にそれを追求するのは酷だな、と取り敢えず落ち着くようになだめた。
「でも、、、えっと、、、あの、、、。」
「・・・ま、こんなところに居てもあれだし取り敢えず落ち着けて気分を上げられるところいこうよ。」
「・・・?どこなのだそこは?」
こういう時に明るいリリカの存在は助かるな、と素直に感心する。
そして彼女はにこやかに笑いながら、、、
「カラオケ!」
と、人のいない個室に大きなテレビがある場所に連れてきてくれた。
・・・? ここはなにする場所なんだ?
「・・・私、久しぶりに来たかも。」
「あー、確かに学生の時とかはよく行ったけど大人になると来ること減るよねー。」
楽しそうな2人の声を聞きながらなんか先端が網目になっている棒をポンポンと叩く。これは一体何で何をするものなのだ?
すると、何を思ったのかリリカが意地の悪い笑みを浮かべながらそっと棒の横に指を添える。カチッと小気味良い音がして、何か代わったのかとまた網の部分を叩くと「ボオンッ」と鈍い音がした。
「うわっ!爆発したぞ!」
「あははっ!してないしてない!全く初々しいなー。」
「・・・え? エリスちゃんはカラオケ来たことないの?」
「ない、というかいい加減これの正体を教えてくれ。」
「あっは、それはマイクで声を大きくさせる機械だよ。」
声を大きくさせて一体どうするのだ?
尚も困惑している自分をみてリリカは「見せた方が早いかな。」とマイクを手にとって何やらタブレットを叩く。
するとテレビの画面が変わり音楽がかかり始めた。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「すごい!すごいぞ! まるでライブのようだった!」
「あ、あっはー、そこまで嬉しそうにしてくれると流石に照れるなー。」
拍手しながら興奮したようにそう言うと、リリカは照れたように頬をかいている。
私の横のユーカも感動したように拍手していた。
「すごっ、やっぱ歌上手いよねリリカ。」
「~~ッ!ほ、ほら!私はよく歌ってるし2人も歌いなよ!」
リリカにタブレットを渡されてユーカは少し悩んだあと、曲をいれる。話題の曲なのかは知らないが、とてもしっとりとした落ち着く歌声で穏やかな気持ちになった。
「いい声だな。」
「ねー。」
そしてユーカが歌い終わると今度は自分にタブレットが渡された。知らない単語が乱立するタブレットにグルグルと目を回す。
・・・ど、どうしよう、歌か? 歌ったことなんてないぞ、詩人の歌声などは聞いたことあるが自分が歌を歌うことになるなんて。
それにこの世界の歌をあまりに知らない。
ユーカやリリカが歌った曲も知らないし、流行りなんてわかるわけない。一応端末を開いて聞いたことのある曲を見てみたが、そのどれもが自信なかった。
「なんか歌えるのあった? エリスちゃんの歌声聞いてみたいなー。」
「と、と言われてもな、私は歌を知らぬし、2人のように上手く声を出せんぞ。」
「あっは、別にいいってー、カラオケは大きな声で何となく歌ってストレス発散する場所なんだからさー。まー初めてが緊張するのもわかるけどねー。」
「リリカとか歌が上手い人と来ると尚更ね。」
いや、そう言うユーカも中々のものだったが?
ここで折れてしまえば騎士の名が廃る、と意を決して一番印象に残ってる曲をいれた。
そして覚悟を決めて画面をにらみ、何とか歌詞にしたがって歌い始める。
「・・・まさか私の曲を歌われるとは思わなかったな。めっちゃ嬉しいけど。」
「というかエリスちゃん初めてなのに普通に上手だね、声も綺麗だし。」
歌い終わってみると、謎の達成感と高揚感が残る。
肺活量には自信あったし何とか歌いきれたが、なるほど、確かにこれは楽しいな。
「よーしっ!じゃあエリスちゃんに教えるためにもじゃんじゃか歌おっか。」
「うん、頑張ってね。」
「あぁ、お手並み拝見させてくれ。」
「私1人!?」
リリカ5、ユーカ3の私2の割合で歌い続けていると、リリカがトイレに行く。
そして私とユーカが2人で残されて、リリカの歌の話をしていると、会話が途切れる。
すると、ユーカは少し暗い顔をしながら顔を上げた。
「・・・エリスちゃん、聞きたいことがあるんだけどいい?」
「む?なんだ?」
「私に触れた時、黒い霧が出たの、気付いてるよね?」
その言葉に私は真面目な顔をする。
今日で聞けるかわからなかったが、上手くことが運べたようだ。
「うむ、流石に目の前で見てればな。」
「ごめんね、怖がらせちゃったよね。」
「いや別に気にはなったが怖くはない、もっと怖い経験をしたことがあるからな!」
「そ、そうなんだ、え、逆にごめんね?」
何故かまた謝られてしまう。
別にそこまで深刻なことはないぞ?
「ね、ねぇ、エリスちゃんに黒い霧が纏わりついたとき、何か弾かれたように見えたんだけど、あれって何?」
「む? あー、あれは知り合いから貰ったお守りのようなものだな。どういうものかは悪いが話せない。」
「そうなんだ、、、。それって私も貰えたりしない?」
ユーカのその相談に私は「ふむ」とうなる。
貰えるは貰えるだろうが、あれにはそこまでの持続性と、万能さはないって綾人も言っていたし、安請け合いしてもよいのか?
そもそも彼女は何を求めているんだ?
「良いと思うが、、、。ちなみにあの黒い霧は何なのだ? そこまで言われたら気になるのだが。」
「あ、そ、そうだよね。え、えっとね、それは、、、。」
何とも言いづらそうにユーカは目を泳がせている。
あれがもし危険な異能なら、話して関係が崩れるかもしれない。そういった葛藤に襲われてるのかもな。
何となく察した私はそっと名刺を取り出してユーカに渡した。
「・・・え、対策、局?」
「あぁ、リリカに初めて会ったのも仕事の関係でな。でも別に話せないならそれはそれで構わん、リリカとも今は友達だしな、関係を崩したくはない。ただもし悩みを聞けるなら聞くと言うだけだ。」
ユーカは貰った名刺を眺めて何か考えている。
私は急かさず、ドリンクを飲みながら待っていると、ガチャッとドアが開いた。
「さてとー、もういい時間だしそろそろかいさ、、、あれ?何かあった?」
「ん、あーなにもないぞ。そうだな、いい時間だし今日は帰ろうか。」
急かしてもいいことはない。
きっかけは与えられた、どこか思い詰めた様子だったし、もし悩みがあるなら連絡してくれるだろう。
取り敢えずは今の成果で満足しておこう。
カラオケを終えて、皆が帰路に着く。
楽しく満足した様子で家に帰ると、電気が付いておらず、綾人がいないことに気付く。
少し寂しく感じながら、布団に倒れ、どうしたのかとメッセージを飛ばすと同時に玄関が開けられた。
その音に飛び起きて、すぐに玄関に向かうと疲れたようにネクタイを緩める綾人と目が合う。
「よっ、遅くなったな。暗闇で連戦させられて流石にくたびれたわ。」
「大丈夫だったのか?」
「まーな、ところでおまえはどうだった? 楽しめたか?」
仕事の進捗ではなく、まず私が楽しめたかどうかを優しく聞いてくる綾人に思わず頬が綻ぶ。
そして私は楽しく今日あったことを報告したのだった。




