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第六話 貫く心

「はいっ、これでもう大丈夫だよ」

「っつー… ありがとう、また世話かけちゃったな」

「君がきてから随分経ったけど、まだ一本も取れないの?」

体のあちらこちらに包帯を巻かれたショーンは顔に苦笑を浮かべる。

この街に来てから、もう2ヶ月は経っている。

戦う―… そうアルベルトへ伝えて以来、仕事以外は修行か立ち合いに時間を当てていた。


「ああ、リーンのお父さんは強いな」

「自慢のお父さんですから!」

弾丸娘、リーンが華が咲くように笑顔を見せる。

リーンは戦災孤児で、アルベルトが養女として傭兵団へと迎え入れた。

今ではこの拠点の管理を任される、団の家を守る一人として働いていた。

「でも、最近はお父さん長柄を使ってるんでしょ?だんだん本気になってきてる証拠だよ」

実際に1週間程前から刃のついていない木の棒を使うようになっている。

ショーンも体の重心が片腕のない体に合い始め、動きだけなら以前と変わらぬように動けるようになった。

「ああ、そうだといいんだけど。まだ、一太刀もまともにいれられてないから」

この2ヶ月、修行以外にもこの街、王国、そして団のことについての知識を多く知ることができた。

特にその中でも驚くべきことは、アルベルトの素性だ。

彼はこの団に入る前から様々な功績をあげており、王国でも屈指の戦士であった。

更に、長く戦場で戦ってきた経験により将としても優秀であり、複数の傭兵団が合同で事を行う際にはそのまとめ役になることも少なくない。

団長であるジェシカもその知識を吸収し、この傭兵団を背負って立つ二本の柱となっている。


「色々と教えてもらっているけれど、決め手に欠けるんだ」

ショートソードをじっと見つめ、これまでの立ち合いを思い返す。

基本的な剣の振り方。体捌き、そして剣の取り回し。常に有利な立ち位置を確保すること。

自らの間合いを常に意識すること―…

父が教えてくれた剣術の基本を元に、アルベルトの経験に裏付けされた実用的な剣術を、只管自分の体で試してきた。

しかし、何かが足りない。決定的な何かが。


「決め手、って…技、とか?」

「はは、ああ、そういうものが足りないのかもしれないな」

技。そういうものがこの手にあれば、決め手になるのだろうか―… そんな事を考えながら、剣ダコで硬くなった掌を見つめる。

「簡単には見つかりっこないとは思うけどね」

「そーだねー、お父さんも危ないから普通は使わないって言ってるし」

リーンの言葉に目を丸くする。その言葉は、アルベルトが切り札を持っている、ということに他ならない。

「アルベルトが、技、を?」

「うん。うちの団だとそういうのを使えるのはジェシカお姉ちゃんとお父さんだけなんだけどね」

教えてもらえれば光明になるのだろうが、果たして教えてもらえるだろうか。

「(聞くだけ聞いてみるか)」

剣の柄を握りしめる。

リーンとの会話が、ショーンにとっての切っ掛けとなった。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇


「おう、ここに居たかボウズ。話ってなんだ?」

薪割りの最中、アルベルトに声をかけられる。

ショーンは一旦手を止めると汗を拭い、真剣な眼差しで彼を見つめる。

「アルベルト。教えてくれ、とは言わない。アンタの技を見せてくれないか?」

「…誰から聞いた?」

ショーンが口をつぐみ、自然と腕に巻かれた包帯へと目を落とす。

「リーンか。ったくしょうがねぇなぁ」

白髪交じりの頭をぽりぽり掻きながら、アルベルトが苦笑する。

だが、その表情は困ってはいるものの、嫌がっているようには見えなかった。

「教えてくれるのか?」

「まぁ、そろそろだとは思っていたがな」

まぁ座れ、と割った薪を腰掛けにしてお互いに腰を下ろす。

いつもの飄々とした表情ではなく、戦士の顔。鋭い視線で射抜かれ、全身が粟立つ。

「お前には、そうだな、必殺技…とでも言えばよくわかるか?」

「ゲームとかの、か?」

「ああ、まぁそんなもんなんだが、俺が使えるのは一つだ」

アルベルト程の戦士でも、一つしか使えないという技。

それほど難易度の高いものなのかと、ショーンは思わず生唾を飲み込む。

「繰り出せば、相手を必ず殺す。当たればの話なんだが、そこまで含めてのって意味だな」

「つっても何も難しいもんじゃねぇぞ?俺はハルバードを使うんだが…まぁ、見せたほうが早いか」

そう言うとアルベルトは早足でどこかへ行き…少しして戻ってくる。

その手には訓練用ではなく、本物のハルバードが握られていた。

「いいか、見逃すんじゃねぇぞ」

いつも訓練に使っている太い木の杭の前へと歩み出す。

呼吸を整え、一つ深呼吸をすると…アルベルトから、ひりつくような気当たりが発せられる。

戦場の、空気。戦士にしかわからない、殺し合いの気配。

ショーンはその姿を食い入るように見つめる。


――風が、舞い上がる…いや、風が収束する。アルベルトの、足元、腕、そしてハルバードへ向かい――


「はぁあァッ!!」

袈裟懸け一閃。

集中して見ていなければ、太刀筋すら追えないような鋭い一撃。

それに追いつくように、劈くような風鳴りが耳に響き、次の瞬間。

荒れ狂う風の刃が、真っ二つに切り裂かれた木の杭へと殺到する。

次々に風の斬撃が見舞われ、それを細かく寸断した。


「…っふぅ、これが俺の技。追い打ちの風刃、って俺は言ってる」

「魔法、なのか…っ?」

「厳密に言うと色々分類があるんだが、魔力を使ってるから魔法といえば魔法だな」

攻撃に、魔法を乗せる。

アルベルトの様子から察するに、それが並大抵の事ではなし得ないものだとははっきりと見て取れる。

「ある程度の魔力さえありゃ、使えるには使えるんだが…まぁ、色々と面倒でな」

「面倒?こんなに凄い技なのに…」

一撃一撃全てに乗せれば、どれほどの強さになるのだろうか。

荒れ狂う風刃、まさに竜巻のような、全てを切り裂き破壊する一方的な戦いもできるだろう。

しかし、若い頃ならいざしらず年を食った今では大道芸だと嘯く。

「集中しねぇと使えんし、何より普通にやったほうが早くて楽だからな」


「…オレに、できるかな」

「できるようにするのが俺の役目だ。お前は気軽にやれ、気軽に」

言葉とは裏腹に、まるでここまで登ってこいと言わんばかりの挑発的な笑顔がそこにはあった。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇


魔法とは。

この世界に生きとし生けるものが持つ、魔力という目に見えないエネルギーを使い、行使する神秘である。

そのメカニズムが全て解明されているわけではないが、ある魔法研究者はこう言う。


『魔力という目に見えぬ力の源を、知恵持つ者の意志という力によって、この世界に現象という形で発現させる』


その発動のトリガーとなる『詠唱』も、魔法を使う『意志』をはっきりと確定させる為のものだ。

熟達した魔法使いであれば『無詠唱』での魔法行使が可能になるのも『意志』こそが発動の本質的なトリガーだからこそである。


では、魔法を纏う武技とは何か?


明確なイメージを体の芯に定着させ、剣を振る、槍を振る、腕を振る―…

最終的に、自分の四肢を扱うかの如く自然に、纏わせる。

これこそがアルベルトの言う技であり、それは『魔技』と呼ばれるものだった。

熟達した戦士は、その型の中に『魔技』を見出し、使う『意志』を持って発現させる。


アルベルトとジェシカに教えてもらった魔法と魔技の概念から、ショーンが導き出した型。

それは『突き』だった。


ショーンはどちらかと言えば小柄なほうで、身長も170cmには到達していない。

身体能力こそ高いものの、これ以上身長は伸びなさそうだった。

そこから導き出した答えが、一撃必殺の突き。

小柄な体を活かし、相手の武器の間合いの内側へと飛び込み、魔技であれば片腕というハンデを帳消しにできる。


はじめはアルベルトの追い打ちの風刃のようなものを考えていたが、それは体格がよく五体満足の彼だからこそできるものだ。


一点突破。一撃必殺。


アルベルトとの立ち合いの回数が減り、突きの練習をする回数が増えていく。


何かが、あと少しでつかめる気がする――… そんな時、ある一報が飛び込んでくる。


――ある調査団が、遺跡にて消息を断った――


「お前も来い。そろそろ家事以外の仕事も覚えてもらわんとな」


力強く頷いたショーンに、アルベルトは満足げな笑みを見せた。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇

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