第五話 新たな地、新たな師
「おかえりなさい、ジェシカさん」
若い衛兵に笑顔で見送られる。
門をくぐると、眼前に広がる巨大な街並みにショーンは圧倒された。
そこは王国第二位の規模を誇る商業都市であり、国境に接する盾でもあった。
「デカい街ははじめてか?ボウズ」
「故郷よりも何倍も大きい」
目を輝かせ辺りを見回すショーン。
王国のみならず、帝国以外の国々の様々な品、人、人、人。
活気に溢れたその都市に、お上りさんになってしまうのも無理はない。
「ここも、はじめは開拓村だったのよ」
「ジェシカ達が作ったのか!?」
どっと笑いが起きる。
「それならよかったんだがな、確か…」
「先々代の初代開拓王が切り拓いたんじゃなかったっすかね?」
おう、それそれ、とアルベルトが肯定する。
「この街の存在は、団の創設理由の一つなのよ」
ジェシカが楽しげに話し、街の大動脈であるメインストリートを歩く。
開拓王――…この国を興し、未開拓の地を次々に切り拓いて大陸屈指の国へと発展させた偉大なる王。
ジェシカの両親はそのおとぎ話のような王に憧れ、開拓や遺跡の発掘を行うこの団を結成したという。
更に言うならば、まだ未開拓の地、未発見の遺跡が多く残るこの大陸の国々では、大なり小なり事業として推奨しており、夢見る者達を奮い立たせる一因となっている。
傭兵団の多くが開拓者や冒険者の集まりであることはこれに起因している。
魔獣どもが跋扈する未開の地を切り拓き生きて帰るのには、腕っ節が必要だ。
傭兵団と国が互いに支え合い、戦争や魔獣の大量発生等の際に傭兵団が力を奮うのはそういった事情もあるからであった。
程なくして、アルベルトが街の一角にある大きな建物を指差す。
「あれが俺達の家だ」
よく手入れされているが、歴史を感じさせる二階建ての建物。
「おーう、帰っ…」
「おかえりなさーーーっい!!」
アルベルトが扉をあけた瞬間、何かが弾丸のように飛び出してくる。
「ごふぉ!?」
ひょいと避けられ、背後にいたショーンの腹部に弾丸が炸裂する。
蜂蜜を流したようなブロンドの髪の毛がふわりと落ち着くと、馬乗りになった何かが大声で叫ぶ。
「なにこの子!戦利品!?」
再び、どっと笑いが起きた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「ようやく一息つけるな」
談話室にて、アルベルト、ジェシカ、そしてショーンが共にお茶を啜る。
先程の弾丸娘が淹れてくれたお茶で、ミルクティーのような優しい味がした。
「それで、これからのことなんだけれど…」
「まずは、現状からだな」
お茶を楽しんだ後、早速話を進める。
「今回の稼ぎは中々だった。帝国の橋頭堡を潰せたし、何より―…」
「同時に侵攻した別働隊が砦を取り戻したものね。暫くはこの街も安泰でしょう」
ショーンは目を見張った。
帝国が王国の砦を奪取したのは聞いていたが、まさか取り戻されていたとは思わなかったのだ。
「あの砦はかなり硬い守りのはずだったと思うけど」
「砦もほぼ無傷で兵の被害も少なかったそうだからな、なんかやったんだろう」
「詳しくは知れないけれど、隠し通路なり何かがあったのかしらね」
なるほど、と納得したがそれを差し引いても精強な軍だと感じる。
そして、ショーンが援軍に出た陣地は、その砦から兵を送っていたはずだ。
こうなると、あの時貴族が自分に罪を被せようと躍起になっていたのも無理はない、と俯く。
「まあ、これで国から言われん限り本業に出られるな」
「ようやくね、早く取りかかりたい遺跡もあるし」
「準備しつつ、疲れを取りつつ、だがな」
本業とは、遺跡発掘や開拓の事だ。
ジェシカも頷き、大まかな方針は決まったように見える。
「それで、ボウズの事だが…戦い続けるか?」
アルベルトが、真剣な眼差しで見据えてくる。
「…許してもらえるなら、戦いたい」
「俺が言うのは気に入らんだろうが…キツいぞ、それは」
茶化すような雰囲気ではない。
ジェシカも口を挟めず、二人の会話を見守っている。
「…戦うのが好きってわけじゃない。でも、それでも」
残った左の掌を握りしめ、ショーンは自分の素直な気持ちを吐露する。
「アンタみたいに、強くなりたいんだ」
ニッと破顔したアルベルトが、頷いた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
嫌いではない。
だが、腕を飛ばされた相手だ。
しかし、助けてくれた恩人でもある。
複雑な感情を抱えたまま、ショーンは広い裏庭でアルベルトと対峙する。
互いに訓練用の木剣を持ち、周囲にはジェシカや団員までも見物に来ている。
「いいかボウズ。これは訓練じゃなくてお前の現状を知るための立ち会いだ」
「戦うってんなら、俺は一片の容赦なくお前を鍛える。今までのことは全て奥に仕舞え、いいな」
こくりと俯くショーン。
慣れない左腕での剣、一からのスタートだ。
「よし、殺すつもりで打ち込んでこい!」
「おぉッ!」
言葉にあわせ、地を蹴る。
バランスが取り辛いが、団員もほう、と感心する身体のバネ。
間合いを詰め、大上段から木剣を振り下ろす、が。
「おら、何休んでんだ!どんどん来いッ!」
あっさりと木剣で受け止めるアルベルトから檄が飛ぶ。
薙ぎ、払い、振り下ろし、袈裟に…できうる限りの剣戟を放つ。
しかし、アルベルトはそれを片腕で次々と防ぎ―…
「(わかっていたけど…強い…!)」
易々と防がれるのは、立ち会う前からわかっていた。
だが、一歩も動かぬまま防がれるとは思ってもおらず、驚愕する。
「よし、こっちからも行くぞ」
袈裟懸けに斬りつけた木剣を、力を流されはじかれる。
慌てて構えた瞬間には、既にアルベルトの剣が頭上に迫る。
「ぐッ!」
「…次、行くぞッ!」
次々に繰り出される、鋭い剣戟。
しかし、ショーンが防げる程度に合わせているのは明白で、なるほど確かに、見極めているようだった。
「ぬぅんッ!」
最後には力任せに胴を薙がれ、剣を合わせたものの吹き飛ばされる。
転がるショーンに、誰かが飛び出し駆け寄る。
「おとーさん!これ以上は弱いものイジメだよ!弱いものイジメはダメでしょ!」
顔を上げるとそれはあの弾丸娘で、ショーンの前に両手を拡げて立ち塞がっていた。
朦朧とした意識の中、そういえば名前を聞いていなかったな…と場違いなことを考える。
ばつの悪そうな顔で頭をポリポリと掻くお父さんは、ため息をついていた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇




