第5話 覚醒の日
「パァーヤッパ!」
「にぃに、おはよう」
横から落ち着いた妹の声が聞こえる。どうやら、また起こしに来てくれたみたいだ。
「今日も奇声あげてたよ?」
「そうなのか? その割には驚いてなかったみたいだけど」
「さっきの二回目だからだよ。一回目は『ヌオッフォ』」
「一回目で起こしてもらえる?」
何で一回目泳がせたの? まぁ、起こしてもらっといてあれなんだけど。
ん? 今気づいたけど、起こしてるというより奇声で覚醒するの待ってるだけでは?
「今日はにぃにの誕生日だよ! 早く降りてきてね!」
そう言い残して、ユナは下に降りていく。
俺の誕生日か。今日中に世力が決まる。どんな力が手に入るかで将来が決定されるのか。特にこれがやりたいって事もないし、あんまり実感が湧かないな。
「アルスー! 起きたなら早く降りてきなさい!」
「はーい!」
まぁいい、先のことは決まった時に考えよう。
――――――
「おはよう〜」
「おはよう。ユナが起こしに行ってから降りてくるまで時間がかかりすぎよ」
「あぁ、それはユナが「にぃにが何度起こしても起きないからだよ」……」
被せてくるのが怪しい。絶対奇声を観察してると思うんだけどな〜。
「まぁいいわ。今日はアルスの誕生日だし大目に見てあげる」
「ありがたき幸せ」
「変な喋り方やめなさい? 気持ち悪いわよ」
「大目にみるとは?」
どうやら気持ち悪さは許容範囲外みたいだ。
「父さんもおはよう」
「おはよう。それと、誕生日おめでとう。夜はお祝いをしようか」
「ありがとう。けど、お祝いされるって歳でもないよ」
「そうもいかないさ」
父さんは相変わらず真面目で常識人だ。爪の垢を母さんと妹に飲ませたいよ。
「そうだ、アルス。世力がなにかわかったら教えてくれるかい。今日王都からの使者が来るんだけど、間に合えば、その時に報告もついでに済ませるよ」
「わかった。使者って剣聖の?」
「本当はキース君の迎えだけだったんだけどね。先日の中級魔物の件で調査隊も派遣されるみたいなんだ」
「そうなんだ、……あれから魔物は見つかったの?」
「いや、衛兵のチームで調査しているんだけど、影も形もなくてね。大掛かりな調査のため王都からの調査隊の力を借りることになったんだ。状況がはっきりするまでは町の外には出られないから、注意するんだよ?」
「うん、わかった」
「ほら、そろそろみんなご飯を食べ……」
カーン! カーン! カーン! カーン!
「!? この警鐘は魔物の襲撃! 四回はまずいね……」
警鐘の音で父さんの顔が驚愕し、すぐに真剣なものへと変わる。警鐘四回は危険度の高い魔物がいる時に実施される。俺が産まれてから警鐘が四回鳴らされることなんてなかった。この前の件と言い何が起きてるんだ。
母さんが、母親の顔から戦闘者として意識を切り替えながら父さんに問いかける。
「あなた、どうするの?」
「母さんは警鐘が鳴っている東門に向かい、状況を確認して欲しい。確認後の判断は母さんに任せる。僕は、アルスとユナを衛兵本部に避難させて、そのまま衛兵の指揮をとる」
「わかったわ。二人をお願いね」
母さんは自分の武器であるメイスを持ち、家を出て行った。
「パパ、大丈夫だよね?」
「うん、安心しなさい。母さんは上級魔物や魔族とも対等に戦えるくらい強いんだよ? この町に来る魔物の襲撃なんて、物の数ではないさ。とりあえず僕達は衛兵本部に向かうよ。準備して」
「わかった」
――――――
町の中は混乱の渦中にあった。無理もない、魔物の襲撃なんてここ百年ほど無かったって聞くし。油断していたんだろう。防壁に囲まれ、長い間安穏と暮らしてきたから。
「にぃに! 急いで!」
「あぁ! わかってる!」
避難所に向かって逃げて行く町の人を横目に、父さんとユナの後を追いかける。
少しの間走ると衛兵本部が見えてきた。
俺たちが走って近づいたことで、建物の前で周囲を確認していた衛兵が父さんに気付いたようだ。
「クライスさん! お待ちしてました!」
「うん、わかっている限りでいいから、状況を教えてくれるかい」
「はい! 先程東門の監視塔から魔族が下級中級魔物の混成部隊を引き連れながら現れたと報告がありました!」
「何!? 魔族が!?」
「詳細はまだ不明ですが、東門の現状の戦力では対抗できないため、防衛に徹し時間を稼ぐとのことです!」
「そうか、東門にはエステルを向かわせた。魔族が相手でもやりようはあるだろうね。今手の空いている衛兵は何人いる?」
「すぐに動かせる人員は二十名程です」
「よし、内十五名は東門の増援に、四名は不測の事態に備え町内部の避難誘導や警備に当たってくれるかい。残りの一名は北門から速馬を出して王都からの部隊に町の危機を伝えに行ってくれ」
僅かな情報から父さんは的確に指示を出していく。魔族は人語を介し知能の高い種族だ。いくら母さんでも魔族の相手をしながら、魔物の大群相手は厳しいはずだ。
そもそも何で魔族がこの町に攻めて来たんだ? 人間と魔族は大昔から戦争を繰り返して来たが、500年前の人魔大戦後からはお互い非干渉となっているはずなのに。
「にぃに、ママ大丈夫かな?」
「母さんならきっと大丈夫だよ。訓練の時を思い出せ、あんな化け物みたいに強い母さんがやられるもんか」
「そう……だよね」
ユナはかなり不安そうだ。こんな時だからこそ俺がしっかりしてユナを支えてやらないといけないのに、俺自身不安が頭から抜けない。
「おい!? あれを見ろ!」
町内部に残ることになった衛兵の一人が防壁の方を指差しながら大声を上げた。指し示す方向を確認すると、飛行能力を持つ魔物が防壁を越えて町へと入って来ているところだった。防壁の衛兵が撃ち落としているから、数が多くないのは不幸中の幸いか。
くそっ、こういう時は決まってさらに悪いことが起きる。
状況は確認した父さんは再度素早く指示を出す。
「町内部の警護班は速やかに魔物の討伐に」
「はっ!」
4人は魔物がいる付近に向かって全速力で駆けていく。
魔物が町内部に入って来た以上、どこが危険になるかわからない。
「……アイちゃん大丈夫かな?」
「そういえば、アイは今日のこの時間は教会にいるよな? あいつの事だ、避難の手伝いや怪我人の手当をしてるだろうから、まだ避難してないかも……」
「そんな!? 魔物も入って来たのに、このままじゃアイちゃんが襲われるんじゃ!?」
衛兵も討伐に向かってる、必ずしもアイの所に魔物が向かうとも限らない。けど、このままそんな楽観論で待ってて大丈夫なのか? もしもが起きた時俺は後悔しないか?
「……ユナ、俺がアイをここまで連れてくるから待ってろ」
ユナに一言伝えてから走り出す。
「え? ちょっとにぃに!? そんな、一人で行ったら危ないよ!?」
ユナの静止する声が聞こえるが、今は無視だ。とりあえず、教会に向かおう。
――――――
「ふぅ、教会に着いた」
幸いにもここまで魔物に遭遇する事なく来ることができた。やっぱり衛兵が頑張ってくれてるんだろう。心配は無駄だったかもしれないが、まずはアイの無事を確認するか。
「おーい! アイいるか!?」
教会のドアを開けながら中を確認する。中には、避難の際の混乱で怪我をしたのだろうか、怪我人が数人寝かされている。
「アルス? どうしてここに?」
「アイ無事だったか! 町の中に魔物が入って来てるから心配で見に来たんだ。安全な場所まで避難できそうか?」
怪我人に心配をさせないため小声で伝える。
「!? そうだったのね。教えてくれてありがとう。でも、まだここには怪我人がいるから離れることはできないわ」
「アイならそういうと思ってたけど、まいったな。怪我人は移動させられそうにないのか?」
「頭を打った人もいるから今は動かすのは危険ね」
「そうか……」
どうする? 町に入って来た魔物は下級のアーマーワスプだった。蜂方の魔物でやや甲殻が硬い種類だ。戦ったことはないが母さんから下級程度なら勝てるとは太鼓判を押されている。
ここに残って護衛の真似事をするか? しかし、早く戻らないと今度はユナや父さんを不安にさせてしまう。
「ところで、先程から気になってたのだけど、その剣は何?」
「え? 剣?」
「えぇ。その手に持ってる少し輝いてる剣の事だけど」
アイに言われて自分の右手を見ると、ぼんやり光ってる『我聖剣ぞ』とでも言いたげな存在が握られていた。
「え? 何この剣? 怖」




