第4話 将来像
俺達はアイの家を出て、毒消し草の群生地がある西門に向かっている。場所自体は町の防壁の外にあるが、比較的近い場所にあることと、衛兵の巡回ルートの範囲内であることから、成人していなくても外出許可をとる事は難しくない。ただし、最低条件として町周辺の最下級の魔物を倒した経験のある者が同行する必要がある。つまり、ユナとアイが町の外に出るにはこの俺が必要という事だ。
「ふっ、世話の焼ける2人だ」
「……間違ってはいないだけに腹立たしいわね」
「アイちゃんアイちゃん、ユナも最近スライムなら倒せたよ?」
「そうなの? ならアルスは別にいなくても大丈夫ね」
「嘘です! 世話が焼けるのは俺でした! どうぞ世話してください!」
「それは嫌よ」
くっ、ユナはいつのまに魔物退治なんてしてたんだ。俺が2人に唯一優位に立てる事だったのに。ユナも母さんに鍛えられてるだけあって、そこそこ武闘派だからな。
「ふふっ、冗談よ」
「え? 一生お世話してくれるってこと?」
「そこではないわ。頼りにしてるってことよ」
真っ直ぐな言葉をかけられると少し照れる。俺の薄汚れた心が浄化されるようだ。流石、教会のシスター見習いと言ったところか。
「あれ〜? にぃに、珍しく照れてる?」
「あぁ、アイに飼われている事を想像した自分が恥ずかしくてな」
「さっきの会話で、恥からくる照れだとは思わなかったよ」
俺の周りでまともな性格の人なんて、父さんとアイくらいだからな。自分とのギャップで少し羞恥心があるんだ。
「妹よ、勿論まともじゃない側だからな」
「にぃにに言われた? アイちゃん、ユナを殴って記憶を消して?」
「そういうところ、そっくりよ」
アイからの追撃もあり、人の往来の中地面に倒れ込むユナ。どんだけ嫌なんだよ。周りから見られてるから早く起きなさい。
――――――
「ようやく着いたわね。そんなに距離があるわけじゃないのに、ずいぶんかかった気がするわ」
「おい、ユナ、言われてるぞ?」
「う、ごめんねアイちゃん」
「私もユナに酷い事を言ってしまったから……ごめんなさいね」
「俺に酷いこと言ってるの気づいてる?」
ユナの心を持ち直すのに苦労してから、少し歩いたら西門に到着した。とりあえず門番に許可を貰いに行くか。
「ん? クライスさんところのガキじゃねぇか。今日はどうした?」
「ルークさん、いつもお世話になってます。今日はこの3人で毒消し草の群生地まで行きたいんですが、許可もらえますか?」
「む、外出許可か……」
「どうかしたんですか?」
「いや、クライスさんから聞いてるかもしれねぇが、最近魔物の数が増えていてな。増えてると言ってもスライムやホーンラビットの最下級魔物なんだが一応警戒してんだよ」
「そうなんですか。今は外に出るのは難しそうですかね?」
「いや、群生地までならさほど遠くもなぇし、エステルさんに鍛えられてるお前の実力も知ってる。問題ないだろ、許可してやる」
どうやら、魔物の数は思ってたより増えてるみたいだ。スライムやホーンラビット程度なら何体出ても負けるつもりはないが、戦闘の経験がない人だとそうもいかない。
母さんが有名でよかった。母さんは衛兵の訓練も手伝ってるから、その母さんに鍛えられてる俺の実力も伝わってる。そうじゃないと外出許可は出なかったかもしれない。
「許可したとはいえ、日が暮れる前には戻ってこいよ」
「わかりました、早めに戻ります」
母さんに心配をかけるわけにはいかないから、採取は急がないとな。
「おい、門を開けろ」
「はっ!」
重厚な音をたてながら西門が開く。
「あぁ〜確かに遠目だけど、魔物が見えるな」
「目がいいのね、私にはここからじゃ見えないわ」
「にぃに、大丈夫そ?」
「言ってた通りスライムとホーンラビットしか見えないし、大丈夫だよ。けど、向かう方向にいるから戦闘は避けられそうにないかな」
「そっか、ユナも頑張るね!」
「あぁ、頼りにしてるぞ」
「護衛役を頼んでいる私が言うのも変かもしれないけど、二人とも無理だけはしないでね」
「心配しなくていいよ、スライムに包まれた気持ちでいてくれ」
「それはどんな気持ちかしら?」
「スライムに包まれたいと思う変態なんてにぃにくらいだよ」
え? あの柔らかくいスライムボディーに包まれたことないの? 母親に抱っこされた時のようなえも言われぬ安心感があるというのに。
ん? いや、母さんに抱っこされたら怖さの方が勝つか。
――――――
3メイル程前方にいるスライムの懐に一足で踏み込み一文字に切り伏せる。振り切った隙を狙おうとしたのか、右後方からホーンラビットが迫ってくるが、踏み込んだ脚を軸に体を回転させて突進を受け流し、空中に死に体となったホーンラビットの首を切り落とす。
「よし、終わりだな」
「鮮やかな手際ね」
「……にぃにって戦ってる時と普段の差が激しいよね」
「そうかな? あんまり変わらないと思うけど」
「ううん、変わるよ? にぃに、息してなければかっこいいのにね」
「黙るだけじゃ足りませんかね?」
普通こう言う時って『黙っていればかっこいいのにね』じゃないの? 生命活動が足枷になるって俺の業深すぎない? 過去の行いは良いはずなんだけど……いや、もしかして8歳の時のあれとあの件か? それとも9歳の時にあれがあれしてああなった件か? はたまた、10歳の時の………
――――――
「着いたわ」
過去の出来事を思い出してから100件を超えたあたりでアイの声が耳に入る。どうやら、いつの間にか毒消し草の群生地に辿り着いていたようだ。
毒消し草は草と書いてはいるけど、実際には花弁に効能があるんだ。その為、花が咲くこの時期に採取し乾燥させておかなければ、寒くなった時期の被毒者の治療が行えなくなる。
「毎年この時期には採取に付き合ってるけど、何度見ても綺麗な景色だな」
毒消し草の花は薄く水分も多いから太陽光にあたった際に角度により七色に色を変える。それが、視界いっぱいに広がってるさまは、まさしく幻想的と言える光景だ。
「こんなに綺麗な花を手折らないといけないのはいつも心苦しいわ」
「でも、これがないと毎年何人も毒で亡くなる人がでちゃうもんね」
「えぇ、だからなるべく花畑を荒らさないように必要数だけ採取しましょ」
「どれくらい必要なんだ?」
「150本よ」
「今年は結構多いんだな」
「去年に多くの被毒者が出て、在庫がほとんど無くなってしまったみたいなの」
「あぁ〜そういえば、教会に次から次に患者が運び込まれてる時期あったな、あの時か。しかし、150本ともなると少し急がないと日が暮れそうだな」
「まずいよアイちゃん! 日が暮れる前に帰らないと門番さんに怒られちゃう!」
「そうね、急ぎましょうか」
各自、50本ずつを目処に採取を始める。ここには滅多に来ないが、魔物が来た時用になるべく近場で作業をしよう。
10本程採取した頃に、アイが徐に俺の方を見てきた。
「……手を動かしながらで良いのだけど、少し聞いても良いかしら?」
「ん? どうした改まって?」
「大した話ではないの。ただ、アルスが将来何をしていきたいと思っているか知りたくて」
「あ、ユナもにぃにの気になるかも」
どうやら、俺の将来は大した話ではないらしい。十分大事だもん。アイに限って悪い意味で言ってるわけじゃないとは思うが、ちょっとした仕返しに大袈裟に言ってみるか。
「そうだな〜、まだ世力が決まってないから確定はできないけど……世界を変える男になりたいかな」
キリッ
どうだ、かっこいいだろ?
「……」
「……」
あれ? 二人とも引いてません? ユナ?汚物を見るような目で見ないで? アイ?引きすぎてもはや青ざめてない?
「そ、そう、叶うと良いわね」
「にぃに、現実ってわかる? あ、もうにぃには帰って来れない場所か……」
「旅立った覚えもないけど?」
冗談の通じない二人だ。
アホなやりとりはあったが、三人とも手は止まる事なく動いているから、もう少しで採取は終わりそうだ。
しかし、アイはさっきの返答で良かったのかな? なんだかんだ納得してる顔してるけど、あれで納得されると逆に俺がどんなふうに見られてるのか怖くなるんだけど。
「終わったわね、それじゃあ戻りましょうか」
「一回戦闘してからは、何事もなく終わって良かったね!」
「俺の心は抉れたけどね?」
――――――
「かいもーーーん!」
西門に到着し、監視塔に合図し門を開けてもらった。少し急いだが帰りは魔物に会うこともなく順調に帰ることができた。
しかし、何やら衛兵の様子が慌ただしいな? 何かあったのか?
「ルークさんお疲れ様です」
「ん? あぁ、お前たちが無事日暮れまでに戻ってきたみたいだな」
「はい、なんとか。ところで、慌ただしい様子ですけど、何かあったんですか?」
「……まぁ、お前なら教えてもクライスさんから耳に入るか。実はついさっきなんだが、東門の方で中級魔物が出たって言う報告があったんだ」
「え? この町の周辺で中級魔物が出るなんてことありえるんですか?」
「詳しくはまだわからねぇ。ただ、薬草の森付近で、襲われた人がいるらしくてな」
「え!? その人は大丈夫なんですか?」
「あぁ、なんでも、通りすがりの冒険者が撃退したとかで、命は無事らしい」
「そうなんですね、良かった」
「ほんとは、お前達のところにも迎えを出す予定だったんだが、その前に帰ってきちまったみたいだ。しかし、中級魔物が出た以上しばらくは外出はさせられねぇ。とりあえず、お前らも早く家に帰んな」
「はい、わかりました」
ルークさんに急かされ、三人で帰路に着く。
「しかし、薬草の森付近でか……たまたま毒消し草の採取に変わったから大丈夫だったけど、下手したら俺達が襲われてた可能性もあったな」
「そうね、運が良かったわ」
「うん、中級魔物にユナ達が勝てるわけないもんね」
下級を通り超して、中級魔物ともなると衛兵が数人で対処する案件だ。知性も高くなり、一部は魔法を使う魔物も存在する。もちろん、俺なんかじゃ手も足も出ないだろう。
「家まで送ってくれてありがとう。今日は付き合ってくれて助かったわ」
「気にしなくていいよ」
「うん! アイちゃんの力になれて良かったよ!」
「ふふっ、ユナありがとう」
「今日はもう遅いから俺達も帰るな?」
「えぇ、気をつけて」
「あぁ、またな」
「アイちゃんまたね〜!」
アイを家に送り届けてから、俺達の家に向かう。しかし、中級魔物について、父さんは知ってるから心配してないだろうか? 家では薬草の採取の話してたし。
「「ただいま〜」」
家の扉を開けると、父さんがソワソワと、母さんがどっしりとした雰囲気で待っていた。
「ほら、あなた! ちゃんと元気に帰ってきたでしょ?」
「うん、本当だ。二人とも怪我はないかい?」
「大丈夫だよ! どこも怪我してないよ!」
「中級魔物の件でしょ? たまたま、毒消し草の採取に変更になって西門側にいたから、襲われなかったんだ」
「そうか、本当に良かった」
「ね? 朝、あの会話してて良かったでしょ?」
ん? そういえば、朝に母さんが『襲われる可能性は減ったから』とか言ってたな。え? 本当にあれ効果あったの? 母さん凄くない?




