第2話 平穏な朝
「こーけーーーい!?」
「うわ!? びっくりした!」
隣から声が聞こえて、そっちを向けば驚いた顔が見える。
「……あれ? ユナ?」
「もう、寝ぼけて奇声あげないでよ」
寝ぼけて?
ボーッとした頭で周囲を見ると、見慣れた部屋が視界に入り、窓から差し込む太陽光に眼が焼かれた。
「めがー、めがー」
「はいはい、アホスアホス」
兄の心配をすることもなく酷い言い草である。そんな風に育てた覚えはないんだけど。
「育てられた覚えもないよ」
「当たり前のように思考読まないでくれる?」
「にぃにのアホ面見てたら何考えてるか丸わかりだよ」
「何それ、酷い」
そんなアホ面してるだろうか。そこそこまともだと思ってたんだけど。
てか、アホ面で丸わかりってなに。考えがわかるくらい多種多様のアホ面搭載でもしてるの?
妹に言われた言葉を考え込むあまり、さっきまで変な夢を見てた気がするが思い出せない。
「変な夢はいつも見てるでしょ?」
「もう突っ込まないぞ? そんなに変な夢見てる?」
「うん、だって、朝起こしに来る5回に8回は変な叫び声あげてるよ?」
「回数おかしくない?」
俺の朝どうなってるの。朝に2回叫んでる時あるってやばくない?……1回でもやばいけど。
そんな叫び声をあげる俺を毎朝起こしてくれてるんだよな。朝に弱いせいで毎朝妹に叫び声を浴びせてると。うん土下座しよ。
「ちょ、ちょっといきなり何してるの!?」
「生きててごめんなさい」
「急に何!?」
「こんな兄を起こしに来るという苦行を与えてる事実に絶えられず」
「何言ってるの! それに、べ、別に嫌なわけじゃないし」
「なんと、ここに女神がいたのか」
「っ! もう! 変なことばっかり言ってないで、早く下に降りてきてよ!」
恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら早足で階段を降りていく。我が妹ながら可愛いところがある。一つしか歳が違わないのに、しっかりしたあの性格は誰に似たのか。
階段を降り終わったのか、ユナと母さんの話し声がかすかに聞こえる。
「また、アルスに変なことされたの?」
おっと、風評被害が広がる前に早く降りないと。
――――――――――
「おはよう」
「ようやく、起きてきたわね。ユナに変なことしたらダメよ?」
「失礼な、可愛い妹に変なことをするわけないだろ?」
「……変って自覚がないのも困りものね」
「あれ? 愛息子だよね?」
「愛してるがゆえよ」
「母さんの愛って刃物か何か?」
会話をしながらもフライパンを無駄のない手つきで操り、料理をお皿に移してるのが我が家のヒエラルキートップの母さんだ。ちなみに、2番がユナで3番が父さんと俺。男性陣の立場が低い……泣いていい?
「父さんもおはよう」
「おはよう。今日は一段と起きてくるのが遅かったけどどうしたんだい?」
「特に何かあったってほどじゃないんだけど、少し、夢見が悪くてさ。」
「ふむ、そうか。アルスもあと少しで15歳になる。世力を授かるのも間近となると無意識に不安を抱えたりするのかもしれないね」
この世界に住む人々は等しく産まれてから15年の月日が経った時に特殊な力を世界より授かる。その力の事を世力と呼んでる。俺もあと数日で授かるんだけど、世力の力はピンキリで、授かる力によっては一生安泰なものもあれば、日常生活が少し楽になればいいな〜程度のものまであり、一生に一度の大博打といえる有様だ。
母さんなら、『鈍器の覇者』が授かった力で、昔は騎士団に所属していたこともあるらしい。フライパンの扱いが尋常じゃないのも、世力の恩恵だとか。
「フライパンって調理器具じゃなくて鈍器だったのか」
「相変わらずマイペースな子だ、心配は杞憂だったかな?」
「よく言われるけど、俺のどこがマイペースなのか、全く検討がつかないんだよね。一体俺の何を見て言ってるんだろうか? ……さて、父さんはフライパンが鈍器ということにどう思う?」
「そういうところじゃないかな? それと、僕が母さんに逆らえない理由を思い出させないでくれるかい?」
「なんかごめん」
え?殴られたの?そういえば父さんと母さんの出会いは騎士団時代って言ってたな。父さんは『軍師』の世力で小隊を指揮していたらしいから。
その時代から、2人の間で色々あったのかな?ある意味で母さんに対しては戦略的撤退ってことなんだろ。
「撤退じゃないさ、惚れた弱みだよ」
「この家では、俺の思考を読むのが当たり前なの? まさか、母さんも?」
「当たり前よ? その顔で正気?」
「捉え方によってはいじめだよ?」
恐らく、ユナが言ってたようにアホ面の事を言ってるんだろ。あれ?捉え方いじめ一直線なのでは?
「アルスも少しはポーカーフェイスを覚えた方が良いわね。正直なのは良い事だけど、何でもかんでも顔に出てたらこれから苦労するわよ?」
「にぃにには、無理なんじゃないかな? 顔がうるさくないにぃになんてにぃにじゃないし」
「ユナ、その言葉覚えておけよ! 必ず冷静沈着でクールな男になってやる!」
「ふっ」
「鼻で笑われた!?」
今に見ているが良いさ。何気ない平穏な朝。たわいない会話。当たり前だと思っている日常から少し離れた時、男とは一つ成長するものだ。成長する事で俺はクールな男へと進化するはずだ。
しかし、成長の先に待っているものとは何なのか?人の善悪、人と魔族の確執、世界に潜む悪意。抗えぬ運命に直面した時、俺は感情を失い、ただ、信念に従うだけの傀儡となるだろう。だか、それでも進み続けるしかない何故なr
「カッコつけた顔して物思いに耽ってるのはいいけど、そろそろご飯を食べなさいね」
「にぃには厨二病真っ只中だから仕方ないよ」
「だれが、妄想と現実の区別がついてないって? 俺ほど現実と向き合ってる青少年はいないぞ? ……ところで俺の聖剣はどこにやったっけ?」
「もう手遅れだったよ」
ユナは遠い目をしながら俺をみてそう言い放った。ちょっとした冗談だったんだけど、本気にされてる?
「はいはい、いつまでも頭の痛くなるやりとりしてないで早くご飯食べてちょうだい。次同じやりとりしたら『これ』だからね」
「「はーい(震え)」」
母さんがフライパンを構えながら言ってくる。こんなに嬉しくない『次やったらこれ』は初めてだ。その言葉はもっとこう男の願望が詰め込まれたものだと思ってたけど、いつのまにこんなに殺伐としたものになったんだろうか。
あ、父さんも俺の横で震源地かってくらい震えてる。過去のトラウマがフラッシュバックしてるんだろう。
仕方ない、今は大人しく母さんの言う通りにしよう。




