表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/53

箇条書きにします

 翌朝、ガレットが来た。




 「若様」




 「はい」




 「各国の代表方が、昨日の会議の「四、その他の申し入れ事項」について、もう少し詳しく確認したいとのことです」




 (……昨日終わったと思ってたんだが)




 「何件ですか」




 「現時点で六件です」




 「六件」




 「はい。テルミスから二件、シュタールから一件、エンデ殿から一件、カステル卿から一件、それからイルデ先生から一件です」




 (……全員からか)




 「また会議ですか」




 「正式な会議というより、確認の場です。今日の午前中に皆さんが出立されますので、その前に、できれば」




 (……面倒くさい。でもここで断ると後が面倒になる)




 「分かりました。どこでやりますか」




 「昨日と同じ部屋が使えます」




 「そこで」




 俺は椅子から立った。外はまだ朝だった。昨日と同じ光の角度だった。




 部屋に入ったら、もう全員いた。




 (……集まるの早いな)




 カステル卿。レオン殿。モリッツ殿。エンデ殿。イルデ先生。昨日の座席とほぼ同じ位置に自然に収まっていた。




 ドランク王はいなかった。




 (……あの人だけいない)




 「ドランク陛下は」




 「先ほど「朝の散歩に行く」と出ていかれました」




 ガレットが答えた。




 「……散歩」




 「はい」




 (会議に呼ばれてないから自由に動いてるのか、それとも本当に興味がないのか)




 「では始めましょうか。六件ということでしたが」




 俺は言った。




 全員が書面を取り出した。それぞれが別の書面を持っていた。折り方が違う。内容が見えない。




 (……これを六件、順番に聞いていくのか)




 (面倒くさ)




 「あの」




 俺は言った。




 「先に全件、項目名だけ言ってもらえますか。一件ずつ話す前に」




 全員が少し止まった。




 「箇条書きにします」




 俺は卓の端に置いてあった紙と炭筆を取った。ガレットが昨日から使っていたやつだった。




 「テルミスから、二件。何ですか」




 レオン殿が少し間を置いた。それから口を開いた。




 「一点目は、遺跡の学術資料の写しについて。イルデ先生の報告書が出た際に、テルミスの研究機関にも共有していただけるか。二点目は、魔素計測の定期報告について。数値を定期的に受け取れる仕組みが作れるか」




 俺は紙に書いた。




 一. 遺跡資料の写し(テルミス・研究機関)

 二. 魔素計測の定期報告テルミス




 「次。シュタールから一件」




 「農業技術支援の具体的な窓口について。こちら側の担当者を決めていただければ、詳細をご相談したいと思っています」




 モリッツ殿が言った。




 俺は書いた。




 三. 農業技術支援の窓口設定シュタール




 「エンデ殿」




 「護衛団の宿営地について。次回こちらに来る際、どこに宿を取るべきか確認したい」




 「次回前提で話してるんですね」




 「ええ、また来ると思いますので」




 (……みんな来る気でいるんだな)




 四. 護衛団の宿営地エンデ




 「カステル卿」




 「ヴァンダール家の現在の文書管理体制について。共有文書の正式な保管先を確認したい。以前の管理が不明な部分があって」




 「ガレット」




 「承知しております。文書管理については私から別途ご説明します」




 ガレットが横から言った。




 五. 文書管理の確認(カステル卿・ガレット対応)




 「最後、先生」




 「あの、実はですね——」




 イルデ先生が帳面を開いた。




 「昨日の報告で言い切れなかった点がいくつかありまして。魔素濃度の推移グラフと、遺跡の構造記録を合わせると、実はまだ未解明の区画が三つほどあって——」




 「先生」




 「はい」




 「今は項目名だけでいいです」




 「ああ。——遺跡の未解明区画の調査許可、ということで」




 六. 遺跡の未解明区画の調査許可申請(イルデ先生)




 俺は六件を書き終えた紙を、全員に見えるよう卓の中央に置いた。




 「——こういうことですか」




 全員が紙を見た。




 しばらく誰も言わなかった。




 「……そうです」




 レオン殿が言った。




 「これ、全部書いてあると分かりやすいですね」




 「まとまってるので返答しやすい」




 モリッツ殿が続けた。




 (そうなんだ。俺は面倒だったから書いただけだが)




 「では一件ずつ、方向性だけ確認します。細かい調整はガレットを通してください」




 「承知しました」




 レオン殿が言った。他の人も頷いた。




 「一件目。遺跡資料の写し——イルデ先生の報告書が完成したら、希望する機関に配布します。写しを取る手間はこちら持ちです。追加で費用は取りません。先生、報告書の見込みは」




 「一ヶ月ほどいただければ」




 「三ヶ月かかっても仕方ありません。焦らずに」




 先生が少し驚いた顔をした。




 「……良いのですか」




 「正確な内容の方が大事です。早さより正確さです」




 「——ありがとうございます」




 先生が帳面に何かを書き始めた。メモを取っているようだった。




 「二件目。魔素計測の定期報告——やります。月一回、書面で数値を送ります。フォーマットはガレットが作ります」




 「ガレット殿にお任せすれば」




 「問題ありません」




 (ガレットはいつも問題ない。頼りになる)




 「三件目。農業技術支援の窓口——ガレットに聞いてください。俺は農業の細かいことは分からないので」




 「正直なお方だ」




 モリッツ殿が小さく笑った。




 「農業の技術者と直接話す方が早いです。ガレットが間に入ります」




 「それで十分です」




 「四件目。護衛団の宿営地——南側の空き地を使ってもらって構いません。以前から使っていた場所です。次回来る前に連絡をもらえれば準備します」




 「ありがとうございます」




 エンデ殿が軽く頭を下げた。




 「五件目。文書管理——ガレット、頼みます」




 「本日の午後にカステル卿と確認の時間を取ります。半刻で終わります」




 「——助かります」




 カステル卿が言った。カステル卿が素直に「助かります」と言うのは珍しかった。




 (……いつもより表情が柔らかい気がするな)




 「六件目。遺跡の未解明区画の調査——先生、どの区画ですか」




 「東側の第三区と、北側の補助通路二本です。設計図と照合すると、本来は扉があるはずの場所が今は壁になっていて——」




 「先生」




 「はい」




 「区画名と場所を紙に書いてください。今じゃなくていいです。後でガレットに渡してください」




 「分かりました! では——」




 帳面を開きかけた先生の手が止まった。




 「……「今じゃなくていい」ですね」




 「はい」




 「……承知しました」




 マリスが横で口元を押さえた。笑っていた。




 (……マリス、笑わないでくれ)




 「以上です。六件、方向性を確認しました。細かい調整はガレットを通してください。出立前にお時間を取っていただき、ありがとうございました」




 「——こちらこそ」




 レオン殿が言った。




 「昨日から、やりやすい進め方をしていただいている。こちらも助かっています」




 「面倒くさいのが嫌いなので」




 「それが、助かっています」




 (……俺が面倒くさがることが他の人の助けになるのか)




 (なんか変な話だな)




 「若様」




 ガレットが来た。




 「はい」




 「今朝の確認の場で合意した六件を、書面にします。返答期限と窓口担当者を入れた形で。よろしいですか」




 「お願いします」




 「——今の紙、いただいてよろしいですか」




 「どうぞ」




 ガレットが紙を取った。六件の箇条書きが書いてあるやつだ。書面の草案に使うのだろう。




 全員が立ち上がり始めた。挨拶が飛び交い始めた。ガレットが各所に動いていた。




 (……昨日もそうだったな。この人は止まらない)




 「ライルさん」




 マリスが来た。




 「何ですか」




 「六件、全部三十分以内に終わりましたよ」




 「そうですね」




 「箇条書きにしたからですよね」




 「面倒だったので書いただけです」




 「それが正解だと思います!!」




 (マリスは俺のやることを全部正解と言う。ありがたいが、少し過大評価な気がする)




 「若様」




 ガレットが戻ってきた。




 「はい」




 「カステル卿が、一つだけ個別にお話ししたいとのことです。このやり方は悪くない、という話だそうです」




 「……このやり方というのは」




 「箇条書きで先に全件出す方法です」




 (……そんなに珍しいことだったのか)




 「別にただの箇条書きですが」




 「カステル卿は「正式な会議でこれをやる人は少ない」と言っていました」




 「面倒だからやらないんでしょう。俺は面倒だからやりました」




 「……理由は逆ですね」




 「逆でも結果は同じです」




 ガレットが少し止まった。それから短く「承知しました」と言って、カステル卿の方に戻っていった。




 部屋が空いていった。




 「——来たぞ」




 ドランク王が入口から入ってきた。




 「陛下、会議は終わりました」




 「知ってる。散歩中に終わった気がした」




 (……なんで分かるんだ、この人は)




 「——茶はあるか」




 「ガレット」




 「かしこまりました」




 (ガレットはどこにでもいる)




 ドランク王が椅子を引いて座った。窓の方を見ていた。




 「昨日から、あの書き方を使っているのか」




 「昨日は口で言っただけです。今日は紙に書きました」




 「何が違う」




 「口だと聞いた瞬間に終わりますが、紙は後から確認できます」




 「……なるほど」




 ドランク王が少し考えるような顔をした。珍しかった。




 「それは、お前が考えたのか」




 「今朝、面倒だなと思って思いつきました」




 「面倒から思いつくのか」




 「面倒くさくなると、なんとかしようとするので」




 (……それが合っているのかどうかは分からないが)




 ガレットが茶を持ってきた。俺の分も持ってきていた。




 「若様、本日の出立前にカステル卿との話が終わりましたら、シュタール側との窓口確認も続けてよろしいですか。合わせて一時間です」




 「……まとめておいてください」




 「承知しました」




 (また増える)




 (まあ、今日中に終われば文句はない)




 ドランク王が茶を一口飲んだ。




 「今日も悪くなかった」




 「昨日の続きをやっただけです」




 「それでも悪くなかった」




 ドランク王は窓の外を見ていた。領地の端が遠くに見えた。曇りだったが光は明るかった。




 「——また来る」




 「……どうぞ」




 (もう諦めた。毎回そう言う人なので)




 「今日は出立するが」




 「はい」




 「——来年の収穫の頃に、なんとなく来るかもしれない」




 「ゴードンさんに言ってください。種の手配の話も聞けると思います」




 ドランク王がまた笑った。声に出さない、いつもの笑い方だった。




 (この人、そういうことを言うと笑うんだよな)




 (何が面白いのかよく分からないが)




 「若様」




 ガレットが来た。




 「はい」




 「六件分の書面、草稿ができました。後ほどご確認ください。それから、本日の出立の見送りが昼前です」




 「分かりました」




 「マリスさんが玄関の準備をしています」




 「マリス、頼みます」




 「任せてください!!」




 廊下からマリスの声が飛んできた。




 (……聞いてたのか)




 窓の外で、人が動き始めていた。荷物を運ぶ従者たちの声がした。




 昨日来た全員が、今日帰る。そのための六件だった。面倒くさかったが、終わった。




 (……また来るとは言っているが、次に来るのはまだ先のはずだ)




 スキルを確認した。全域で、まだ上がっていた。北の丘は今朝また少し上がっていた。




 (……領地は動いてる)




 茶が残っていた。飲んだ。温かかった。




 「若様、次はカステル卿との話が——」




 「分かってます」




 (……終わりが見えないが、まあ、なんとかなるか)




 まずは、茶だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ