07 事情聴取
「森で決闘をしたのではない、というのだな?」
タッパは英雄教室に割り当てられている特別棟の、三階の一室にいた。
通常の引き戸の部屋とは異なり分厚いドアで廊下と仕切られた一室。
長机で一列に座っている教師五人に対して、タッパは反対側で直立していた。
「はい」
「アルタイル先生。決闘って言ったら退学なんだから、そんなこと言うわけないでしょう。ねえタッパ君?」
端に座っている教師がタッパに笑いかけた。タッパは反応しなかった。
「それで? 魔物に遭遇し、スーサ、トマが負傷したということだが」
中央の教師、アルタイルが言った。
「そのとおりです」
「君たちはなんのために、深夜の外出をしたんだ」
「散歩です」
タッパの返事に、端に座っている教師が吹き出した。
中央のアルタイルが軽くにらむ。
「いや、失礼失礼、続けて続けて」
「……大前提として、校外への外出には許可が必要だ。さらに深夜、町の外へ出る場合は町の規則で禁止されている。英雄教室だけの問題ではない。理解しているのか」
アルタイルは言った。
「申し訳ありません」
タッパは言った。
「まあ、どうにでもなりますがね」
端の教師がいちいち言う。
「それで。魔物というのはブラック・ベアだな」
「はい」
「装備は、町で購入できる一般的なものだったということだが。なぜ支給してある剣を使わなかった」
「英雄教室の授業以外で、無許可での使用は認められていないからです」
「まじめでいいねえ」
端の教師の言葉に、アルタイルは反応をこらえた。
タッパは、他の教師は発言をする気がなさそうだと感じていた。
「そうやって、魔道具の剣の使用をためらったせいで、ブラック・ベアに遅れをとったのではないか?」
アルタイルが言う。
「おっしゃるとおりです」
「しかしねえ。タッパ君とスーサ君がいて、そんなにブラック・ベアに追い詰められるものかねえ」
端の教師は首をかしげた。
「原因はわかっているのか」
「はい。まず、間を置かずに二頭目が現れないという油断がありました。さらにその二頭目は木陰ではない場所に現れたこと、通常より大きな個体だったことが原因だと考えています」
「それでも、タッパ君とスーサ君で負けるかねえ?」
なおも端の教師は言った。
「また、石を投げたり、前かがみになって防御姿勢を取るなど通常と違った行動もとってきました」
「ほう。それはめずらしいねえ? アルタイル先生」
「タッパ。非常用の魔道具を持ち歩かなかったのか? 個人の技量というプライドが優先したか」
アルタイルが言うと、端の教師が、おやおや、と目を丸くした。
「捕獲用ネットは使用しました。しかし破られました」
タッパはポケットから、昨日使用したネットを取り出し、教師たちがいる長机に広げてみせた。
ネットの引きちぎられた部分を見つけると、教師たちが集まって近くで確認していた。
一様に驚きととまどいの表情を浮かべている。
「これをブラック・ベアが?」
アルタイルはネットを手に取り、ながめていた。
「こんなものに命を預けられません」
「……話はわかった。処分についてはあとから伝える。もどっていい」
タッパは一礼して退出しようとした。
「ああタッパ」
アルタイルが呼び止める。
「ブラック・ベアが出るかもしれないとは思っていたんだろう? しかし、タッパ、スーサ、トマだと、剣二人、弓ひとりの構成だ。ブラック・ベア対策には、アンバランスなんじゃないか? たとえばそうだな。スーサに対してあと二人、タッパにもあと二人、いたんじゃないのか? そうやって、2チームで競っていたと考えるのが自然だ。そのほうが、バランスがいいだろう」
「わたしは弓も使えます」
間を置かずにタッパは言った。
「……それと。その、異常な個体から逃げ切ったという話だったが……、けが人が出て、よく逃げ切ったな。どのように行動をしたんだ?」
「必死に逃げました。では失礼します」
タッパは退出した。
「……どう思います? アルタイル先生」
端の教師は笑みを浮かべて言った。
「あのネットを破る個体がいるとは、にわかに信じられませんが、事実は事実なのでしょう」
「しかし困りましたね。これでは、アルタイル先生が推し進めている魔道具の計画が滞ってしまうかもしれない」
「大きな個体がいるというのなら、それに対応すればいいです」
「でも死人が出ていたのかもしれないんですよ? そう単純な話でしょうかねえ?」
「問題は勝手に深夜に出歩いていたことでしょう。タッパにはしっかり反省をしてもらわないと」
「ブラック・ベアを倒しに出歩いているのは、まちがいないですかね?」
「おそらく」
「大会にでも出るつもりですかね? 王都の」
アルタイルは大きく首を振った。
「それができるなら、こんな地方の学校に通っていない。それでも強行するというのなら英雄教室は退学してもらいます。残るものはなにもない。タッパもそこまでバカじゃないでしょう」
アルタイルは当然のように言った。
タッパが階段を降りていくと、タッパ班の二人が踊り場で待っていた。
「おお、どうした」
「どうでしたか」
まるですがるような視線で、タッパは笑ってしまった。
「なにも言われていない」
タッパが階段を降りはじめると、二人もついてくる。
「すいません、全部タッパさんに押しつけて。おれたちが現場にいなかったことにしてくれるなんて……」
「おれを退学にはできんだろう。それに、お前が退学にでもなったら、そっちの家が困るだろう?」
まあしかし、とタッパは思う。おおよそ、アルタイルには気づかれている。
「まずは、無事でいられたことを喜ぶべきだ。あの状況なら死人が出ていてもおかしくなかった」
「……昨日のあいつは、なんなんですか」
タッパは、昨日いたメンバーに強く口止めしたのは彼についてだった。
おそらく英雄教室側も彼の存在を把握していないだろう。ならば隠し通す。
彼らの意識を自分に向けさせる必要がある。
先を目指すために、彼から協力をしてもらう必要がある。
「あいつのところへ行くぞ」
「家を知ってるんですか?」
「薬草屋だ」




