05 競争
人数が多かったので、深夜にバラバラに寮を出て森で落ち合った。
タッパ班もスーサ班も構成は同じで、弓二人に剣ひとりだ。剣はどちらもリーダーが担当している。
昨日までの雨はあがっていたが、場所によってはじめじめと、ぬかるんでいる場所があった。
「順番にブラック・ベアと戦って、爪をとれなかったほうが負けだ。それでいいか?」
スーサが言った。
タッパは言う。
「先行が弱らせたブラック・ベアを、後攻が楽にしとめることもあるな?」
タッパが言うと、スーサは薄く笑った。
「バカが相手だと、こうスムーズには話が進まない」
「それで? コイントスでもするか?」
「どっちが先でもいいぜ。選びな」
スーサは言った。
「先行だ」
タッパはすぐ言うと、スーサはにやりとした。
「そう来なくちゃな」
おい、とスーサが呼びかけるとスーサ班は武器をいったん、各自かばんに入れた。
タッパ班はすでに用意ができている。
「始めよう」
タッパを先頭に3メートルほど離れて、右後ろ、左後ろに弓の二人がついていく。
スーサ班は10メートルほどあけて全体を見ながら歩いていた。
ブラック・ベアのような高魔力で構成される魔物には、突然現れる、というものがある。
その原因も、瞬間も詳しくわかっていない。ただ急に、魔力から魔物に変わる瞬間があるのだ。
そして不思議と、木陰に現れる確率が高い。
タッパが立ち止まった。
うしろの二人も木陰にブラック・ベアの姿を認めた。
右からの射線を確保するため、三人が陣形を保ったままゆっくり左に移動する。
タッパが左手を上げると矢が放たれた。
ブラック・ベアの顔面、右目に正確に命中。スーサは思わず声をもらした。
攻撃を受け、両前足を振り上げ大きく口を開いた。たくさんの牙がならんでいる。しかし叫び声はない。一切の声を発さないのだ。
狙いは口の中だった。二本同時に矢が飛びこんだ。
矢が突き刺さるとブラック・ベアの頭ががくん、と揺れた。
動きが止まる。数秒間、無抵抗の時間だ。
タッパが剣を抜きながら走り出した。月明かりが反射して、一瞬スーサが目を細める。
ぐんぐんと一歩ごとに、大きな体が軽やかにブラック・ベアに迫る。
頭よりも高い位置、薄く開いているブラック・ベアの口の中に剣を寝かせて突いた。
ねじってさらに突き入れる。刃が食い込んだ。
手応えを感じると同時にタッパは手を離す。
ブラック・ベアの目に力がもどり、前足を振り回したときにはもうタッパは三歩離れていた。
口から剣を生やしたような格好で、ブラック・ベアは前足を振り回す。
まわりは見えていない。頭の内部が大きく破壊され、正常な行動をとれなくなった証拠だ。
たまたま振り回した前足が、木にあたった。幹がえぐれて大きく揺れ、葉が降る。
ブラック・ベアの口の中から、黒い霧のようなものが流れ出し始めた。足取りがうろうろとおぼつかない。
タッパは二本目の剣を抜き、ブラック・ベアに近づく。
振り回す前足がだらりとさがったとき、先を切り払った。切断された爪の先端が落ちる。
ちょうどブラック・ベアの体が薄くなっていって、倒れ、すぐチリのように消えた。
切り離された爪は地面に残っていた。タッパはつまんで、二人のところにもどって見せる。
「いやおみごとおみごと」
スーサは手を叩いてタッパに近づく。
「剣を捨てるなんておもしろい発想だ。たしかに、どうせ二度と使わないつもりなら捨てたっていいな。参考にさせてもらおう」
スーサの言葉に、タッパは苦笑いを浮かべた。使い捨ては、彼のまねでしかない。
「なかなか長いじゃないか。なあ?」
タッパの拾った爪。
薬草屋にあった爪と比べるなら、指の第二関節までと、手首までを比較しているようなものだった。
タッパが冴えない顔をしていると、スーサは不思議そうにした。
「よし、おれたちもいくか!」
スーサは首をぐるりと回し、大げさに拳を突き上げた。
そのとき、タッパは信じられないものを見た。
「スーサ! うしろだ!」
三人ならんでいたスーサ班のうしろ。
ブラック・ベアが木陰に現れるというのは、あくまで、そうなることがかなり多い、というだけだ。
スーサたちの背後3メートルほどの木から離れた場所。
月の光を受けたブラック・ベアが現れていた。




