04 本物
中年男性は近くにあったブラック・ベアの爪を見た。
「買うかい?」
「自分でとるからいりません」
「ふうん。君、自分でとってるんだ?」
男性に言われ、タッパは一度言葉に詰まった。
「そうです。夜中に出かけて、ブラック・ベアに挑戦しています」
「おやおや。不良君じゃないか」
男性がからかうように言うが、タッパは口を結んでまっすぐに顔を向けていた。
「学校に言いますか?」
「うーん。そういうのは興味ないなあ。お茶でもどう?」
「いえ」
「ふふ、なんかひとつくらい買うもんじゃないか?」
「……じゃあ、カゼの薬があれば」
「はいよ」
男性は慣れた手つきで、ケースの中にあるそれぞれのスプーンからすこしずつ紙に取り上げると、軽く混ぜて、紙を包んだ。
「薬湯も飲んだし、寝る前にこれを飲んでおけばいいだろ」
「ありがとうございます」
タッパは代金を支払った。
「それで」
タッパが言いかけたときだった。
「ただいま。あっ」
入口の戸が開いて少年が顔をのぞかせた。客がいることに気づいて頭を下げる。
「バッツ、薬湯できたから、冷めたら瓶に移しておいてくれ」
「わかった」
バッツはすぐ引っ込んだ。
「いまのはうちの坊主だ。同じ学校に通ってるんじゃないかな? もちろん一般生徒だが」
「はあ」
「ブラック・ベアを倒してるのは、案外あいつだったりしてな」
男性の言葉に、タッパの眉がぴくりと動いた。
「まじめな話をしているんですが」
中年男性が笑う。
タッパはこらえた。
かんたんには聞き出せないようだ。
「……また来ます」
タッパは一礼し、重い体を引きずるように薬草屋をあとにした。
翌朝。
ベッドから出たタッパは、足取りも軽く、朝食をとりに寮の食堂に向かった。
そこで会った仲間に体調をきかれ、すっかりカゼが治っていることに気づいた。まだ二、三日は本調子ではないと思っていたが。
「ようタッパ」
パンをかじったとき、隣にスーサが座った。
「おはよう」
「カゼの調子はもういいみたいじゃねえか」
「体は頑丈なほうだ」
「なあ」
スーサは声のボリュームを落とした。
「今夜あたり勝負といかないか? どっちがブラック・ベアを倒せるか。どっちも倒せたら、数の勝負だ。なあ? あんたも、大会を狙ってんだろ?」
スーサはパンをゆっくりくわえると、見せつけるように引きちぎった。
そしてポケットから出したなにかを、トレイの端に置いた。
ブラック・ベアの爪だ。先端だ、切れ端のような長さだった。前と形がちがう。
「二頭目だ。ならんだぞ」
スーサは言った。
タッパの意識は別のところに向いていた。
やはり薬草屋で見たものとまるでレベルが違っている。
あれはどうやったのか。
時間は長くはかけられない。ブラック・ベアが死ぬと、高い魔力で構成された体は分解されてしまう。その前に爪を手に入れなければならない。だが解体などしている余裕はないだろう。最短の手順があるのだろうか。
「びびってんのか?」
タッパの沈黙を誤解したスーサがにやつく。
「やりましょうよタッパさん!」
タッパ班の男子ふたりが言った。
「かまわないが」
「決まりだ」
スーサは言うと、一緒にいた男子たちと、わざわざ離れた席に移っていった。
「やってやりましょうよタッパさん!」
「そうっすよ!」
二人は言う。
しかし、タッパの頭の中にはスーサのことなどなかった。
爪の処理方法、そして薬草屋の主人のやり方を、せめてもう一度見られないか。
あの長い爪を思い出し続けるばかりだった。




