30 本大会
王都の第一広場には特設ステージが作られていた。
ステージの奥の壁には木枠が作られ、中には特殊な板が詰まっていた。
4メートル×3メートルほどの画面が6つある。そこには遠くの状況を映し出すことができるのだと言う話だった。
ステージ前には200人以上の人が集まり、開始を待っていた。
急に画面のひとつが光った。
森だ。森の様子が映っている。
その前には、本大会開始を待つ参加者たちがいて、客がざわつき始める。映像を初めて見た者もおり、興奮したように隣の人間の肩を叩いていた。
ステージ横から、明るい笑顔を浮かべた男が現れる。
「大変長らくおまたせいたしました! これからブラック・ベア討伐大会の中継を、開始いたします!」
客席からわっ、と拍手があがった。
「ありがとうございます。司会をつとめます、ヤーヤーです。よろしくお願いします」
あらためて拍手が起きる。
「この大会は二日間に渡って行われる、若手中心の大会です。優勝チームには、豪華賞品、そして英雄学校へ編入する権利なんていうものも、希望者には与えられてしまうんですよ。わたしみたいなおっさんでも、勝てば入れるらしいんですよ?」
ヤーヤーが言うと、笑いが起きた。
「おっさんも何人か参加してるようでがんばってほしいですが、やはりみなさんが気になるのは、英雄学校の子でしょう! 今年は、何年に一度しか現れないようなすごい子が出てくるそうですよ! 他にも、現役の兵士、冒険者、貴族のお坊ちゃんなんかも出てくるそうで、非常に気になるところです! さらに今回から、映像を送信する柱は、森の中20か所も30か所にも立てられているということで、あちこち画面を切り替えながらお送りいたします! 随時、現地の担当係員が切り替えていきますので、どれだけの名場面が見られるか、お楽しみです! それでは始まるようです!」
ヤーヤーが画面を指す。
「バッツ君!」
見ると、ダジュがやってくるところだった。
「ひどいじゃないか、急に、なにも言わずにいなくなっちゃうなんて」
と言ってはいるものの、笑顔だ。
「すいません」
「まあいいさ。まじめな君のことだ、変に無理やり編入させられるんじゃなく、大会で結果を出して、胸を張って入学したいっていうんだろう?」
「……あはい」
バッツは言った。
「優勝者しか英雄学校に入れない、とは言われているけれどね。もちろん、相応の力があると見せられれば、問題ないよ。君たちも来たんだね」
ダジュは、タッパとスーサを見た。
「なにか問題でも?」
「覚悟をしている人間は好きさ」
ダジュは言いながら、二人の近くにある、巨大な槍を見つけた。
「目立ちそうなものを考えてきたんだ。うん。たしかに中継で目立つと客の受けはいいけど、入学への効果となるとどうかな?」
「実用性ですよ」
タッパは短く言った。
ダジュはうなずくと、バッツに手を振りながら離れていった。
アースラ! もう始まるんだ、なに食べてるんだ! というダジュの焦った声がどこからか聞こえた。
バッツは、平気そうにしてるスーサを不思議そうに見る。
「なんだ」
「怒らないんですか」
「怒る? なんでだよ」
「軽く見られてるっていうか」
「どうでもいい。なんでもいいんだ、いまは」
「それでは用意! 始め!」
え? とバッツが思ったときには、参加者が森へと歩きだしていた。
誰が言ったんだ? 大会が始まったのか?
そんなふうに思っているうちに、他の参加者の背中が並んで、先に進む気を失わせる。
まあいいかと腰のさやに入った剣を確かめた。
昨日、タッパに買わせた。正確にはスーサの金だが、これはブラックベアを何体切っても腐食しないらしい。革命だ! 金銭的にも大きいが、そもそも王都にしかないようなものらしい。
これなら町にもどってからも、新しい剣を買わなくてもいい。
よしよし。
などとバッツが自分に言い聞かせていると、横を誰かが走り抜けた。
アースラとダジュだ。
軽やかに、そして密集しているようにしか見えない人の間を、ペースを落とさず走り抜けていった。
「どけどけどけ!」
なにかとバッツが見ると、タッパたちだ。
大きな槍を抱えて走る二人に、周囲の、興味深いような視線や、からかうような声が聞こえてくる。
だが二人は意に介さず、突進あるのみだった。
画面の中で、最初に現れたブラック・ベアがいきなり真っ二つに切られると、客から歓声があがった。
「おっと、出ました魔剣! あれが英雄学校で話題のアースラ君ですね!」
ヤーヤーは言った。
「手元の資料によりますと、アースラ君は魔法一家でしたが、望むような魔法使いにはなれなかったようですね。ただ! 誰よりも多くの努力と、類まれなる才能によって、あのような剣を作り出し、英雄学校でも10年に一度、いや20年に一度の逸材だと言われているそうです!」
係員が、中継するための柱のスイッチを入れたり切ったりするのだが、アースラを追いきれない。
「すごいすごいすごい! これは、森中のブラックベアをひとりで全部切ってしまうのではないでしょうか。いやいや本当にすごい、これはもう決まっちゃったか? といってもブラック・ベアはまだまだいます、さあ、次に抜け出してくるのは……、おや?」
そのとき、ヤーヤーは、係員に言われて下段の画面に目を向けた。
槍を構えた二人が、ブラック・ベアに突っ込んでいき、強引に体に穴をあけて倒している。スマートさのかけらもないが、倒したあとに雄叫びをあげている様子は、目を離せない必死さがあった。
「あれは一般参加のようですねえ。お、またいきますよ。おお、おお、あんなやり方でよく倒せますね。ひやひやするなあ」
言いながら、ヤーヤーは冷静に客席、係員の様子をうかがう。
笑い声が起きた。
画面では、なにかにつまずいたタッパが転んで、スーサがつんのめっているところだった。
そこにブラック・ベアが現れると、バタバタしながらも倒した。もう二頭目だ。
ヤーヤーは、客が、アースラたちよりもあの素人くささに興味をひかれていると感じた。
「ちょっと彼らを追える? そう、彼ら」
ヤーヤーは係員への指示を始めた。
バッツが森に入って歩いていると、やっと人が散らばり始めた。
どこかで戦っているような音も聞こえてくる。
にぎやかなことだ。
しかしバッツの前には現れない。
はっとした。
これだけの人数がいる環境は初めてだ。そうなると、魔力で満ちていたとしても、ブラック・ベアが現れないこともあるのか。
大勢で同時に森にいるということを考えたことなどなかった。
ごちゃごちゃ言っていた自分がバカみたいだった。
この人数なら、足りないくらいなのかもしれない。
バッツはすこしほっとしていた。
ダジュたちは、別にバッツを責める気などないようだ。
だったら初日は勝ち残ったほうがいいかもしれない。二日目も森に入れる。
大会が終わってしまったら、この特殊な森を楽しめなくなると思われる。
ちょっとはがんばってみよう。
予選を勝ち残る条件は知らないが。
バッツは、人のすくなそうな方向へ、ぶらぶら歩いた。
そのときだ。
誰かの悲鳴が聞こえた。




