↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/32

26 高価

「あのーすいません、ブラック・ベアの爪を買い取ってくれるって聞いたんですけど」

 王都にもどったバッツは、馬車乗り場の近くにあった特設商店に入った。

 特設といっても、建物自体は以前からあるもののようだ。

 大会前専用に看板を付け替えられ、王都公式ブラック・ベア買取所、と大きく書いてあった。


「はいどうぞ」

 ハキハキした声が返ってきた。

 店は狭く、カウンターがあって店員はひとりいるだけだ。かといって雑なわけではなく、しわのない服に、髪も整っており、王都の紋章らしいものが服にあしらわれていた。

 笑顔と白い歯が印象的な女性だった。


「ええと、これなんですけど……」

 バッツは袋をカウンターに置いた。

「英雄学校の生徒さんですか? ええっと、お名前は?」

 名簿のようなものを出してくる。

「あ、まだ練習生で」

 バッツはさっきのやり取りを思い出して言った。


「ああ! この時期に、めずらしいですね」

「爪の買取りなんですけど……」

「はい確認しますね」

 バッツは無造作に一本目の爪をカウンターに置いた。

 まるまる一本の爪に、彼女が、はっ、と息をのむ。

 わずかに根元が欠け、かけらがカウンターに落ちると彼女は、ひっ、と小声を出した。


「二本しかないんですけど」

 そんな様子にかまわずバッツは二本めも無造作に置こうとすると、彼女は両手で受け止めるように

、素早くカウンターと爪の間に自身の手を差し出した。


「あの! 傷がつきますので!」

「傷? ああ、すいません」

 カウンターの傷が気になるのだろうと、バッツが爪を取り上げて袋に放り込むと、爪がぶつかり合って中で高い音を出し、彼女は、ひいいっ、と声を出した。


「気をつけてください! 高価な品物なんですから!」

 彼女はカウンターから出てくると、バッツから袋を受け取って中に入っていき、ふかふかの布が敷かれた箱を取り出した。

 そこに、慎重に取り出した爪を置く。


「このサイズ……。すばらしい……!」

 爪に向けていた、大きく開いた目をずいっとバッツに向けた。

「ど、どうも」

「コレクターの方ですか?」

「さっきとったんですけど」

「は?」


 無言で見つめ合う。


「僕が、さっき、ですけど」

 バッツはもう一回言った。

「ボクガサッキ? という地名はどこですか? もうすこし詳しくおっしゃっていただけますか?」

「え? 僕が、さっき、王都の近くの森で、ブラック・ベアから抜き取ってきたものです」

 バッツははっきりと言った。


「……」

 女性はいったん天井を見て腕組みをした。


「え、あなたがこれをたったいま?」

「はい」

「すばらしい。すばらしい!」

 大きな声で言うと、手を叩き始めた。


「え」

「すばらしい!!!」

「どうも」

「さすが、こんな時期に練習生になるだけのことはある、うん。こんなものをいつも!? 」

「言われてみれば、いつもより大きなブラック・ベアだったかもしれません。ちがいはあるんですか?」

「もちろん!」

 女性はカウンターを飛び越えるようにバッツの前に来た。


「いいですか? まるごと抜き取られた爪というのはそれだけで貴重ですが、さらに! わずかに大きくなるだけで飛躍的に価値は上昇するんです!」

「じゃあ、これを売ったら帰りの交通費になりますか?」

「どこまででもどうぞ!」

 

 そのときだった。

 思わぬ顔が店に入ってきた。


「タッパさん?」

 バッツが言うと、タッパがぎょっとしたように足を止め、バッツを見る。


「お前……」

「いらっしゃいませ」

 女性の声にはっとして、タッパはカウンターに向かった。


「これを」

 タッパは手持ちの袋から爪を出した。


「ああ、これもすばらしい」

 女性はうっとりと見つめる。

 一本、欠けのないしっかりした爪だった。


「これで大会にエントリーできますか」

「大会参加希望者ですね? ええ、もちろん」

「エントリー?」

 バッツは言った。


 女性がなにか書き始めたので、タッパが振り返って小声で言う。

「君の店に売っていたものを買わせてもらった。スーサの資金力に物を言わせてしまったよ。早めに来て練習をすることにした」

「大会に出るんですか?」

 諦めたと聞いていたが。


「君も参加するようだな。爪を出したんだろう? おれが持ってきたよりも立派な」

「爪を出せば大会に出られるんですか」

「ここはそういう受付だ」

 それもそうか。


「でも、大会なんて……」

 バッツは言いかけたが、そのとき森の様子が頭によぎった。


 町の近所の森とは全然ちがっていた。

 言い方はおかしいが、あんなにブラック・ベアが気軽に出てくるなんて。

  

 もうすこしじっくり見てみたい気もする。どうせ二度と来ることはないのだ。いましかチャンスはないだろう。それに、そんなに質のいい爪が高く売れるなら、使い続けられる剣を買えるかもしれない。父へのお土産だって買えるだろう。


 当日までは身を隠したほうがいいか。


「大会、出ます」

 バッツが言うと、タッパは満足そうにうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。