25 王都の森
「そうだよ。ブラック・ベアの森に行く馬車だよ」
馬車乗り場の近くにいた中年男性は言った。
「ブラック・ベアの森があるんですか」
「そりゃあるよ。もうすぐ大会があるんだよ、知らない?」
バッツはふと気づく。
「ブラック・ベアの爪って売れますよね」
「爪が売れないならブラック・ベアなんて危険なだけだからねえ」
「ブラック・ベアの森に連れていってもらえませんか? そこまでのお金もかかります? 交通費を稼ぎたいんですけど」
「ブラック・ベアの森も知らないのに大丈夫? 死んじゃうよ? あのね、ブラック・ベアって危ないんだわ。……あれ?」
彼はバッツの服に目をとめた。
「なんだよ。からかってんのかあ」
彼は、ぴしゃっ、と自分のおでこを叩いた。
「え?」
「英雄学校の生徒さんが、ブラック・ベアを知らないなんてそんな」
「英雄学校」
この服が、とバッツは自分の服を見た。
朝用意されていた、練習着のようなものだった。動きやすそうだったので制服よりいいと思って着たのだが。
「ん? でもそれは練習生の服だよなあ。この時期にそんなの着てる子いたっけな?」
「ええと」
「まあ、動きやすい服が一番だ、うん」
「ええと、まあ、そんなもんで」
「ははっ、おれは察しがいいってよく言われるんだ! でも、手ぶらじゃさすがにまずいんじゃないの?」
「はい。手ぶらは……」
バッツは、馬車の中にいくつか置いてある剣を見た。
「あれは?」
「ああ、あれは途中で小さい魔物が出てきたら追い払ったり」
「あれを使わせてもらえませんか?」
「ええ?」
「げ、現地調達、そう、武器もできるだけその場で調達できるようにするっていう、その、あれです。支払う必要があったら英雄学校が払いますので」
「へえ」
正門の出入りも、やはり英雄学校の制服が効力を発揮し深い追求はなにもなかった。門番がバッツの顔を覚えていたのも大きかったのかもしれないが。
バッツは彼の操る馬車で門を出ると、近くの森までやってきた。
王都に来るときには角度的に見えなかったが、徒歩圏内だ。
「馬車じゃなくてもよかったんじゃないですか?」
「ケガする子もいるからね」
歩けなくなる人もいるのか。
森の入口で馬車が止まる。
そこでバッツは気づいた。
「あの、すいません、もどってもらえますか」
「どうした?」
「昼なんで……」
「昼飯か?」
彼は笑った。
「いやそうじゃなくて、昼はブラック・ベアは出ませんよね?」
「出るが?」
うながされてバッツが森に入っていく。
中には獣道ではない、左右に杭が刺さっている道が通っていた。
空気は冷たい。
そしてブラック・ベアが現れた。
バッツはすぐ爪を回収した。
不思議だ。明るい森でブラック・ベアが現れるなんて。
バッツはまわりを見ながら、さらに入っていった。
肌にピリピリとしたものを感じる。
手の産毛が静電気でも感じるようにパリッと痛んだ。
どこからでもブラック・ベアが現れそうな気がする。
バッツは足を止めてまわりきょろきょろと見た。すると現れる。
家の近所の森に、深夜で出てくるよりもペースが早い。
しかも大きい。
爪もひとまわり大きなものが取れた。
こんなにブラック・ベアが出てきそうでいいのだろうか、とバッツは思った。
ピリピリと肌に感じる。
ずっと何体ものブラック・ベアに見張られているかのようだ。
見回し、木々の近くにも目を凝らしても姿は見えないが。
やはり雰囲気がちがっている。
ただ地形の違いとか、それだけではないような……。
もっと奥に行ってみたい。
そう思ったのだが、借りた剣二本が腐食してしまってもうあと一本しかない。やはり特別な剣ではなく一頭あたり一本で消費してしまう。
バッツは仕方なく森の入口に引き返した。




