24 撤収
連れていかれた訓練場は、パワーに編入試験を受けさせられたところと同じ場所だった。
バッツは他の生徒に見守られる中、すぐ負けた。
最後は、足をかけられて倒れる寸前、手首を持たれ、転ばないように気を遣ってもらったくらいの差があった。他にもいろいろな差があっただろう。
「どうも」
バッツは、手首を持っていたシグマに礼を言った。
「じゃあ、これであなたに大会参加? の権利がいったわけですね。お疲れさまでした」
とバッツが離れようとしたが、ぐっ、と力が入って手を離さない。
バッツは不審そうにシグマを見た。
「おれたちのチームに入らないか」
「ん?」
バッツは彼を見た。時間がもどった?
「ちょっと待った!」
リルラが手をあげてやってくる。
「勝手に勧誘始めないで! わたしたちだって仲間に入って欲しいんだから」
「おれたちもだ。勧誘したい」
手をあげて近づいてくる生徒が他にもうひとり。
「きみの能力は非常におもしろい。うちならもっと有効活用できるだろう」
「わたしたちのほうが有効活用できるんだけど!」
「はいはいはいはい」
シグマがパンパンと手を叩いた。
「バッツ。今回の大会に出たいなら、うちのチームに入るしかないぞ。出場はうちに決まったからな」
「は? なんで?」
リルラが言う。
「もう挑戦は受けないからな」
「なに言ってんの? あんた、まだ挑戦受けてないでしょ」
「挑戦権を奪取したチームは、その日は挑戦を受けなくてもいい」
シグマがにやりとした。
「この……! ねえバッツ君」
リルラが笑顔でバッツに近づく。
「今年の大会はだめかもしれないけどさあ、うちに入らない? ほら、大会だけがすべてじゃないしさ。ね? うち、女の子ふたりだけだよ? 他のことも目指していかない?」
リルラが首をかしげてにっこり笑った。
「筋肉ゴリラが色目を使うな」
と言ったシグマは、見えない角度からのパンチで床に倒れた。いつの間にか背後にいた女子が見下ろしている。
「なんでそんなに勧誘してくるんですか?」
バッツは白目をむいて倒れているシグマを見ながら言った。
「英雄として活躍する以上、チームっていうのは欠かせないんだから。バッツ君は充分、すごい力を持ってるよ。シグマみたいなインチキ野郎じゃなくてさ」
「……誰がインチキだ」
シグマが意識を取り戻した。
「あんた、能力を知った、みたいなこと言ってるけど、調べただけでしょ。編入試験でものぞいてたんじゃないの?」
「そんな証拠があるのか」
「バッツ君は譲ってよ」
「おれも」
もうひとりが手をあげているが無視されている。
バッツはそんな三人を見てから、うなずいた。
「あの」
「決めた?」
「ちょっと、トイレに行ってきていいですか」
「ああ、どうぞうどうぞ! じゃあいまのうちにわたしが、大会の挑戦権も奪っておくからね」
リルラは腕で立派な力こぶをつくった。
「やらないと言ってるだろ」
「誰か、第4枠の最終日を盛り下げるつまんないやつがいるって、パワー先生に言ってきて!」
「やめろ!」
バッツは、にぎやかな訓練場をあとにして、そのまま玄関から校舎を出た。
なにを盛り上がっているのか知らないが。
チームとかそういうことよりも、もはや英雄学校全体への興味を失っていた。
誰かと組んで上を目指す気もないし、そもそも争う気がない。
たしか、どんどん退学者が出ていくという話もしていた。勝ち残った一部の人間が、英雄として扱われ、さらに重要な役割を与えられるのだろう。
しかしバッツのイメージする将来に、そういうものはなかった。
英雄の将来像を与えられることで、自分は、そういうものと対極なのではないかと感じ始めていた。
光の当たる英雄に興味はない。
夜の森で静かにしていればいい。
アースラや、タッパたちの話を聞いて心が動いた気がした。しかし、実際はどうなのか、ここでよく確認ができたように思う。いつまでもグダグダと考えるのではなくすぐわかってよかった。
きっとバッツは、英雄になりたいわけではない、と確認がしたかったのだ。
おそらくそうだ。バッツはだんだん、確信を深めていった。
タッパたちから受ける高い評価に、居心地の悪さを感じていたのだ。
英雄だとかそんな特別なものではない。
そんな力はないと証明したかった、といってもいいのかもしれない。
事実、ここにはそんな人がごろごろいるじゃないか。
訓練場の彼らも、バッツに過剰な評価を下そうとしていた。
だがわかっただろう。バッツは誰かと組んで高みを目指す気がないことに。
馬車に乗って町に帰ろう。
そう思って、バッツは、はっとした。しまった。荷物がない。
父にもらった交通費も置いてきてしまった。
あの宿にこっそり侵入しようとしても見つかってしまう気がする。
どうする。
そのとき、ふと目に止まったのは、ブラック・ベア狩り用の馬車乗り場、という看板だった。




