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21 試験

 英雄学校の敷地内は想像以上に広く、校舎と寮、他にも建物がいくつかあり、校庭も三面もあるという。

 バッツたちは石畳の道を歩いていた。整えられた植物が配置され、品が良い雰囲気で嫌味はなく高級感があった。

 そのせいでバッツは居心地が悪かった。自分が田舎者なのではないかと突きつけられている気分だ。意味もなく周囲をうかがってしまう。


「屋根付き訓練場まであるんですか」

「ここがそうだよ」

 校舎とつながっている廊下から入るようだが、バッツ、ダジュ、アースラの三人は、外から直接、外玄関から屋根付き訓練場に入った。


「それを履いて」

 スリッパに履き替えた。スリッパといっても足への密着度は高く、ちょっとした運動なら問題なくこなせそうだ。


 床は板張り、校庭と比べれば狭く感じるかもしれないが天井は頭の上よりずっと上、5メートルくらいある。おまけに練習場に柱は一本もなく、周囲の壁だけで天井を支えているようだ。

 訓練場の中央までやってきて、どうだい? とダジュが自慢気にバッツに言った。


「それで、宿は?」

 さすがにバッツはきいた。

 ビーンによれば、日暮れのタイミングでバタバタと部屋が埋まっていくらしいのだ。特に、仕事を終えた冒険者が泊まるような手頃で安全、しかし華やかさに欠けるような、いまのバッツが求めている宿が。


「先生」

 ダジュが頭を下げた。

 

 校舎側の入り口で応えるように、片手をあげた男性がやってくる。体が大きく動きやすそうな服装をしていた。

「ふたりとも、いま帰ってきたのか!?」

 練習場に響き渡るような大きな声だった。


 40代くらいか。バッツは父と同年代に見えたのでそう見当をつけた。

 しかし体つきはまるでちがう。アースラよりも大きく、筋肉でパンパンだ。

 ブラック・ベアとまでは言わないが人間離れしている。


 ずかずかと大股でやってくる。

「彼がバッツ君か!」

「は、はい」

「よおし! うおおお、バッツ君! パワーだ! パワあああー!!!」

 彼は腕を曲げ、上腕の筋肉を盛り上げてバッツにアピールした。


 バッツは彼を見て、助けを求めるようにダジュを見るが、ダジュはほほえむだけだった。


「え、ぱ、パワー」

 バッツは控えめに腕をあげた。


「そう! パワー先生と呼びなさい!」

 人名だった。


「パワー先生、ですか。はじめまして」

「うむ!」

 すごい力でバッツは握手された。いや、力はほどほどなのだが、岩でも握ったようだ。

 バッツの握る力がまったく相手に反映されていないのではないか。その気になれば、バッツの右手がトマトのように潰されてしまうだろう。


「では、バッツ君。いまから試験をするぞ!」

「試験?」

「そうだ!」

 バッツはダジュを見た。


「ちょっとなにか、話がおかしいような……」

「君ならだいじょうぶだよ。これで宿も確保できる」

 宿の、試験?

 ベッドの使用法とか、掃除の点検とか、そういうことがあるのだろうか。

 ビーンからは聞いた覚えはないのだが。


「君の得意技については聞いている! さあ! このわたしにかけてみせたまえ!」

 両手を掲げ、パワーは白い歯を見せた。


 なにを言っているのか。

 バッツには、なにもかもがわからない話ばかりだ。 


「あの」

「さあ! さあさあ!」

 ビリビリと、鼓膜に響くような声だ。

 会話をする気はないのかもしれない。


 とにかくやるだけやろう。バッツは腕をだらりとさげた。


 パワーを観察する。

 体は大きいがブラック・ベアほどではない。爪も牙もない。人間だ。

 だが不思議と、ブラック・ベア以上の圧力を感じる。なぜだろうか。


 疑問の中でもバッツの体はパワーの動作に反応していた。

 前進しようとしたパワーがわずかに動いただけで止まる。

 表情に、驚き、それから喜びがあったのはなぜか。


 バッツは前に出る。

 動作を妨害されたパワーは、それでも興味深そうに、接近してくるバッツを見ていた。

 前に出ていって、パワーの右肩をさわった。


「これでいいですか」

「す……」

「す?」

「すっばらしい!!!」

 パワーはバッツを抱えあげると、ひとりで胴上げを始めた。

 バッツの体がクッションのように軽々と宙を舞う。


「ちょっ! やめ! くださ!」

「すばらしいぞ!」

 数回放り投げられたが、痛くもなく、大事に扱ってくれているのはわかったのでバッツはしばらく身を任せるしかなかった。へたに動いて落とされてはたまらないから、空中で、変に体の形を変えないように、ふんばり続けた。


「彼に部屋を使ってもらってもいいですか?」

 ダジュの言葉にパワーは、やっと胴上げをやめた。

「もちろんだ!」

 ふわり、とバッツをおろす。

「さっき到着したばかりなんです。部屋に案内してもいいでしょうか?」

「ああ! ゆっくり休みたまえ!」

「では行こうか」

「ここ、宿屋じゃないですよね?」

「バッツ君はおもしろいな!」

 パワーが笑った。


 全然会話してくれない。


 まあでも、宿の試験には合格したようだ。

 バッツはなにひとつ飲み込めないまま、靴を持ってきて、ダジュと、アースラと廊下を進んだ。

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