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17/32

17 分岐点

 そう言われなかったが、やらないと終われない雰囲気だったので、バッツは仕方なくもう一頭ブラック・ベアを倒した。

 チリのように消えていくブラック・ベアだったものが、妙にバッツにまとわりついて感じた。


「……バッツ君。魔道具で、あるんだよ。ブラック・ベアの動きを止めるものが」

 ダジュは困ったように言った。

「それは便利ですね」

「でも君のは。たしかに魔道具ではない……。魔力も感じない……」

 ダジュが手元、懐中時計のようなものを見ながら言った。


 ダジュが顔を上げ、バッツをじろじろと見た。

「君は、本気で、進路に悩んでいるのかい?」

「え? そう言いましたよね」

 ダジュは、何度か言いかける。


「……バッツ君。よかったら王都に来るかい?」

 その瞬間、タッパとスーサが目をむいた。

「王都?」

「ああ。そこでぼくらは」

「ちょっといいか!」

 アースラは腰から棒を抜いて、バッツに手招きした。


「はい?」

「やろう!」

「やろう?」

 アースラはバッツに向かって棒を構える。

 ブゥン、と低い音がして、光の剣が浮かび上がった。


「え?」

「君の技をもう一度やってみせてくれ! やらないと、たたっ斬ってしまうぞ!」

 アースラが嬉々として歩きだした。


 バッツはダジュをちらりと見たが、諦めたような顔をしている。

 それでは困る。バッツは、ダジュとは違ってアースラに関しては、コミュニケーションが成立しないかもしれないと疑っているのだ。


 バッツは急いでアースラの動きを止めた。

「む?」


 バッツは一歩ずつ、ゆっくりと前に出ていく。

 急いで終わらせよう。

 アースラから目を離さないようにしたまま枝を拾った。

 あと5メートル、4メートル、3メートル。

 動きを止められたアースラにせまるバッツが、枝をアースラの首筋に近づけたときだった。


 こつん、と頭になにか当たった。

 意識が逸れる。

 その瞬間、にゅっ、とアースラの剣の先端が伸びてバッツの眼前に迫った。

「うわっ」

 バッツは思わずのけぞる。

 そのとたん、アースラは急接近。

 バッツが動きを止めようとする前に視界から消えると、抱えあげて肩車した。


「はっはっは! わたしたちの勝ちだ!」

 アースラは笑いながら走る。

 バッツは振り落とされないようアースラの頭にしがみついた。目隠しに近いくらい視界をさえぎられたのにも関わらず、アースラは笑いながらぐるっと走ってくると、しゃがんでバッツをおろした。


 腕を軽く動かし、投げるマネをするダジュが、バッツを見て笑っていた。


「君の技はおもしろい、だが経験不足だ! 無敵なんて言えないぞ? はっはっは!」

「いや、別に、無敵なんて……」

「うん?」

 アースラは、おいおい、と肩をすくめた。


「いまのは油断しただけだ、お前なんて楽勝だ! すぐにでも無敵になってやる! と返すところだろう!」

「え?」

「たしかに、一対一なら、わたしは死んでいただろう! 非常に、非常におもしろいじゃないか!」

 アースラはバッツの背中をバンバン叩いた。


「つっ、は、はあ」

「バッツ君」

 ダジュが言う。


「君……、英雄学校に見学に来るかい?」

「英雄学校って」

 バッツはタッパを見た。


「どうも君は、わかってないことが多すぎるようだ。きっと英雄教室では、君を持て余してるんじゃないかな?」

「英雄教室」

「進路について困ってるというのも嘘ではなさそうだし、ここは」

 ダジュが言いかけたが、アースラが大あくびをする。


「眠いな! 帰るぞ!」

 アースラは、問答無用とばかりにダジュの腕をつかむと、引きずりそうなほど強引に歩きはじめた。


「ちょ、アースラ! 待て!」

「はっはっは!」


 二人の背中が離れていく。

 昨日までのバッツだったら、そのまま見送っていただろう。

 いまでも英雄になりたいわけではない。

 なりたいわけではないから?

 バッツの中で奇妙な矛盾を感じながらも、彼らに向かって言っていた。


「その話、もうすこし聞かせてください」

 アースラたちが振り返った。




「いただきます」

 数時間後、朝になり、バッツは父と朝食をとっていた。


「あのさあおやじ。王都まで行ってもいいかな。来週いっぱいくらいだったと思うんだけど」

「ん?」

 バッツの父はパンの上から落ちそうになっている半熟卵から、バッツに視線を移した。


「なんだ?」

「ちょっとさ。王都の学校に通ってる人と知り合ってさ。その人が、帰るときに馬車にのっけてってもいいっていうんだ。それだと、片道の交通費がかからないから、行くならお得だなって思って」

「なんかあるのか」

「……やっぱり、やめとこうか」

「なんだ。言ってみろ」

「大会があるとか、言ってて」

「なんの」

「ブラック・ベアを倒す大会だって。成績がいいと、いろんな商品がもらえたり、英雄学校に入れたりするんだってさ」

「お前、英雄学校入りたいのか」

「そっちは興味ないんだけどさ」

「ないのか」

 バッツの父はふっと笑った。


「なに?」

「いいぞ」

「え?」

「なんだ」

「そんなあっさり」

「別にいいだろう」

「何日かかかるかもしれない。その間、ブラック・ベア狩りは休むことになるけど」

「それはやっておく」

「え。じゃあ、いいの?」

「言ってるだろうが。王都だろう? 帰りの交通費なら出してやる」

「いつもはケチなのに」

「たまにはな」

 どんな面倒な話になるだろうと思っていたバッツは、拍子抜けしてしまった。


「お前がそんなことを言うのはめずらしいからな」

 バッツの口にしていない疑問に答えるように、父は言った。

 それがうれしいような、居心地が悪いような、不思議な気分だった。

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