16 魔力剣
ダジュたちが歩いてくる。
「君はたしか、昼に部屋に来たよね?」
「はい。バッツです」
「そう。進路に悩んでるバッツ君だ。うん」
ダジュは軽くうなずいた。
髪の毛がさらりと流れ、黒い髪の表面を月明かりが動いた。
「なかなか人が悪い」
「え?」
「君も英雄学校編入を狙ってるんだろう?」
見れば、やってきたのはダジュとアースラだけではなかった。
タッパやスーサもいる。
「バッツ君も来てたのか」
タッパは言った。
「将来のことがわからないっていうのは、なにか、ぼくを試してたのかい?」
ダジュはバッツを見て言った。
「試す?」
「まあ、いいさ。約束通り今度はぼくらの番だ。君たちには手際を見せてもらったからね」
ダジュはタッパたちを見た。
「アースラ、やろう」
「うん?」
アースラは意外そうにした。
「今日は見るだけでいいんだろう?」
「だからね? さっき、見るだけでいい、って言ったのは『いまは彼らが倒す番だから見るだけでいい』っていう意味だから」
ダジュが言うと、アースラは首を振る。
「いいや。今日なにをする? ときいたら、見ているだけでいいと言ったんだ。つまり、今日は見ているだけでいい日だと考えるのが妥当だろう? うん?」
アースラは得意げにしている。
ダジュがため息をついた。
「わかった。ぼくが悪かった。言い直す。今日は彼らがブラック・ベアを倒すのを見て、それから、英雄学校に通っている僕らが倒してみせる。そういう日だ」
「最初から素直にそう言えばいいんだ。でも、謝れてえらいぞ、ダジュ」
アースラが微笑みながらダジュの頭をぽん、とやると、ダジュが一瞬、顔をひきつらせた。
「さて……」
ダジュが表情を元通りにすると、ポケットから鈴を取り出した。
手元でわずかに振る。音は聞こえない。
だがすぐのことだった。10メートル先、木陰に、ブラック・ベアが現れた。
タッパ、スーサも、無意識に剣の柄に手をそえる。
アースラは剣を抜いた。
というより、腰に差していた棒を抜いた。
細い円柱形の棒を両手で握っている。
ふっ、と剣が浮かび上がった。
青白い、剣の形をした光だ。
「魔道具か」
スーサが言った。そこには、自分たちは一般的な武器でブラック・ベアを倒したという自負がにじんでいた。
「いいや」
ダジュが待ってましたとばかりに否定する。
「では?」
タッパが問うが答えはない。
代わりに、アースラは一気に走り出した。
どっどっどっ、と大股であっという間に接近する。
待ち構えていたブラック・ベアは素早く振り上げた前足をアースラへと叩きつける。
なにかが飛んだ。
空中を、黒い煙を出しながら回転してスーサの前に落ちたのは、ブラック・ベアの、肘から先だった。
すぐ分解されて消える。
アースラは前に出ていた。
青白い剣でブラック・ベアを左肩から右脇腹へ袈裟斬りにし、それを切り返した。
ずるずるずる、と時間差でブラック・ベアの体が斜めに切れて落ちていくと、地面に当たってチリのように消えていく。
最後は立っていた下半身が消えていった。
「どう見ても魔道具だろ」
スーサは言った。
バターをナイフで切るにしてももうすこし抵抗があるだろう、とバッツは思った。
「あれは魔力だよ」
ダジュは言った。
「魔法?」
バッツが言った。
「いや、魔法ではない。攻撃魔法はもう絶えているからね。あれは単に魔力だ。それを形にしてみせているんだよ。魔法剣っていうやつさ」
「それって、魔道具の元になったようなものですか?」
「ああ」
「へえ、すごい」
バッツののんびりした調子に、ダジュはちょっと意外そうにした。
それからタッパとスーサを見た。
「君たち、いまのを見てどう思う?」
「……」
「そんなに悪くないと思うけど、大会参加は諦めたほうがいいんじゃないかな?」
「どうしてあなたにそんなことを言われなきゃならないんです?」
ダジュは軽くため息をついた。
「言っちゃったほうが話が早そうだね。ぼくらはさ。英雄教室に呼ばれて来たんだ。ちょっと困った生徒がいるから、彼らに諦めさせてくれないか、って」
「は?」
タッパがついダジュをにらみつけて、すぐ表情をもどす。
ダジュは満足そうに笑う。
「英雄教室が、授業料に比べて、質の高いことを教えてるのは知っているだろう? それを一般生徒の授業料で取り戻してバランスをとっている。君たちに対する投資だよ。それをムダにするのはやめてくれないかな? ということさ」
「おれたちにそんなことは関係ない」
「じゃあアースラに勝てるかい? というより、争うことができるかな? 近いレベルまで行ける?」
「……」
タッパは低く、なにか言ったがバッツは聞き取れなかった。
「やるのは自由なんじゃないんですか?」
バッツが言う。
「聞いてた?」
「二人は、退学になってもいいって言ってますよ」
「言っておくが、君たち英雄生徒は、迷惑をかける側じゃない。迷惑を抑止する側に立つ人間なんだ。その価値を捨てることは許されない。他人のために働くんだよ」
「すごいじゃないですか」
「そして自分をあまり高く見積もりすぎないことだ」
「……」
「君もだよバッツ君。おもしろいことをしていたようだが、それは魔道具の凄さだ。君の凄さじゃない」
「そんな高いもの使ってませんけど」
「使っていただろう」
「買えませんよ」
「は?」
ダジュはぽかんとした。




