14 質問
「君の宿屋に英雄学校の生徒が泊まりに来たのか」
「はひ」
バッツとビーンは食堂の席についていた。
その二人を両側からはさむようにして、タッパ班、スーサ班の6人が座って食事をとっている。ビーンに対し肉体的な拘束はなかったものの、連行されたようなものだった。
彼らの周囲には何事かと見ている生徒たちも少なくない。それもビーンに対するプレッシャーだったが、タッパたちはまるで気にしていなかった。
「彼らはどういう話をしていた」
タッパはビーンの隣で食事にも手をつけず、じっと見る。周囲の人間までは届かない声量だ。
「ブラック・ベアを、あの、森が、ええと」
「落ち着いて話してくれ。そうだ、食事もしてもらってかまわないぞ」
「はひ」
そう言われてやっとパンをかじったビーンだったが、もそもそと、見るからに食欲を感じさせない。
「迷惑をかけてるっていう自覚あります?」
バッツが言うと、ビーンがぎょっとした。
「お、おい」
「話を聞きたかったら、とりあえずビーンの方を向かないでもらえます? それとも、ちょっと陰口を言われたら暴力で言うことを聞かせたりするんですかね」
バッツがなおも言う。
「おい」
スーサがなにか言いかけたが、タッパが首を振った。
彼らは、それぞれの前方を見た。
「彼らはなんのために来たと?」
「その人たち、なにしに来たって?」
バッツはタッパの言葉にかぶせて言った。
「あ、なんか、ブラック・ベアを倒す練習のついでに、この町に来たってさ」
「わざわざ?」
「いやー、なんか、王都の近くにあるブラック・ベアが出る森は、しばらく自由に入れないって言ってたんだよな」
「大会が開かれるといっていただろう」
タッパがビーンを見ずに言った。
「はひ、そうだったかもしれない、です」
「大会?」
「ブラック・ベアを倒した数を競う大会だって。変わってるよなあ」
「英雄学校の生徒が出る? なんのために」
タッパがビーンを見た。
「へ、は、ほの……」
「こっち向かないでください」
バッツが言うとタッパは目の前の料理に視線を落とした。
ビーンが続ける。
「その大会で勝つと、いろんな商品がもらえるから英雄学校からも出るんだってさ。あ、英雄学校に入るっていうのもあるんだってよ」
「なあビーン、さっきから英雄学校って言ってるけど、英雄教室だろ?」
バッツが言うと、ビーンだけでなくタッパたちも、不審そうにバッツを見た。
「英雄学校なんてないだろ。それじゃまるで学校まるごと英雄教室みたいじゃないか」
「そうだよ」
「え?」
そこでようやくバッツは、自分に向けられている視線に気づいた。
「英雄教室は、英雄学校のような人材を一般の学校で育成できないかという目的でつくられた、いわば、下位互換だ」
タッパが言った。
ビーンが肘でバッツを押す。
「あ、すいません」
そういえば、そんな話を前に聞いたような気がする、とバッツは思った。
「いやいいんだ。一般生徒は、興味ない者はそんなことを知らないだろう」
「知らないのはこいつだけ、っすから! こいつがものを知らないだけっす!」
「でも、自分でブラック・ベアを倒せるんなら」
「おい」
スーサが言う。
「ブラック・ベアを倒すというのは、あまりおおっぴらに言うことじゃないとだけ覚えておいてくれ」
タッパが言った。
「ついでに言っておく。……おれたちもその大会に出るつもりだ」
タッパは小声で言った。
「おいタッパ」
「いいんだ。ビーンと言ったな。君にも、店の客の情報を聞き出しているようなものなんだ、おれたちもそれくらいは言う。英雄教室の生徒がそういう一般の大会に出るのは禁じられている。大会におそらく退学になるだろう」
「は?」
バッツは思わず高い声が出た。
「ビーン。英雄学校の彼らと話をしたい。どうだ?」
「え、えっと……」
「英雄教室の人間が話をききたいから、と素直に言ってくれるだけでいい」
「いってみまふけど……」
「よし。午後の授業の準備だ」
そう言うと、タッパたちはすごい速さで押し込むように食事をとると、去っていった。食器から口の中へ移し替えているかのような速度だった。
バッツは彼らが見えなくなるまで目で追っていた。
放課後。
ビーンの両親が経営している宿屋、そこにビーンの案内でやってきた。
二階の広い部屋にビーンがノックする。
「はい?」
中から声が返ってきた。
「あの、すいませんビーンです! その、もしよかったらなんですけど……」
ビーンが言いにくそうにしているとドアが開いた。
ダジュが不思議そうにしていた。
「なんだい?」
「あの、学校の友だちなんですけど、英雄学校の人にちょっと話をききたいっていうんですけど……。あ! 本当に無理だったら全然いいんで、はい」
ダジュはビーンのうしろを見た。
タッパたちではない。
バッツが、神妙な顔でそこに立っていた。




