13 来訪
「今度さあ、剣、買おうかと思うんだよなあ」
登校中にビーンが言った。
「剣?」
バッツが聞き返す。
「やっぱさ。剣、ってかっこいいじゃん」
「魔道具は?」
バッツの返事に、ビーンが深くため息をつく。
「わっ……かってねえなー!」
ビーンは咳払いをした。
「剣!!! ほら、かっこいいだろ? 魔道具ぅ……。ほら、ださいだろ?」
「言い方だろ」
バッツは笑った。
「だからさー! そうだ、剣は、使ってるやつが強いだろ? 魔道具は、魔道具が強いじゃん。な!」
「あー。たしかに」
「だーろー? やっぱ剣なのよ。剣」
「おいビーン、うしろ」
「いいか?」
と後ろ歩きしていたビーンの背中が誰かに当たる。
どん、と跳ね返されるように前のめりになったビーンは、振り返って固まった。
大きな体の男がビーンを見ていた。
横にもひとりいる。そろったデザインの服だ。白い服に金色の刺繍がされている。
年齢的にはバッツたちと同世代に見えるのだが、年上に感じられる。それこそタッパよりも。
「……なんだ?」
ビーンがぶつかった相手が言った。
「君は、わたしの知り合いだっただろうか?」
続けて彼は言う。
「え? いや、初対面です……」
ビーンはとまどいながら言った。
「ああ、もしかして、ケンカを売られたということか?」
彼は地面を踏みしめ、ビーンを見る。
「え? え? え?」
「かまわんぞ! さあ来い! いや、こちらから行くのが礼儀というものか! いくぞ!」
どん、と踏み出し気合を入れたとき、一緒にいた人が間に入った。
「あーごめんねキミ。おいアースラ! ボケてんじゃないよまったく」
「ダジュ。お前も見ていただろう?」
アースラ、は言った。
「見てた見てた、彼がうっかりお前にぶつかったんだよ」
ダジュ、がため息まじりに言う。
「ダジュ。お前にはそう見えたかもしれない。だが、わたしと彼は、これから拳を交えて戦うのだ!」
「ほへ?」
ビーンが間の抜けた声を出した。
「ほらいいから、お前が馬車と話してるから予定が遅れてるんだよ!」
「はっはっは! ダジュ! わたしは馬車とは話していない。馬車の御者だ。馬と話すのも難しいが、馬車と話すとなると、さすがに、馬車と、話す……」
急にアースラが吹き出した。
「はっはっは! ば、馬車と話せるわけがないだろう! おもしろいことを言う!」
アースラは大きな体をゆすって笑っている。
ダジュは呆れたように腰に手をあててアースラを眺めていたが、はっとして、バッツたちに向き直った。
「あ、ごめんね登校中だった? ぼくらはもう行くから気にしないで。アースラ! えーと、そら豆亭だったな。さっさと宿屋言って荷物置くよ! もーお前が地図なくすから……」
ダジュは頭を振る。
「その上、馬車と話していたからな? ぷっ、はっはっは! ……なにがおもしろい」
急に真顔になったアースラに、ダジュが肩を落とした。
「あの……、そら豆亭だったらうちですけど」
ビーンが言うと、ダジュは、はっと振り返る。
「え?」
「うち、宿屋やってるんですけど、そら豆亭っていう」
「嘘!?」
「よかったら、宿まで案内しましょうか?」
「でもこれから学校だよね?」
「平気っすよ。今日は早めに家、出たんで」
「悪いなあ」
「お客さんを連れて行くのに迷惑なんてことないんですよ!」
ビーンはバッツに向き直る。
「悪い、先行ってて」
「わかった」
バッツはアースラたちに軽く頭を下げて、学校に向かった。
ビーンは昼休み、教室で他の生徒たちに囲まれていた。
朝の彼らについての話で、もちきりだった。
最初は、ビーンはバッツに話していた。漏れ聞こえてくる話に興味を持って近づいてくる生徒が、休み時間ごとに増えていったのだ。
いまや、昼食にも行かずに何人もの生徒がビーンの話を聞いている。
「で、やっぱりすげーんだ。王都の英雄学校の生徒ってのは」
ビーンが顔をやや紅潮させながらクラスメイトに語りかける。
「どうすごいんだよ」
「英雄教室じゃないぜ? 英雄『学校』! 制服もめちゃくちゃ高そうでスマートなのに、全然偉そうじゃなくてさ。ほら、うちの英雄教室ってけっこうあれじゃん?」
ビーンが言うと笑い声が起きた。
「言い過ぎ!」
「でもけっこうきっついなあ、ってときあるだろ? ところが! 英雄学校の人は全然そんなことないわけ。ま、ちょっと変わってんだけどさ。超強そうなのに」
ビーンがオーバーな動きを交えて話していると、クラスメイトたちは集中して聞いている。
じゃまをしたらよくないかと、バッツがひとりで食堂に行きかけたとき、あるものを見つけた。
クラスメイトの一部も、それを見つけた。
徐々に笑い声が減っていき、人の数が減っていく。
原因に気づかないビーンは、悪くなった反応をやっきになって取り返そうと、話に熱を持たせようと力が入る。そのせいで周囲への注意が払えず、すっかり気づくのが遅れた。ビーンにとって不幸だったのは、教室後ろの出入り口を背にしていたことだった。
ついに誰も笑わなくなった。
ビーンは、他の生徒の視線を追って振り返る。
戸口にはタッパが立っていた。
タッパが近づいてくると、他の生徒たちは素知らぬ顔でさっと散っていく。
ビーンは、すべてを諦めたような顔をしていた。
「ちょっと、詳しく話を聞かせてもらえるか」
「は……、はひ」




