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第76話 相も変わらず

「邪悪な転移者め!! 王子殿下を離せ!」

「貴様らのような卑怯な簒奪者に、この王国は屈しないぞ!」

「殿下! 今すぐお助けいたします!!」


 礼拝堂を取りかこんだ騎士や魔導師たちが、口々に罵声を浴びせてくる。

 だが王子様が人質になっているせいか、実際に攻撃を仕掛けてくる様子はない。……その分、声だけはやたらと威勢がいい。


 吊るされたままの王子様は、真っ青な顔で群衆と私たちを交互に見ていた。


「お、お前たち。気持ちはありがたいが、あまり刺激しないで——」


 ちょっと王子様が不憫になってきた。

 王子様の臣下の人たちも、もうちょっと思いやりの心を持った方がいい。


「ちょうどいいな。本当にこのまま人質にしていくか、この王子」


 ゼクスさんはそう言うと、何もない空間から、ごてごてと装飾のついた漆黒の剣を取り出した。いかにも「魔王」が持っていそうな、中二病全開のデザインだ。

 彼はその剣を、吊るされた王子様の首筋にピタリと押し当てて叫んだ。


「おい! お前ら! そこから一歩でも動いてみろ! 王子がどうなってもいいのか!?」

「……お前、やけにそういう役が板についてるよな」


 ケインさんが呆れ顔で呟く。

 当のゼクスさんは、なんだかすごく楽しそうだ。目が輝いている。


「まあ、自称魔王ですからね」

「すぐに自称じゃなくなるぜ。もうすぐここの国を治める本物の魔王になるんだからな!」


 ふんぞり返るゼクスさんに、王子様がぽかんと口を開けた。


「き、貴様が王に……? 転移者ではなく?」


 そっちに驚くのか。

 いつ私が王様になりたいなんて言ったんだ。全く。


「私は魔王の部下だそうですよ」

「魔王……? そんな、幼子が読む物語のような……」


 王子様にまでボロクソ言われてるぞ、ゼクスさん。


 そんなやり取りを余所に、包囲網の熱狂はどんどんヒートアップしていく。

 後ろの方に隠れた、顔も見えない誰かが鋭く叫んだ。


「そもそも、転移者がこの国に現れなければこの国はこんな目に遭うことはなかったのだ! 貴様らの勝手な都合でこの世界に来た、その存在自体が罪なのだ!」


 その言葉に、王子様が顔を引きつらせる。(余計なことを言うな、私が殺されるだろ!)という心の声が聞こえてくるようだ。


 だが、王子様が何かを言うより早く、ケインさんの怒鳴り声が空気を切り裂いた。


「いい加減にしろッ!!!」


 あまりの剣幕に、周囲の喧騒がシンと静まり返る。

 ケインさんは静まり返った群衆を見据え、一歩前に踏み出した。


「こんなことをいつまで繰り返すつもりだ! いい加減、現実を見るべきだろう! ちゃんと思い出してみろ!! 今回の転移者は、彼女は何もしていない! 俺たちが勝手に怯えて、何の罪もない少女を『災厄』に仕立て上げて殺そうとしたんだ!!」


 一瞬の沈黙。ポカンとする人々。

 だがすぐに正気を取り戻していく。


「そ、そんなはずはない! 現にこうして転移者はドラゴンを率いて王宮を壊して回っているではないか!」

「その通りだ! ケイン卿! あなたがそうして転移者をかばうのも、転移者の洗脳以外に何があるというのか!」

「あのとき転移者を処刑できていれば、このような事態にはならなかったのだぞ!」

「ケイン卿は操られているだけだ! 転移者を殺して洗脳が解ければ必ず理解していただけるはずだ!!」


 当然、誰も納得しない。

 むしろ「ケインが可哀想だ、早く転移者を殺して彼を救おう」という謎の連帯感が生まれてしまった。


 ケインさんは歯がゆそうに唇を噛み、拳を握りしめる。


(……まあ、そうなるよね)


 私は小さくため息をついた。

 もはや、この国の人たちに言葉で理解してもらうのは不可能なのだ。

 私ももうこの人たちには期待していない。

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