第73話 白き礼拝堂
そのまま廊下を突き進むと、あっさりと礼拝堂にたどり着いた。
私の身長の数倍はある重厚な扉を、騎士二人がかりで引き開けてもらう。
「……わぁ」
一歩足を踏み入れたそこは、全体が真っ白い石で作られた荘厳なホールだった。
めまいがするほどの高い天井。四方の壁は繊細な彫刻で埋め尽くされている。
それらを見上げて、その美しさに思わずため息が漏れた。
ここに観光で来ていたのならどれほど楽しめただろうか。スマホを持ってたら写真くらい撮れたのにな。
だが今は、そんな感傷に浸っている場合ではない。
見渡す限り、礼拝堂は広大だ。空から見たとき以上のスケール感に圧倒される。
ホールの脇にはいくつか扉があり、奥にはさらに別の部屋が続いているようだ。一体どれくらい部屋数があるんだろう。
困ったな。この全体から魔法陣の残滓を探すのは、たった四人ではかなり無謀だ。
「……でも、手分けして探すしかないですよね」
「つってもな。今この瞬間に魔法陣があるわけじゃねーから、目には見えねぇぞ」
「じゃあどうやって探すんですか?」
「近くに行けば、ほんの少し魔力が残ってるから俺ならわかる。それでもかなり近くまで行かねぇと確信は持てねーけどな」
つまり、探知できるのはゼクスさんだけ。そのゼクスさんですら、かなりの至近距離まで行かないと判別できない。礼拝堂は途方もなく大きい。……万事休すか。
「ロックスさんも、転移者が現れる魔法陣の正確な場所なんて知らないですよね……」
「俺も礼拝堂に現れるらしいというくらいしか……。お役に立てず申し訳ありません」
肩を落とすロックスさん。
ゼクスさんの話を聞いていたケインさんが、礼拝堂の長椅子にどっかりと腰を下ろし、優雅に足を組んだ。
「なるほど。じゃあゼクス、お前がさっさと探せ。急げよ」
「お前も手伝えよ!!」
「手伝いたくても手伝えないんですよ」
私がそう返すと、ゼクスさんは睨んでいるが諦めたようだ。
「……仕方ねえ。それっぽいとこを手当たり次第に探すか」
私も、自分の帰路がかかっている以上、ゼクスさん任せにはできない。
とりあえずそれっぽい場所を、と私の勘が赴くままに壁際を探り始める。
うーん。何にもわからない。
——その時だった。
背後から、ガタッ、と小さな物音が響いた。
ホールの隅にある、簡素な木の扉の向こうからだ。
王宮の人はもうみんな非難したかと思ったのに。逃げ遅れだろうか。
「……今、何か聞こえませんでした?」
私が振り返って三人に尋ねる。
「いえ、特には……」
「こんな目立つ場所、とっくにもう誰も残ってねぇだろ」
扉の近くにいたのが私だけだったせいか、誰も聞こえなかったみたいだ。
だが、私がその扉から目を離せないでいると、
「……そんなに気になるなら、開けてみましょうか?」
いつの間にかケインさんが隣に来て、私を覗き込んでいた。
ゼクスさんとロックスさんも、いつの間にかこちらに集まってきてる。
「開けんならさっさと開けるぞ」
一切の躊躇なく、ゼクスさんが扉を蹴り開けた。
騎士二人はいつの間にか音もなく剣を抜いていた。「何も聞こえない」って言ってたのに、私の言葉をちゃんと信じてくれるんだなぁ。
場違いにちょっと嬉しくなって口角が上がってしまう。
部屋の中は、礼拝堂の豪華さとは無縁の、小さく簡素な倉庫だった。
大きな壺やよくわからない置物が、雑多に積み上げられている。
部屋をぐるりと見まわすが、誰もいない。
「ここは初めて入りましたが、倉庫のようですね。しかし何も——」
ロックスさんが言いかけて、言葉を止めた。
「……? どうしました?」
「……なんかいるな」
ゼクスさんの表情が真剣味を帯び、奥へとずかずか進んでいく。
そして、近くにある荷物を手当たり次第にひっくり返し始めた。中身を床にポイポイと放り投げていく。
小綺麗な倉庫は、一瞬で空き巣に入られた後のような有様になった。
「え、大丈夫ですか? そんなに荒らして。あとで怒られません?」
「今更ですか?」
ケインさんに冷ややかな目でつっこまれた。
確かに。塔を二回も壊すことに比べたら、倉庫漁りくらい軽いものか。
じゃあいいか、と開き直った私も手伝い始め、騎士二人も(少し抵抗はありそうだったが)加わってくれた。
だが、狭い部屋だ。すぐに調べ終わってしまう。
「あとは、この大きな壺くらいですが……」
私の腰ほどの高さがある壺を、四人で覗き込む。
蓋を引っ張ってみたが、内側で何かが引っかかっているようでびくともしない。
「中身入ってんのか?」
ゼクスさんが壺の横腹をガンガンと蹴りつけた。
その瞬間、ガタッ!と壺が大きく揺れた。
「……本当に何か入っていますね」
「私もさっき開けようと思ったんですけど、蓋が何かにつっかかってるみたいで、全然開かないんですよ」
私がそういうや否や、ロックスさんが壺の蓋に手をかけた。
「俺が開けましょう」
ロックスさんが引くと、蓋は一瞬で剥ぎ取られた。
か、怪力……。
なんて感心する暇もなく、私の目は壺に釘付けになった。
壺の中から人の手が突き出していた。
「え、人……!?」
何か入ってるとは思ったが、まさか人とは。
ああ、内側から蓋を引っ張ってあかないようにしてたのね、なんて現実逃避のように考える。
開けた本人のロックスさんは、目を見開いたまま固まっていた。
そして、震える声で呟いた。
「…………王子、殿下?」
「「「はぁ!!??」」」
お、王子殿下!???




