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第71話 大混乱の王宮

 辺境の山城にいるはずの転移者が、ドラゴンの群れを率いて王宮に侵攻してきた。


 その急報は、一瞬にして王宮の隅々まで駆け巡った。

 次の瞬間、典雅であるべき王宮は、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌する。


「ひぃぃっ! 転移者が! 転移者がもうすぐそこまで来ているぞ!!」

「馬鹿な、辺境にいたはずではなかったのか!?」

「さっさとどきなさい! 使用人風情が私の道を遮らないで!!」


 廊下は貴族も使用人も入り乱れ、我先にと出口へ殺到する。

 格式高い儀礼などはかなぐり捨て、ドタドタという粗野な足音と怒号があちこちで響き渡る。


 厚い壁の向こうからは、ドラゴンの咆哮と、王宮の一部が粉砕される轟音が絶え間なく聞こえてくる。


 そんな状況で最悪なことに、王は軍を率いて転移者討伐のため辺境に出陣しており不在。

 留守を預かっていたはずの王子は、この騒ぎが起きたとたんにどこかへ行方をくらます始末。


 だが、王子はどこへ逃げたと怒る暇は誰にもない。

 転移者という脅威が、国をも滅ぼしうる史上最強の災厄が、すぐそばまで迫っているのだから。






「……おいココロ。お前はいつから歩く大量破壊兵器になったんだ? まるで俺が脇役みたいじゃねーか。腹立つな」


 逃げ惑う人々を眺めながら、ゼクスさんがあからさまに呆れた顔で呟く。


「私が聞きたいですよ! 処刑されそうになってたときより対応が酷くなってますよ!? なんで!?」

「……酷い有様だな」


 大量の疑問符を浮かべる私に対し、ケインさんは逃げまどうかつての同僚たちを見て、神妙な面持ちで目を伏せている。


 そんな中、私は廊下の先に、見覚えのある背中を見つけた。

 王宮にいた頃、いつも身の回りの世話をしてくれていた——。


「あ、ソフィアさんだ」


 反射的に、親しみを込めて声をかけた。

 その瞬間。


「ヒッ……!!」


 ソフィアさんは、顔を真っ青にして振り返った。

 少し離れたこちらからでも、彼女がガチガチと歯の根が合わないほど震えているのが分かる。


 あー……、馴染みの人を見かけたからつい声をかけちゃったんだけど、やめた方がよかったかな。かわいそうなことをしちゃったかも。


 私、ソフィアさんとは割と上手くやれてたと思ってたんだけどな。想像以上に怖がられてたんだな。


 あまりの拒絶ぶりに、私は思わず視線を落とした。


「知り合いか?」

「えーーー、まぁそうですね……。王宮で過ごしていた頃に、かなりお世話になった人です」


 言葉を濁すが、私たちの進路は彼女のいる方向だ。

 近づきたくなくても、歩み寄る形になってしまう。


「ひ、ひぃぃっ! 来ないで! 悪魔めぇっ!」

「……お前は世話になった人間にずいぶん嫌われてんだな?」

「……不可抗力です」


 ゼクスさんの憐れみの視線が痛い。

 私だってこんな風になりたくてなったわけじゃないのだ。そうとしか言いようがない。


 私はソフィアさんを少しでも安心させようと、何か言おうと口を開いた。

 その刹那。


 ——キンッ!!


 真横で鋭い金属音が響き、反射的に顔を向ける。

 そこには、剣を抜いたケインさん。


 そして、狼のような鋭い目つきで私を見下ろし、切っ先を突きつけてくるルークさんがいた。


「ここにいたか、転移者……! 今すぐにロックスとケインの洗脳を解け!!」


 正直、この王宮で一番会いたくなかった人が、そこに立っていた。

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