第69話 王都への帰還
深い森での休憩を挟みつつ、数時間の飛行を経て——ついに、眼下に巨大な王都が姿を現した。
整然と並ぶ街並み。見下ろせば、豆粒のような住人たちがこちらを見上げては指をさして右往左往しているのがわかる。
「……あれ? 王都の結界って、まだ修復されてないんですか?」
以前のドラゴン襲撃でゼクスさんが壊したと聞いていたけれど、あれから結構な時間が経っているのに。
私の素朴な疑問に、ケインさんが苦い顔で答える。
「以前張られていた結界はもう三百年以上も前に、国中の最高峰の魔導師を集めて数年がかりで築いたものです。その技術はもうほとんど失われてしまい……正直、現代の魔導師では修復すら困難なんですよ」
「おう。なかなか頑丈で壊すのも大変だったぜ」
ケロッと言ってのけるゼクスさんを、ケインさんが鋭く睨みつける。
睨まれた本人はどこ吹く風だ。
「まあ、今も間に合わせで作ったっぽい結界は張ってあったから、さっき通りすがりに壊しといたぜ。じゃねーとドラゴンが王都に入れねぇからな」
「……いつの間に」
「ほら、もう着くぞ!」
ゼクスさんの指差す先、王宮の尖塔が見えてきた。
以前の襲撃でドラゴンに真っ二つに壊されたはずだけど、もう綺麗になっている。急ピッチで直したのかな。
「で、どこに下りるつもりだ?」
「王宮付きの騎士なんだからお前のほうが詳しいだろ。どこがいいんだ?」
「決めてないのかよ! ……南側の『星霜の間』の上だ。屋根が広くて着地しやすい。そこがいいんじゃないか」
「『せいそうのま』? どこだよそれ」
「そのくらい知っておけ! 王宮の南側だ!」
「行ったこともねー城の間取りなんか知るか! 南だな!」
ゼクスさんは強引に進路を南へと転換した。
私とケインさん、そして後続のドラゴンたちも大きな弧を描いてそれに続く。
ぐんぐんと迫る王宮。ゼクスさんは真っ直ぐ尖塔に向かっていくが、一向に避ける気配がない。大丈夫だろうか。
「おい、そのまま行くと『刻限の細塔』にぶつか——」
ドガァァン!!
ケインさんの叫びも虚しく、ミケが巨大な足を突き出した。直したばかりであろう尖塔が、紙細工のように真っ二つにへし折れる。
「避けるよりこっちのほうが早ぇだろ」
「…………」
ケインさん、静かだけど、キレてない? 大丈夫?
怖くて確認する気も起きない。
そのまま進むと、王宮の屋根に少し開けたスペースが見えてきた。あそこが『星霜の間』の上だろうか。
「あれだな! 全員降りるぞ!」
「屋根を壊すなよ! 絶対だぞ!!」
ケインさんの必死の警告を背に、ゼクスさんを乗せたミケが急降下。
ガリガリと石材を砕く嫌な音を立てながら、豪快に着地した。
……うん。天井を突き破ってないだけ、セーフってことにしてあげてください。ケインさん。
続いて私とケインさん、そしてドラゴンたちが次々と着地する。
その間に、屋根の上には槍を構えた留守番の騎士たちが、血相を変えて集まってきた。
「罪深き転移者とその手勢め! 貴様らはこの王宮に一歩たりとも足を踏み入れさせん!!」




