第66話 勘違いと不死鳥
門が開いた瞬間、私を乗せたクロが力強く地面を蹴った。
「うわっ!?」
凄まじい風圧と共に、視界が一気に跳ね上がる。
ぐんぐんと離れていく地面。クロは王国軍の攻撃が届かないであろう高度まで、一気に舞い上がった。
眼下には蟻の群れのようにうごめく軍勢が広がっている。
「……すごい数。二人とも、大丈夫かな……」
*
一方、地上——王国軍側。
「城からドラゴンが飛び出したぞ! 迎撃しろ!」
「ダメです、高度が高すぎます! 大砲も魔法も届きません!」
「おい! 今度は城門から人間が出てきたぞ! あれが転移者か!?」
兵士の声に慌てて望遠鏡を覗き込んだ騎士団長が、目を見開く。
「いや、違う……男……? 黒いローブの男など、報告にはなかったぞ。一体何者だ……? それに、その後ろにいるのは……っ!!」
「あ、あれは! ケイン卿だ!」
「ケイン卿!! 転移者の手にかかったという話だったが、生きていたのか! よくぞご無事で!!」
その時、先頭を歩くゼクスが軽く指先を振った。
それだけで、最前線の兵士たちが木の葉のようにまとめて吹き飛ぶ。
ケインは何もせず、ただその後ろを無言でついていく。
「ケイン卿!? やはり転移者に操られているのか!」
「ああ、なんということだ! あの高潔な騎士までも、転移者の卑劣な術にかかってしまうなんて……!」
ついていってるだけのケインが、なぜかものすごく憐れまれている。
当のケインはすでに説明を諦めており、遠い目で虚空を見つめていた。
「言いてぇことはいろいろあるけどよ。そもそも何でこいつらは、ココロがこの城にいることを知ってんだ? お前バラしてねーよな?」
「バラす隙なんてなかっただろうが。どうやったのかは知らないが、嗅ぎつけられたんだろう」
「まあそれしかねぇか」
余裕の表情でサクサクと歩みを進める二人。
対照的に、王国軍の騎士団長は額に冷や汗を浮かべていた。
「な、なんなのだあの魔導師は……! それに、元凶たる転移者は一体どこに隠れている!? あの『不死鳥の降臨』を再び放たれたら、軍が全滅してしまう……! 一刻も早く仕留めねばならぬというのに!」
必死に軍を指揮しながら、苛立って独り言ちる騎士団長。
(あの火の鳥、そんな中二病みたいな名前があったのか……ゼクスが好きそうだ)
ケインが内心で呆れた、その時。
ゼクスの目が、カッと見開かれた。
「『不死鳥の降臨』……だと……?」
「? 何か心当たりがあるのか?」
ケインが真剣な表情で振り返る。
すると、ゼクスは悔しそうに拳を握りしめ、ワナワナと震え出した。
「花火から火の鳥を出すだけの魔法にそんなかっけー名前があったなんて……っ!! 俺が考えたことにできねーかな……!」
「お前がつけた名前じゃないのか。お前並みのネーミングセンスのやつが王宮にもいたんだな」
呆れ果てるケインの言葉も、今のゼクスには届かない。
「『永劫の劫火』……いや、『不死鳥天駆』の方が響きがいいか? 不死鳥は絶対入れたいよな……」
「おいバカ魔導師。くそダサい名前を考えるのは後にしろ。さっさと軍を追い払うんだろ」
「そうだった!!」
「はぁ……」
ハッと我に返ったゼクスが、そのまま範囲攻撃魔法を展開する。
凄まじい衝撃波が走り、周囲の兵士たちが一斉に宙を舞った。騎士団長もどこかへ吹き飛んだようだ。
しかし、向かってくる王国軍の数は一向に減らない。
倒しても倒しても、後ろから新しい兵士が湧き出し、後方からは絶え間なく魔法攻撃の雨が降ってくる。
「くそっ、キリがねぇ! どんだけ連れてきてんだよ!」
「この規模……ほぼ王国の全勢力だろうな。ここで確実に転移者を仕留める気なんだろう」
「これ全部相手にしてたら、さすがの俺も魔力がもたねぇぞ!」
「今更気づいたのか……」
「いったん撤退する!」
「はいはい」
二人は背を向け、城門に向かって全力で駆け出す。
その道中、ゼクスは懐から魔法石を取り出して怒鳴った。
「おいクロ! 下りてこい! 撤退だ! 他のドラゴンもだ! 総員、城に撤退!」




