第65話 開戦、そして応戦
ドォォォォォン!!!
空を震わせる轟音と共に、無数の黒い点が打ち上がった。
放物線を描き、こちらへと猛スピードで迫りくる。
「うわっ!? もう撃ってきたみたいですよ! どうするんですか!!?」
「げ、もうかよ。——ドラゴン総員!! 打ち返してやれ!!」
ゼクスさんの号令が響く。
その瞬間、庭で大人しくしていたドラゴンたちが一斉に翼を広げた。
空を覆ういくつもの影。
彼らは飛んでくる砲弾へと真っ向から突っ込んでいくと、強靭な尻尾をバッドのように振り回して砲弾に叩きつけた。
「……嘘でしょ」
バッドで打ち返されたボールのように、砲弾が来た道をそのまま戻っていく。
シュールすぎる光景に、私は口を開けて固まるしかなかった。
しかしぼんやりとしているのは私だけで、ゼクスさんとケインさんはさっさと動き出す。
「このままじゃキリがねーし、さっさと直接片づけにいくか」
「おい、その前に城の結界を張り直しておけよ。ドラゴンだけで防ぐのも限界があるだろう。今やらないと戻ってきたら更地になってるぞ」
「あー忘れてた。そうだな。今やるか」
ゼクスさんが指をパチンッと鳴らす。
その指先から、虹色のシャボン玉のような球体がふわりと浮き出た。
それは瞬く間に膨れ上がり、巨大な城壁をまるごと包み込むと、静かに空気に溶けて見えなくなった。
(……今ので終わり?)
キョロキョロと見回しても、もうさっきの球は見えない。これで結界が張られたのだろうか。
そういえば王都にも結界が張られていたらしいが、それも目には見えなかった。結界っていうのはそういうもの……なのかな?
「……信じられん。これほど高密度の多層結界を、無詠唱で、一瞬だと……?」
けれど、隣にいるケインさんは、もはや戦慄を通り越して呆然と空を見上げていた。
なんかすごいらしい。私にはよくわかんないけど。
それより、さっきからずっと気になってたんだけど。
「……あの、ケインさんはいいんですか?」
「? 何がです?」
「攻めてきているのは王国軍ですよね? ケインさんにとっては仲間なんじゃ——」
ケインさんは間髪を入れずに答える。
「仲間です。ですが彼らは今、『凶悪な転移者』という存在しない敵と戦っています。俺が何を言っても、『転移者に洗脳されている』としか映らないでしょう」
ケインさんは一瞬だけ目を伏せた。だが、すぐに私を真っ直ぐに見つめ返す。
「——他ならぬ、俺がそうだったように」
「え……?」
「王宮にいたとき、あなたを捕らえるよう進言したのは俺です。ロックスはあなたを信じていた。それを俺は、あなたに洗脳されたのだと……っ」
ドォォォォォン!!
頭上からの爆音が、ケインさんの言葉をかき消した。
ドラゴンが打ち返し損ねた砲弾が、結界に直撃して弾けたらしい。
「おい。何の話かは知らねーが時間がねぇ。続きはあいつらを片付けた後にしろ」
ゼクスさんがいつも通りの空気で割り込む。
正直、この空気を続けられても困るところだったので助かった。
「……そうですね。ケインさん、とにかく事情はわかりましたから。落ち着いたら、またゆっくり聞かせてください」
「……はい」
「話はついたな! ギルゼヴァルト……じゃねぇ、クロ! ココロを乗せて飛べ」
ゼクスさんが漆黒のドラゴンを呼び寄せる。
「え、もしかして私、避難ですか」
「あたりめーだろ。お前がついてきて何ができんだよ。応援か?」
「ぐぬぬ。それは確かに」
「ケインは……まあ邪魔しないなら別についてきてもいいぜ。勝手にしろ」
「言われなくても、そうさせてもらう」
ケインさんが腰の剣を抜き放つ。
重厚な城の正門が、地響きひとつ立てず、音もなく左右に開いていく。
その先には、鋼の雨を降らせる王国軍の軍勢が、蟻の群れのようにひしめき合っていた。




