第64話 手持ち花火と忍び寄る気配
「わぁ、これ綺麗ですね!」
手に持った花火から星型の光がパチパチと弾け飛ぶ。
左右に振るたび、色とりどりの魔法の星が次々に飛び出した。
(なんか、私が魔法使いになったみたい……)
ちょっとだけ、胸が熱くなる。
現実は、ほんの初歩的な魔法すら使えないわけだけど。
「おう、それすげーいいだろ! 自信作だ!」
「これは本当に遊びの範囲の魔法なのか……?」
胸を張るゼクスさんの横で、ケインさんが花火を見て頭を抱えている。放っておこう。
ゼクスさんがよくわからないことをするのはいつものことだ。それに魔法の常識がない私には、これがどれくらい凄いのかいまいちピンとこない。
最初は遠巻きにしていた庭のドラゴンたちも、今は目を丸くして花火を眺めている。
「自分で魔力を込めれば、もっといろいろできるぜ!」
ゼクスさんが手に持った花火を、空へ向かってブンッと勢いよく振った。
その瞬間。
巨大な赤い「火の鳥」が花火から飛び出し、優雅に空へと舞い上がった。
「すごい……」
「まぁ、お前は魔法の才能ねーから無理だけどな!」
「わかってるのでわざわざ言わなくていいです」
まったく。人が感動しているときにどうして余計な一言を添えるかな。
全く悪気がなさそうなのが余計に腹立つよなぁ。
私が呆れている後ろで、ケインさんは独り言のようにつぶやいた。
「火の鳥……? 確か、王宮魔導師が最上級難易度の魔法だとか言っていたような——」
ケインさんの言葉が不自然に途切れた。どうしたんだろう。
「……ケインさん?」
振り返った私は、すぐにその理由を理解した。
くるりとケインさんの方を振り向いたが、聞く前に理解できた。
カタカタと、足元が小さく震えている。
これは、
「……地震?」
「いや、違う。金属の擦れる音と……足音だ。それも数百人以上の規模の」
ケインさんの目が、一瞬で騎士のそれに変わった。
「おいゼクス。魔法で確認できないのか」
「今やってる」
ゼクスさんが指を弾くと、目の前に半透明の映像が浮かび上がった。
この城から少し離れた周囲を、武装した兵士たちがぐるりと包囲している。その中には、巨大な大砲らしき武器まで見えた。
ケインさんが目を見開いた。
「王国軍だ!」
「こんな近くにですか!? なんでこんな近くに来るまで気づかなかったんですか!?」
勢いよく詰め寄る私から、ゼクスさんは露骨に視線を逸らした。
「いや……その、最近忙しかったから……」
小さくもごもごと言い淀んでいる。
「忙しかった!? 昨日の流しそうめんでですか!? だから準備は私がするって言ったじゃないですか!!」
「ちげーよ! 花火づくりの方だよ!!」
ゼクスさんが負けじと言い返してくる。
ケインさんが映像から目を離さずに怒鳴った。
「どっちでもいいわ!!! 魔法で常に周囲の索敵はやってなかったのか?!」
「いや……結界と索敵用の魔力を全部花火の方に回してたんだよ。青色を出すのが難しくて……」
私とケインさんに同時に怒られて、さすがのゼクスさんも少しへこんだらしい。だんだん声が小さくなっている。
話の内容についてはもういい。この人がこうなのは今に始まったことじゃない。
「……まあいいです。それで、なんで軍隊なんて来てるんですか? ゼクスさん、なんか悪いことしたんですか? 国家転覆の件はまだバレてないはずですよね」
「さぁな。俺は何にもしてねーよ。まあ、来ちまったもんは仕方ねえ。迎え撃つか」
黒いローブを翻し、歩き出したゼクスさん。
その背中だけを見れば、珍しく本当の魔王のような威厳があった。
*
一方、城を包囲した王国軍の本陣。
指揮を執る国王ガルドマンは、震える手で望遠鏡を覗いていた。
「あれは……火の鳥……!? まさかあれが伝説の広域殲滅魔法、『不死鳥の降臨』だというのか……!?」
横に控える王宮魔導師は、顔を真っ青にして叫ぶ。
「そんな馬鹿な! あれは神話の時代の失われた魔法です! この時代に使える者など——っ!!」
もちろん彼らは夢にも思っていない。
あの不死鳥が、ゼクスがおもしろ半分で花火から飛ばした魔法だとは。
青空に向こうに飛び去った赤い不死鳥を呆然と眺め、魔導師は青を通り越して白くなった顔色でつぶやく。
「……あの不死鳥の軌跡から漏れ出る魔力だけで、我が国の魔導師団全員の総魔力量を凌駕しています。転移者は遊び半分で、この世界を焼き尽くそうと——」
その言葉に、王は顔を歪めて叫んだ。
「もう一刻の猶予もない! あの不死鳥が再び姿を現せば、王国どころか大陸そのものが消滅するぞ! 全軍、攻撃開始ィ!!! 転移者を、なんとしてもここで滅ぼすのだ!!!」
「「「うぉぉぉおおおおおおお!!!」」」
王の悲痛な号令とともに、数百の大砲が一斉に火を噴いた。




