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第60話 あいさつ

 夕日も沈み、城壁で作業していた面々が城内に戻ったころ。

 城の中は魔法で作られた明かりで満たされていた。


 この城、夜は王宮より明るい。

 それもゼクスさんが自分で魔道具を開発していることで、魔道具が使い放題になっているからだ。壊れても一瞬で修理してくれる。


 外はもうだいぶ暗いが、おかげで料理をするときに手元が見づらいということは全くない。ありがたいことだ。


「ココロさん、野菜を切り終わりました」

「あ、じゃあそこに置いておいてください。お肉にもう少し火が通ったら入れるので」


 この城に来てから、何度かケインさんと料理はした。

 初日に料理はできないと言っていたので、あまり期待はしていなかったが、少し教えたらめきめきと上達し、すでに私よりうまいのではないかという実力になった。

 相変わらず、とっても手際がいいなぁ。


 そんなことを考えている間に、ケインさんは何も言わなくても勝手に洗い物を進めていてくれた。

 私は鍋にケインさんが切ってくれた野菜を入れてかき混ぜる。


 台所にはケインさんが来た初日とは打って変わって、穏やかな空気が流れている。


 ケインさんとの生活もかなり慣れた。というか、ケインさんの方が慣れたのかもしれない。

 ここにきて、少しずつだけど会話もするようになって、日が過ぎて。


 ケインさんの態度は最初のころとは比べ物にならないほど穏やかになっていた。

 スキルについて疑われているということも、普段は忘れていることの方が多くなった。ケインさんも、もうわざわざ話題に出さないし。


「ケインさん。もうそろそろできますから、食器を用意しておいてもらえますか?」

「わかりました」


 そうして用意してもらった器にお玉でスープを注ぐ。三つの器に注ぎ終わったときにはすべての準備が整っていた。

 本当に、手際のいいことだ。


「じゃあ行きましょうか」


 そう言うと、ケインさんはおぼんを持ってくれた。


「ゼクスさんが待ちくたびれてそうですね」

「何もしてないやつは待たせておいて問題ないと思いますよ」

「まあまあ。昼間は活躍してくれたじゃないですか。ゼクスさんがいなかったら城壁の石が足りなくなっていたわけですし」

「……まあ、それはそうですが」


 今となっては、私とケインさんがギスギスするよりも、ケインさんとゼクスさんがちょっとしたことで言い合いになり、それを私が仲裁することの方がずっと増えた。

 それがいいことなのかは、今のところ判断しかねるけど。

 でも、ぎゃあぎゃあと騒がしいながらも穏やかな日々が続いている。——きっと、私たちはこれでいいんだろう。


 そう思いながら、ゼクスさんがいつもいる天井が抜けた部屋にむかう。


「まったく、いつもながら何であいつはこんな廃墟みたいな部屋にいるんだ……」

「部屋の中で日向ぼっこができるから、だそうですよ」


 ケインさんと話しながら、私は部屋の扉を開ける。

 部屋の中ではゼクスさんがぐでっとテーブルに突っ伏していた。ゼクスさんは私たちに気づいて顔を上げる。


「おせーぞ。いつまでやってんだよ」

「何もしてないやつに言われる筋合いはない」

「手伝うなって言ったのはお前らだろうが!」

「はいはい。もうご飯の時間ですから喧嘩しないでくださいよ」


 私はそう言ってさっさと食事を配膳する。

 丸いテーブルに、ふわりと湯気の立つ食器を置いてから気づいた。


 あ、三人で一緒に食事をするのって初めてだな。


 たったそれだけのことだけど、なんだかちょっとあったかい気持ちになる。

 もちろん私たちは家族ではないけど、この世界では一番それに近いものになれている気がする。それが何だか少しうれしかった。


 ケインさんが席につき、私も椅子に座る。その流れで手を合わせた。


「はい、いただきます」


 私がそう言うと、二人が目を丸くした。


「なんだそれ」

「あ、この国にはないですよね。私の元々いた世界……というか住んでいた国の、食事の前のあいさつです。こっちに来てからも、できるだけやるようにしていたんで、つい」


「「いただきます」」


 二人の声がそろって聞こえた。私は目を見開いた。


 そして二人は何事もなかったように料理に視線を落として食べ始める。


 ゼクスさんはそこまで違和感はない。彼は普段から目新しい物や未知の物を好むところがあるから。でも、ケインさんが言ってくれるとは。本当に驚いた。

 思わず口元が緩むのを感じる。


 ゼクスさんがそんな私をちらっと横目で見る。


「おい、冷めるぞ」

「……そうですね」


 私も二人に遅れてスプーンを手に取り、湯気の立つスープに差しいれた。

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