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第59話 城壁工事

「それにしても、この城壁はもう意味を成していませんね」


 青空の下。ケインさんは雑草取りをしていた手を止め、崩れかかった城壁に軽く触れた。その破片がパラパラと地面に落ちる。


 城壁は表門周辺こそ原型を留めていた。しかし裏手に回るにつれて崩れている箇所が多くなり、その存在価値をほとんど失っている。


 確かに、これでは外敵の侵入は防げないだろう。


「……そういえば、この間の魔物はちゃんと門から入ってきましたよね。なんでこういう崩れている部分から侵入しなかったんでしょう」


 それに、わざわざ門の戸を叩いていた。今考えると、ずいぶん礼儀正しい魔物だ。

 まあ、すでに殺してしまったんだけど。


「あの魔物はわざわざ家の戸を叩いて、出てきた人間を襲う習性なんですよ。そうでない魔物の方がもちろん多数派です」

「なるほど」

「ココロさんはしっかり騙されてましたよね。ああいう油断しきった人間を食べている魔物なんですよ」


 根に持たないでほしい。知らなかったんだから仕方ないじゃん。


 とはいえ私があまりにも無防備すぎたのは事実だ。このままでは分が悪いので話を逸らそう。


「……それより、城壁を直した方がいいですかね」

「そうですね。最低限の魔物除けもしたいですし、直すに越したことはないと思います」

「でもこれ、石を積んであるんですよね……。素材はそのへんに転がってる、もともと城壁だったがれきを再利用すればいいとしても、手で積んでいくのは重そうですし大変ですよね」

「それこそ、ドラゴンたちに手伝ってもらえばいいのでは?」


 ……なるほど。完全に盲点だった。


「確かにそうですね。ドラゴンたちを呼ぶついでにゼクスさんも連れてきますか。今回は大仕事になりそうですし、私たち二人では大変でしょうから」

「それがいいでしょう。たまにはゼクスにも手伝わせるべきです」


 そうして、あっという間にこの城の全員(ドラゴンも含む)が庭に集合した。

 ドラゴンがとても多いこともあり、さすがに庭が少し手狭に感じる。


 昼寝中だったところを私に叩き起こされたゼクスさんが眠そうな顔をしていた。


「……で? 城壁を直そうってか」

「はい。ゼクスさんも魔法で手伝ってくださいね」

「……まあいいか。そのうち直さねぇととは思ってたしな」


 お、あっさり納得された。もう少しごねるかと思ってたからラッキーだ。


「草が邪魔だな」


 ゼクスさんがそう言うや否や、周囲の草が一斉に吹き飛んだ。草は全て地面からすれすれのところで切り落とされている。


 ……そんなことができるならさっさとやってほしかった。私が一束一束引き抜いたり、小さな鎌でちまちまと刈っていたのは何だったのか。


 まあいいや。やる気があるならそれに越したことはない。


「じゃあ、クロたちも手伝ってね」


 私がそう言うと、ドラゴンたちは元気に返事してくれた。

 やる気があって大変よろしい。


「さあ、はじめましょうか!」


 こうして、城総出での城壁工事が始まった。



 ドラゴンたちには大きな石を抱えて飛んでもらう。私とケインさんはその近くでドラゴンの背から「もう少し右!」「そこで下ろして!」と、石を積む位置を調整していった。


 途中でがれきが粉々に崩れ落ちているところがあり、その部分は城壁として再利用できなかった。そのため、どうしても石が足りなくなってしまう。

 私とケインさんが途方に暮れていると、ゼクスさんがドラゴンに乗ってどこかに飛び去った。かと思えば、すぐに巨大な石を抱えて戻ってくる。

 それをゼクスさんの魔法でいくつかに割り、城壁の穴を埋めていく。


 そんな作業を日が傾くまで続け、今日の作業は終了となった。


 ずっとドラゴンに乗っていた私は、地面にへたり込んだ。


「あ~疲れた。思ったより時間がかかりますね……」

「ゼクスが草を刈ってからわかりましたが、思ったより問題のある箇所が多いですね。これはもうしばらくかかりそうです」

「これ以上の石はいらねえだろ。あとはお前ら二人でやれよ。そのくらいできんだろ」


 作業に飽きたらしいゼクスさんはかなり投げやりになっている。


「ゼクスさん、魔法で地面から石を浮かせて乗っけるだけじゃないですか。もう少し手伝ってくださいよ」

「そうだ。そもそもお前の城だろ」

「この城を使ってんのはお前らも一緒だろ!」


 ゼクスさんだけほぼ動くことなく作業していたからか、一人で元気だな……。そんなに元気ならもうちょっとくらい手伝ってくれてもいいのに。


「あーそれにしても疲れたし、お腹空きましたね。私、何か簡単に作ってきますよ」

「……俺も手伝いますよ」


 ケインさんが申し出てくれた。


「ありがとうございます。じゃあお願いしますね」


 そして手伝いをしようかどうか考えているのだろう、半分腰を浮かしているゼクスさんに釘を刺す。


「あ、ゼクスさんは手伝わなくても大丈夫ですよ。ゆっくりしててください」

「なんでだよ!!」

「……見るからに料理とかできなそうですもんね」

「はい。ケインさんは知らないと思いますが、一回すごいことになったんですよ」

「……ああ」


 ケインさんが哀れなものを見る目でゼクスさんを見た。

 事情は分からなくても、おおよそ何が起きたのかは察せたらしい。


「俺を仲間外れにすんじゃねーー!!」


 あ、それが本音なのか。


 ケインさんも一瞬目を丸くしていたが、次の瞬間には元の表情にもどっていた。

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