第58話 騎士と魔導師
「……やっぱいいよなぁ。魔法」
ゼクスさんが魔法を使ってるのをみていたら、私も使ってみたいという思いがだんだん大きくなってきた。
この世界は魔法があるんだから、私も何とかして習得できないものだろうか。
だめで元々。聞くだけ聞いてみよう。
そう考え、今日は雨のため、珍しくちゃんとした天井がある部屋にいたゼクスさんを訪ねた。
これまた珍しく、ティーカップに入れた紅茶を飲みながら本を開き、一心不乱に何かを書き殴っていた。
とても邪魔できる雰囲気ではない。魔法の件は後回しかな。
それにしても、一体何をそんなに必死に書いているんだろう。
勉強した文字を思い出しつつ、私がわかる数少ない単語だけを抜き出して読んでみると、どうやら国家転覆の計画を練っているようだった。
しばらく待っていると一段落ついたようで、ゼクスさんのペンが止まった。
「そういえば、ゼクスさんは何で国家転覆がしたいんですか?」
私がそう聞くと、ゼクスさんは真剣な表情でゆっくりと顔を上げた。
「……俺はこの国で迫害され滅ぼされた、闇の魔導師一族の末裔だ」
バンッと勢いよく扉を開けてケインさんが入ってくる。
「そんな事実はないぞ」
「まだ話し始めたばっかなんだよ!! もうちょっと話させろよ!!!」
「あっ、嘘なんですね。びっくりした~」
ケインさんは皿に乗せたお茶菓子のクッキーを荒々しくテーブルに置いた。ケインさんのお手製のクッキーだ。
これ、すごくおいしいんだよね。
私はさっそく手に取って口に運ぶ。
「適当なデマを広げるな」
「全部嘘ってわけでもないぜ。この国で魔導師の扱いが悪いのは事実だ」
それはほぼ嘘って言っていいと思うが、ゼクスさんは全く悪びれる様子はない。
驚くべき面の皮の厚さだ。
「魔法使いの扱いは悪いんですか?」
魔法使いって、むしろ特別扱いされているイメージがあったけど。どちらかというと元の世界でいう魔女の方がこの世界でのイメージに近いのだろうか。
ケインさんはゼクスさんを睨みつけたままだ。
「別にそんな事実はありません」
「ある! この国の貴族たちが騎士より魔導師を下に見て冷遇するから国が強くならないんだ!」
「事実、魔導師より騎士の方が国防の役に立ってるだろ」
「それは国が弱い魔導師しか雇わないからだろ! 俺はこの国を手に入れて、この国を魔導師の国にする! そうすれば今より絶対にこの国は強くなる!」
「そんなことをしたら——!」
二人の言い合いは続く。
まあ、この争いは騎士と魔導師という立場の違いとか、これまでの生活環境で培われた価値観の違いによるところが大きいんだろう。多分、どこまでいっても平行線だ。
何が事実かはさておき、ゼクスさんも一応いろいろ考えて国家転覆しようとしてるんだなぁ。正直、もっと何にも考えてないかと思っていた。なんて本人には絶対に言えないけど。
それよりも、そろそろ二人がヒートアップしてきたから話を逸らそうかな。
「それで、計画は順調なんですか?」
「え゛」
「ゼクスがここまで言っているんです。きっと順調なんでしょう」
ケインさんがはしごを外した。
「……順調に決まってんだろ! これから詳細を詰めてくんだ!」
「つまり詳細は何も決まってないってことだろ」
なるほど。全く順調ではないらしい。
まあ、元々は私のスキルを当てにしていたようだから、スキルが使えないとなればそうなるか。
それならば、まだしばらくは平穏な日々が続きそうだ。
私は手の中で揺らぐ紅茶に視線を落とす。
「まあ、期限があるわけでもないんですし、のんびりやったらいいんじゃないですか?」
「順調だって言ってんだろ! 見てろよ! すぐに忙しくなるんだからな!!」
「えー」
「嘘つけ」
忙しいのも、何かが変わっていくのも嫌だな。できるだけ、いろんなことがゆっくりと進んでいってほしい。
私は窓の外で降り続ける雨に目を移し、静かにカップを傾けた。




