第61話 花火やろうぜ
三人での食事が終わり、私とケインさんで食器の片付けをしていたときのことだった。
——ドカーン!!!
突然、轟音が城に響き渡った。
「え、何」
私が動揺して台所をうろうろしている間に、ケインさんは「襲撃か!?」と素早く剣を手に取り外へと走っていった。
私も一歩遅れてそれを追いかける。
外に出ると、空がパッと光った。
私たちは反射的に顔を上げる。見上げた空には、色とりどりの光の粒がはじけ飛ぶように舞っていた。
さっきと同じ音が、山全体にこだまするように響く。
あ、花火だ。
城の真上で花火が開いていた。
なるほど。さっきの音は花火の音か……じゃない。何で突然、こんな場所で花火が?
「なんでこんなところで花火が……」
ケインさんのつぶやきが聞こえた。
考えていることは同じのようだ。
私たちが呆然と見上げている間にも、花火は絶えず上がり続けている。
「おー! お前ら! やっと出てきたのかよ!」
花火の音の合間に、ちょっと遠くからゼクスさんの声が聞こえた。
一体どこから喋っているんだ、ときょろきょろ見回してみるが見当たらない。
「見つけた……お前は急に何をやってんだ! 何かの襲撃かと思ったぞ!」
ケインさんが上に向かってそう叫んだ。
彼の視線の先を追うと……いた。ちょうど開いた花火の光で、城の屋根の上に仁王立ちしている影が見えた。あれがゼクスさんだろう。
「襲撃なんかじゃねーよ! 花火だぜ!!」
「見ればわかるわ!!!」
なぜか得意げなゼクスさんに、ケインさんが言い返す。
それよりも、
「なんで急に花火が上がってるんですかー!?」
「暇だったから俺が上げた!!」
「言ってからやれ!!!」
全くもってその通りだ。何だ、暇だったからって。
暇だからって花火上げる人とかいるのか? いるのか。ここに。
それより、魔法って花火まで上げられるのか。すごいなぁ。
「すげーだろ! 感動したか!?」
いつの間にか屋根から降りてきていたゼクスさんは上機嫌だ。目がキラキラしている。
「そうですね。魔法って、こんなこともできるんですね」
「もっとすげーこともできるぜ!」
ゼクスさんは花火を指さした。その指先にはうっすらと光が灯っている。
その指先に沿って空を見ていると、突然、花火の光の粒一つ一つがゆらゆらと自由に動き始めた。
色とりどりの光の粒が、複雑な幾何学模様を描いては崩れていき、ゆっくりとまた別の模様を描いていく。
空全体が万華鏡になったかのようだ。
非現実的なまでに美しい光景に、私は言葉を失っていた。
「すごい……」
「確かに……俺もこんな魔法は見たことありませんね」
ケインさんも、空に視線が釘付けになっているようだった。
へぇ、王宮に勤めていたケインさんでも見たことのない魔法なのか。
珍しい魔法なのかなぁ。魔法のことは詳しく知らないけど、こんなに美しい魔法が使えるなんて、やっぱりゼクスさんはすごい魔法使いなのかもしれない。
ついでにロマンチストだと思う。でも、何事もロマンって大事だよね。特に魔法は。
この光景を見ていると心からそう思えた。
私たちに褒められたゼクスさんは、さらに得意げに胸を張る。
「誰でもできるわけじゃねえよ! こんな魔法が使えるのは世界中探しても俺くらいだぜ!」
「はいはいそうかよ」
「信じてねーだろ!」
ぎゃいぎゃいと始まる二人の言い合いを聞き流しながら、空を眺める。この二人が喋りだすと、せっかくのロマンが消し飛ぶなぁ。
あ、そういえば。何か既視感があると思ったら、これ、ドローンみたいだな。ドローンを使えば同じようなことができそうだ。
私まで夢もロマンもない方向に思考が飛んでいった。
でも今眺めているこれは、本当に火でできた光だから、だから素敵なんだよね。
そう思いこむことで、私は頭から消し飛びかけたロマンを無理やりつなぎとめた。




