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第56話 王の不安

 しんと静まり返った王宮の議場。

 私は一番高い位置の椅子で息を吐いた。


「皆も知っての通り、王宮第一騎士団の騎士が一人、行方不明となった」


 低い声で告げる。

 議場の貴族たちは皆、神妙な面持ちだ。きっと私も同じような顔をしているのだろう。


「その騎士が向かった地域はこのところ天候もよく、山崩れ等の発生もない。騎士の実力を鑑みるに、事故と言うことも考えづらい」


 私は横に控える騎士団長をちらりと見た。

 騎士団長は目を伏せたまま、小さくうなずいた。


 端の席の子爵が小さく声を出す。


「であれば、やはりその騎士は……」

「ああ。転移者の手にかかったとみるのが自然だろう」


 私は静かにそう答えた。


 侯爵は顎に手をやる。


「そうなれば……すでに命はないものと考えた方がいいでしょうな」

「ああ。だが、騎士は自らの命でもって転移者の居場所を指し示してくれた。その名誉は王室の殉死者として、王宮に永遠に刻もうではないか」


 私は議場を見回して、貴族たちに問うた。

 貴族たちは、異議はないと静かにうなずいた。


 騎士団長は膝を着いたまま、深く頭を下げる。


「恐れ多いことでございます。騎士ケインも、天の国より陛下の言葉に感激していることでございましょう」


 その言葉を聞き、私は一つ咳払いをした。


 ここからが本題だ。


「さて、これで転移者のだいたいの居場所が分かった。この近くで転移者が隠れられそうな場所に、心当たりはあるか? 騎士団長」

「……この地域は辺境中の辺境。山の中に隠れようと思えば、いくらでも隠れられる場所がございます。ですが転移者も生き物。生活をしていこうと思えば、数少ない町の周辺に現れることも多くなるかと」


 騎士団長は淡々と答えた。

 貴族たちも口をそろえる。


「ふむ。確かにあの地域に町は多くないし、どれも小さい町だ。すぐに調べ終えるだろう」

「それならば、目撃情報もあるかもしれませんな」


 私はその言葉を聞き流しつつ、騎士団長に指示を出す。


「各町に騎士を配備し、怪しい者や見慣れぬ者がいなかったかを調査しろ」

「は。すでに配備を終え、聞き込みを行わせております」

「流石、はやいな」

「もったいないお言葉でございます。しかし、今のところは転移者らしき者の目撃情報は入っておりません」

「そうか……一体どこに隠れているのか……」


 私は転移者が来てから何度目になるかもわからないため息を吐いた。

 騎士団長はそんな私を気づかわし気に見た後、視線を逸らして言いづらそうに言葉をつづけた。


「……町へ寄らずとも生活を可能にするようなスキルを持っている可能性も考えた方が良いかと」

「…………そうなってしまうのか。本当に、今回の転移者は異例尽くしだな。全く、頭の痛い話だ」


 私は眉間を押さえた。

 貴族たちも皆青い顔をしている。誰かの喉がゴクリとなる音が、やけに大きく響いた。


 かつて作成した転移者対策のマニュアルが、今回の転移者には全く役に立たないことはすでに分かった。

 今回の転移者がスキルをいくつ持っているのかもわからない以上、スキルの把握さえ、もはや意味をなさない行為だろう。


 一体、どれだけの犠牲者が出てしまうのか。

 そして私は、この国は、転移者を殺害するに至るまで生き延びられるのか……。脳裏によぎる絶望を隠して、私は背筋を伸ばし、前を見据えた。

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