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第55話 ケインの考え

 俺が不覚にもこの城に捕われて、一カ月ほどが経った。


 今日も俺は仕事として割り当てられた、ドラゴンの手入れをしている。


「おい。今前足をやっているんだから動かすなよ」


 くすぐったそうに足を動かすシロにそう言えば、すぐに動くのをやめる。シロは特に大人しくて助かる。……ってそうじゃなくて。

 

「なんで俺がこんなことを……」


 思わずため息が出る。


 期を見て何度か逃げようとは試みた。だが城の敷地には隅々まで結界が張ってあるらしく、出ようとすると必ずドラゴンにみつかってしまうため、今のところ成功していない。

 騎士としてそこそこ長く王宮にいた俺でも、全く見たことのない結界だ。転移者の能力である可能性が高いと考えている。


 その上、仕事でドラゴンのブラッシングをしているせいか、日を追うごとにドラゴンがなついてきている気がする。そのせいで、一人になろうとしてもドラゴンどもに追い回される日々が続いている。


「……はぁ。一体どうすれば……」


 全く逃げ出せそうにない現状に、またため息が出た。


 今すぐにはここから出られないとしても、せめて転移者と魔導師ゼクスの国家転覆計画の詳細を明らかにしなければ。

 そう思ってはいるのだが、転移者は計画らしいことをしている様子はなく、ただ毎日城の中を掃除している。困ったことに、王宮のときと状況は同じというわけだ。


 この間のかき氷機という魔道具には目を疑ったが、どうやらあれは兵器ではなかったらしい。

 その他にも、怪しげな魔道具をゼクスと共に作っている現場には何度か遭遇したが、いずれもその内実はくだらないものだった。


 もしかして計画を立てているのは転移者ではないのか?

 それに対しゼクスは、毎日魔導書を読み漁り、何やら紙にいろいろ書き留めている様子が日常的に見て取れた。

 実際の計画はゼクスがやっているのかもしれない。


 あいつの計画書を何とかして盗み見ることができれば……。


 そんなことを考えていた矢先、俺はゼクスが入り浸っている部屋の前を通りかかった。

 部屋の扉は中途半端に開かれている。ゼクスは雑な性格をしているから、閉め切らなかったのだろう。

 扉の隙間から、そっと部屋の中をのぞき見る。


 ゼクスは床に魔導書を何冊も広げ、今日も大きな紙にガリガリと何かを書き留めていた。ずいぶん集中しているらしい。普段は俺が部屋の前を通ればすぐに気づくのに。


 ……これはチャンスじゃないか? 今なら、背後からゆっくりと近づけば、ゼクスの計画を見ることができそうだ。そしてその内容を何とかして王宮に先んじて届けることができれば、この国の勝利は確実なものとなるだろう。


 俺は息を殺し、足音を立てないようにゆっくりと部屋の中に足を踏み入れた。

 ゼクスはまだ気づいていない。完全に油断しているようだ。これならいける。


 俺はゼクスの背後へと回り込んだ。

 そして、ついにその計画書をのぞき込む。


 その計画書には……「ドラゴンに乗って王宮に突撃して、中の人間全員追い出して俺の城にする」などと書かれていた。実際はかなり長々と書かれているが、要約すればその程度の話だ。


「おま、バカなのか……? いや知っていたが……」

「ぎゃーーーー!!!? 勝手に見てんじゃねーよバカ!!!」


 俺は思わず声に出してしまった。そしてようやく俺に気づいたゼクスが振り返って叫んだ。

 相変わらず、こいつの大声は耳が痛くなる。よく響く声だ。やかましい。


「お前……そんなんで本気で国家転覆なんてしようとしてたのか……」


 こいつのあまりのバカさに憐れみすら覚えた。

 だがこれなら国は心配ないか、と安心した矢先。


「しかたねーだろ! 本当は転移者のスキルってやつでドカンと一発やろうと思ってたんだからよ!」


 俺は背筋が凍った。

 まさか本気で転移者のスキルを利用するつもりだなんて。この国を死の大地にでもするつもりなのか……!


「転移者のスキルで……!? そんなことをしたら本当にこの国は——!」

「なんだお前、王宮にいたのに知らねーのかよ。ココロはスキルないんだってよ。転移者なのに。そんなのもいるんだな」


 ゼクスは何でもないことのように言いながら、床に散らばった計画書を拾い集めていた。


「は、」


 俺は拍子抜けしてしまう。

 こいつは、それを本気で信じたのか。なんて馬鹿な——


 そう思ったところで、ロックスの言葉が頭をよぎった。


『……彼女は、もしかして彼女がずっと言っている通り、本当に何のスキルも持っていないんじゃないか?』

『お前も見ていただろう! 今回の転移者は何もしていない!』

『俺は転移者に洗脳なんてされていない!』


 ロックスは、転移者に洗脳されている。だからあんなことを言った——そうだよな?


 俺は間違ってない、よな?


 俺はいまだにぎゃあぎゃあと話し続けるゼクスを放って部屋を出た。

 頭にはただ、ロックスの言葉が反響し続けていた。

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