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第54話 ドレスアップ

 最近、ドラゴンたちが目に見えてケインさんになついてきた。

 ここ最近では一番ドラゴンたちと関わっているのはケインさんだし、ドラゴンたちはもともとなつっこい性質のようだから、それも必然かもしれない。



 そんな変化をうれしく思っていたころ。

 私は暇つぶしに、城の中の普段使っていない範囲を探索していた。


 日当たりが悪く、薄暗い別棟。木製の床板には厚く埃が積もり、誰かが歩いた形跡はない。この辺りはゼクスさんも手つかずなのかな。

 私は軽い冒険気分で、少しきしむ廊下を進んだ。


「お、この部屋はちょっと雰囲気が違う?」


 私はまだ入っていなかった部屋を見つけ、立てつけが悪く、硬くなった扉を何度か強く引いた。


 バンッ!と勢いよく扉が開く。


「うわっ!?」


 長い間使われていなかった部屋の、大量の埃が舞い上がった。向こうの壁が見えないくらいの埃だ。

 そのすさまじさに一旦扉を閉める。そして少し時間をおいて、もう一度ゆっくりと扉を開けた。


「……何の部屋だろ?」


 ほかと比べると広い部屋だ。

 だがこの棟の他の部屋と同じように装飾などはなく、簡素なつくりをしている。使用人の居室かと思ったが、四方の壁を覆うように高い棚が備え付けられていて、ただの居室とも思えない。

 そして部屋の中央に置かれた木製の巨大なテーブル。いくつかの簡素な椅子。この部屋にはそれ以外何もない。


 ……本当に何の部屋?


 全く分からない。とりあえず、棚の引き出しを開けてみるか。


「わぁ、服……?じゃない。布か」


 最初、服かと思って広げてみたが、どこも縫われてはいなかった。


 引き出しには布がぎっしりと詰められていた。

 他の引き出しもあけてみるが、入っているのは布が大半だ。小さな引き出しにはリボンや飾り紐が入っている。針や糸などの道具も別の引き出しから見つかった。


 どう考えてもこれらはゼクスさんの物ではないし、本当にすべてが置きっぱなしの城だ。

 お針子さんの部屋だったのだろうか。


 大量の布や装飾はずっと引き出しにいれたままだったからか、どれも小ぎれいで今すぐにでも何かに使えそうだ。


 さて、この布たちをどうしようか。何か今必要な布製品にでもしてしまおうかと考えるが、パッと思いつくものはない。


 うーん……どうしようか。


 深い赤色の美しい布を撫でながら考える。布の価値はわからないけど、すごくきれいな布だし、高そうだ。

 つやのある布の輝きに、光を照り返すドラゴンのうろこが重なった。


 あ、そうだ。


 私は一つ思い付き、大きな布をいくつも腕いっぱいに抱えて、ドラゴンたちがいる広間へと向かった。



 広間の扉を開けると、ケインさんがクロのブラッシングをしている最中だった。クロは気持ちよさそうに目を細めている。

 そんな彼らを後目に、私は近くにいたシロのもとに向かう。


 さて、ここからどうしようかな。

 少し迷った後、とりあえずシロの角に布をそのまま巻きつけて、リボンにしてみた。蝶結びにして、形を綺麗に整える。

 私が結んでいる間、シロは大人しく頭を下ろしていてくれた。いい子だなぁ。


「よし、完成」


 私が手を離すと、シロは頭を上げた。

 シロの真っ白い体に、深紅のリボンがよく似合っている。


「うん。かわいいな」


 会心の出来だ。

 シロも嬉しそうに胸を張っている。


「ドラゴンにリボンって。さすがにどうなんですか?」

「うわっケインさん、いつの間に」

「さっきからいましたよ」


 夢中になっていた私に、いつの間にか後ろにいたケインさんが話しかけてきた。

 ケインさんは呆れた顔をしている。


 うーん。リボン、そんなによくないだろうか。かわいいと思うんだけどな。

 ケインさんは真面目な顔になって言葉をつづけた。


「……マントとかの方が似合うのではと思うのですが」


 マントか。その発想はなかったな。


「なるほど。たしかに、それはいいですね。布は大量にあるんですよ。飾りの紐も」

「一体どこからそんなものを……」

「この城、探せばだいたいなんでもありますよ」

「そういうものですか……?」

「それよりケインさん、お裁縫はできますか?」


 マント作りに取りかからなければ。せっかくなので、ケインさんも巻き込んでいこう。


「……全く経験がありませんが」

「そうですか。では簡単にではありますが、私が教えますので手伝ってくださいね」

「俺もやるんですね」

「言い出したのはケインさんですよ」

「……まあそうですね。やってみますか」


 お、意外にも前向きな反応。


「じゃあ、部屋に裁縫セットを持っていきますね」

「早速ですか。わかりました」


 ケインさんは私が抱えてきた布を全て持って行ってくれた。


 こうして、私たちのドラゴン・ドレスアップ計画は始まった。



 私は、最後の飾り紐を布に縫い付け、糸を切った。

 完成したものを両手でばさりと広げてみる。


「できた!」

「綺麗ですね。青のマントですか。タマに着せるんですか?」


 話しながらも、ケインさんは深緑色のマントを縫う手を止めない。

 お裁縫にもだいぶ慣れてきたようだ。というかすでに私より上手い。


「その予定です。ケインさんのはポチにですか? 似合いそうですね」

「ええ。そのつもりです」

「次はクロのマントを縫おうかな」

「クロには赤が似合うと——」


 ケインさんがそう言いかけたとき、バンッと音を立てて扉が開いた。


「あ、こんなところにいた。お前ら何やってんだ?」


 入ってきたのはもちろんゼクスさんだ。

 ケインさんは作ったマントを得意げにゼクスさんに見せる。


「見ての通りだ」

「ドラゴンのためのマントを作ってるんです。かわいいですよね~。私もがんばりましたよ」

「は???」


 私も縫ったマントを見せたが、ゼクスさんは頭にハテナを大量に浮かべていた。


 ケインさんはもうさっさと布を縫う作業に戻っている。


 さて、私も続きを縫わなければ。ドラゴンはたくさんいるから、まだまだ全員分には程遠い。

 ゼクスさんを放置して、私はまだ裁断していない赤い布を手に取った。


 なんだか今日はトラブルらしいトラブルもなく平和だ。


 このままこんな日々が続いていけばいいのにな。

 ついそんなことを考えた。

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