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第47話 選択と変化

 ケインさんの前にしゃがみこんだゼクスさんは、ものすごく悪い顔をしていた。


「よし。じゃあお前、今の王宮の状況を教えろ。そんで俺の部下になれ。それで命は助けてやる」

「俺に国を売れってか? 騎士がたかだか自分の命一つでそんな真似をするわけが——」

「それでいいのか? 俺はこれからこの国をひっくり返すんだぜ?」


 ケインさんは目を見開いた。訳が分からない、といった様子だ。


「……は? お前、なにを——」

「それを知ってんのは王宮側の人間では今、お前だけだ。お前が今ここで死んだら、何にも知らないこの国の連中は、ただ国が滅ぶのを待つだけになるな」


 おお、究極の選択だ。

 私は他人事のようなことを考えていた。


 ケインさんは、汚名を着てでも生き延びてゼクスさんの国家転覆計画を阻止しうる立場を手に入れるか、国を見捨てて騎士として死ぬかの二択を迫られている。


 そしてゼクスさんが意図的にやっているのかはわからないが、私の存在がゼクスさんの話の信憑性を上げている。

 ケインさんは私がスキルを使えない存在だと知らない、というか信じていないから、ゼクスさんの話は現実味を持って聞こえるだろう。


 その証拠に、ケインさんは完全に青ざめて、私とゼクスさんを交互に見ていた。


「……わかった。王宮の状況を教える。それでいいんだろ」

「なかなか物分かりがいいじゃねーか」


 ゼクスさんは満足そうだ。

 クロはケインさんの背中から足をどけた。


 ゼクスさん、今日は珍しくちゃんと魔王らしいな。

 昨日鍋を爆発させてふてくされてた人と同一人物とは思えない。


 ともかく、こうしてこの城に仲間が一人増えたのだった。



 そのあと、ゼクスさんは話もそこそこに、さっさと城内へと戻っていった。

 あくびをしていたところを見るに、やっぱり眠かったらしい。


 そして残される私とケインさん。あとドラゴンたち。ドラゴンたちは相変わらずケインさんを警戒した様子でじっと凝視している。


「……」

「……」


 き、気まずい。

 ケインさんは偶然だと言っていたが、まあ十中八九ゼクスさんが言っていたように私を探しに来たのだろう。

 そんな人と何を話せばいいんだろうか。


 私より先にケインさんが口を開いた。


「……お久しぶりですね。転移者様」


 転移者様、か。本当に久しぶりだ。その呼び方をされるのは。

 王宮にいたとき、その呼び方に私が異を唱えなかったことも、ああなってしまった原因の一つなのかもしれない。


 それならば、今からでも正していきたい。


「あの、転移者様っていうの、やめませんか? あと敬語もなしでいいです。この国にとっても、別に転移者って大事にするような存在でもないんですよね?」


 ケインさんは苦々しい顔をしていた。

 でももう、それを怖いとは思わなかった。


「……考えておきます」

「じゃあ、転移者っていうのだけ今すぐやめてください。それ以外は別になんでもいいので」

「…………じゃあココロさんで」

「はい、それでお願いします」


 町での生活とここでの生活でやっと『こころ』に戻れたのに、また『転移者』に落とされるのは嫌だ。


 ケインさんは私との会話で不快感を隠さない。


 ……やっぱり、王宮での友好的な雰囲気は演技だったか。

 それはそうだよな。私は国をめちゃくちゃにした人たちの同類だと思われてるんだから。


 それでも、そこまで精神的なダメージはない。

 この人が私をどう思っていようと別にいいや、と心から思えた。


 ここにいるドラゴンたちも、今はもう寝てるだろうゼクスさんも、私自身を、『転移者』じゃなくて『こころ』を見てくれるから。

 他の人にどう思われても、私はそれで十分なんだ。


 いまだに不快そうな様子でこちらを見るケインさんに、私は静かに笑いかけた。

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