第46話 お久しぶり
「——! ————!!」
「うるさ……なに……」
朝早いというのに、何だか外が騒がしい。ドラゴンたちが何やらぎゃあぎゃあと騒いでいるようだ。
こんな早くに一体何だというのか。
声は裏口の方から聞こえていた。
まだ眠いからゼクスさんが行ってくれないかな。私が行ったところで、できることってそんなにないし。
……いや、ゼクスさんはいつも夜が遅いから、この時間ではまだ爆睡だろう。
しかたない。私が行くしかないのか……。
私は寝ぼけた頭でベッドから起き上がり、そのままふらふらと裏口へと回った。
裏口の扉を開けると、裏庭にドラゴンが何匹も集まっていた。
全員で何かを取り囲んで、ぎゃあぎゃあと威嚇するような大声を出している。
ドラゴンたちがみんな下を向いていることから、小さい生き物なのかもしれない。
魔物かな? でも今までこんなこと一回もなかったのに……。
「ちょっとごめんね」
私はドラゴンたちをかき分けて、中心へと向かう。
ドラゴンたちは私に気づくと、進んで道を開けてくれた。
中心へとたどり着けば黒いドラゴン、クロがいて、その大きな足と鋭い爪で何かを押さえつけていた。
よく見るとうつぶせの人間だ。背中をクロに踏んづけられている形になっている。
え、こんな山奥に人間? よく来たなぁ。
「で、誰なのこの人?」
ドラゴンたちに聞いてみるが、ぎゃあぎゃあと鳴くばかりでよくわからない。まあそれは当然だけど。
ならば本人に聞くしかないか。
私はクロに近づき、その足元の人間に話しかけた。
「えーと。ここになにか御用ですか? 多分ゼクスさんはまだ寝てるので、ちょっと待ってもらうことになると思いますが……」
私が声をかけると、クロに背を踏まれている人間はピクリと動き、顔を上げた。
「! えっ、ケインさんじゃないですか!」
「……」
「何でケインさんがこんなところに?」
「……」
問いかけてもケインさんは何も言わないまま、こちらを睨むように見上げていた。クロがケインさんを踏みつける足にさらに力を込める。
「ぐっ……」
ケインさんが苦しそうにうめいた。
「あ、クロ、離してあげて。この人は私の知り合いだよ」
「離すな」
突然、私の後ろから声が聞こえた。
驚いて振り返ると、ゼクスさんが呆れたような顔で立っている。
「あ、ゼクスさん。おはようございます」
「おはようございますじゃねーんだよ。なにやってんだ」
「えーと? この踏んづけられてる人が、王宮にいたときに護衛をしてくれてた騎士さんで——」
「ふーん。お前、王宮が差し向けた刺客か。処刑には失敗したから、今度こそ転移者を殺しにきたか?」
「え」
ゼクスさんはケインさんを鋭い目で見下ろしていた。
あ、そういうのもあるわけか。
以前なら真っ先にその可能性を考えたかもしれないが、ここに来て完全に平和ボケしていた私にはその発想は全くなかった。
でも、ルークさんとかはアレだったけど、ケインさんに特に何か嫌なことをされた記憶は全くないんだよなぁ。
知らない騎士に急に斬りかかられてからは、ちょっと人間不信というか、疑心暗鬼になっていた。だから全員敵!みたいに思っていたけど、それって冷静に考えればおかしいと、今ならわかる。
転移者全員を一緒くたに見ている人たちと、私も同じことをしていた。ちょっと反省だ。
「でも王宮にいたとき、ケインさんには何も嫌なことはされませんでしたよ……ケインさんは、ここに何をしに来たんですか?」
私はケインさんに向き直って尋ねた。
「……偶然です。王宮の命令でこの付近の山の調査をしていたところ、突然ドラゴンの群れに襲われまして——」
「町に下りたココロを偶然見つけて後をつけてきたか? これがあるから町に行かせるのは嫌だったんだよ」
ゼクスさんが睨むと、クロがまた足に力を込めた。
「ま、まあまあ、ケインさんは偶然だって言ってますし……」
「ここがバレたら俺の計画が全部台無しだぜ。どっちにせよ、こいつを王宮に帰すわけにはいかねぇ」
ケインさんは悔しそうに顔をゆがめた。
「……じゃあ、ここにおいてあげるのはダメなんですか?」
私がそう言うと、ゼクスさんが一瞬目を見開いた。
そして少し考えこんだ後、いたずらを思いついたような顔でケインさんの前にしゃがみこんだ。




