第45話 ケインの捜索
「まさか、こんな場所まで探しに来ることになるとは……」
俺——王宮騎士団のケインは、辺境にある森を訪れていた。
湿った土の匂いが色濃く漂うその場所で、馬に揺られながらため息を吐く。
結局、ドラゴンが王都を襲撃したあの事件から半年がたっても、転移者は見つからなかった。かといって放置することもできない。王宮は捜索の手を辺境まで広げていた。
もちろん人手は足りていない。そのため、こんな辺境まで来ている捜索隊はごく少数だ。こんな人員で、家々は少ないが土地だけはだだっ広い辺境をくまなく探せとのことだ。広大な砂漠に落とした一つの宝石を探すような作業にめまいがする。
それでも、やらなくては。
友人であるロックスの安否もかかっているのだ。
転移者がまだ生きているのは確実だ。その証拠に、ロックスはいまだに洗脳が解けていない。彼はあの事件後も変わらず「今回の転移者は違う」と主張し続けている。
そのせいで、懲罰部屋からは出してもらえたが、いまだに王宮からの外出には強い制限がかかっている。
もちろん今回の転移者捜索にも加わっておらず、騎士としても休業状態だ。
俺が、俺が転移者を見つけて、はやく終わらせなければいけないのだ。
ギュッと強く手綱を握り締めた。
「とはいってもなぁ……」
俺一人でどうにかできる問題とは到底思えないのが現実だ。
転移者の監視をしていたことを理由に、上はずいぶんと俺に期待を寄せているようだが、俺も別に転移者の行動パターンがわかっているわけではないし。
途方に暮れながら馬を歩かせていたら、開けた場所に出た。
日の光もまともに差し込まない深い森を歩いてきたのに、木々の間からぽっかりと空が見えている。
ここはまだ森の出口には遠いはずだが……?
周囲を見回し、俺は息をのんだ。
太い木々が何本も根元からなぎ倒され、地面に横たわっていた。そうしてできた空間の中心に、一匹の巨大な黒いドラゴンが座っている。
馬もドラゴンに気づいて暴れだそうとするのを、俺は必死で手綱をひいて抑え込む。
なんでドラゴンがこんなところに……。
ここはどう考えてもドラゴンの生息地ではない。ドラゴンはもっとずっと人里離れた山の奥に生息している魔物だ。
辺境とはいえ、こんなに町に近い森にいるなんて聞いたことがない。
それに、ドラゴンは何かを待っているかのようにじっと座りこんだまま動かない。
とにかく、一旦引き返そう。
それしかない。単騎でドラゴンに挑むなんて、自殺以外の何物でもない。
そう考え、馬を反転させようとした瞬間。
「ごめ~ん。ちょっと遅くなった~」
不気味なほど静かな森に、女性の気の抜けた声が響いた。
——転移者の声だ。
半年前ほどに散々聞いた声。すぐにわかった。
転移者は怯える様子もなく、ドラゴンに駆け寄っている。ドラゴンも、そんな転移者に気を悪くした様子はない。
一体、何が起きている?
まさか、貴族たちが言っていた「転移者がドラゴンを操るスキルを持っている」という話は事実なのか? 貴族たちが恐怖から適当なことをでっち上げただけかと思っていたが……。
俺が目の前の現実を理解する前に、転移者はドラゴンの背にまたがった。
そして驚くべきことに、ドラゴンは転移者が背に乗るまでの間、姿勢を低くしてかがんでじっとしていた。
あの、魔物で一番誇り高いと言われているドラゴンが、だ。
「よし、おっけー。じゃあクロ、帰りもよろしくね」
転移者がドラゴンの頭をなでると、クロと呼ばれたドラゴンは翼を大きく動かした。周囲に強い風が吹きぬける。
思わず俺は腕で目を覆う。そして目を開けたときには、もう転移者とドラゴンは空の彼方に飛び立っていた。
ドラゴンが向かった方角は、町とは真逆の山奥。
連なる山々、そしてそこに広がる深い森以外に何もないはずの場所へと、ドラゴンは迷いなくまっすぐに飛んでいく。
「あの山に何かあったか……?」
そう考えて、すぐに俺はハッとした。
そうだ、思い出した。
先王の時代にあの地を治めていた領主が、砦として使っていた城があったはずだ。
その領主が反逆の疑いをかけられて処分されて以降、山奥にある古い城はそのまま放置されていたはずだ。
まさか転移者は、スキルを使ってその城にドラゴンを集めて、この国へ手を伸ばす期を見計らっているのか。
背中に冷や汗が流れた。
「……早く王宮に。報告に戻らないと」
俺は王宮の方角へ馬を走らせようとして、すぐに思いとどまる。
まだこれは俺の想像の域を出ない話だ。
ドラゴンと転移者が、山のさらに向こう側にある町へと向かった可能性もある。ドラゴンに乗って移動できるなら、そのくらいの距離は余裕だろう。
まずは、本当に転移者とドラゴンが山の中の城にいるということを確認するべきだろう。報告はその後だ。
俺は馬の進行方向を変え、ドラゴンが飛び去った山へと駆け出した。




