第44話 そういえば
ゼクスさんが鍋を一つだめにしたので、別の鍋を綺麗にしていた途中。私は休憩がてら、ゼクスさんがいつもいる部屋に来ていた。
ここは日向ぼっこには最適だ。なにせ天井がないから。
「ゼクスさんは、どうやって魔法を覚えたんですか?」
「フツーに独学」
「……」
……魔王って、独学でなれるものなのか。
まあ確かに、誰かに教わってなるものでもない気はするが。
青空を眺めながらぼんやりと会話していると、空に黒い点が見えた。その点はどんどん大きくなり、やがて形が見えてくる。……ドラゴンだ。
私がそう思ったときには、もうドラゴンは部屋に降り立っていた。
「ご苦労」
ゼクスさんは鷹揚にそう言って、ゆっくりとソファから起き上がった。
慣れた手つきでドラゴンの首に着いた魔法石を取りはずし、別の魔法石を取り付ける。
魔法石をつけ終わると、ドラゴンはすぐに部屋から飛び立っていった。
ぶわりと風が起き、部屋の埃が舞い立つ。……この部屋もまた掃除しないとな。
埃など気にした様子もないゼクスさんは、ドラゴンから回収した魔法石に視線を落としたままだ。
そのまま魔法石をぎゅっと握る。
魔法石は光を放ち、部屋の何もない空間に森を上から見た映像が投影された。プロジェクターのようだ。
映像は森をぐんぐんと進み、森の中の川や湖も映し出しては流れていく。
内容からして、ドラゴンが見た景色の録画だろうか。魔法石って録画もできるのか。すごいな。
私もゼクスさんと一緒にしばらくその映像を眺めていると、森を抜けて町が映し出された。
建物の見た目や位置関係に見覚えがある。私がこの前までいた町だ。
「……あ、忘れてた」
そういえば、町の人に何も言ってこなかったな。というか、言う暇もなかったのだけど。
もちろん、さすがに全く音沙汰もなくここまで放置していたわけではない。それではものすごく心配をかけてしまうし、優しい彼らがどこまで私を探しに行ってしまうかもわからない。
だからこの城に来てすぐに、ゼクスさんに頼みこんで、代筆してもらった手紙を魔法で出してもらった。だがそれっきり、何も連絡をしていない。
心配をかけているかもしれないし、流石に一度行っておきたいな。
そう思い立ったら、居ても立っても居られない。
私はゼクスさんに急いで事情を説明した。
「そんな訳なので一回町に戻りたいのですが」
「えー……あんまうろうろされっと、王宮のやつらに見つかりそうで嫌なんだよなぁ……」
ゼクスさんは面倒くさそうに、いまだに映像を流し続ける魔法石から視線を離さない。
「向こうはまだお前のこと探してるっぽいし。この町の近くまではさすがに来てねぇけど、もう少し先の町にはもう騎士やら兵士やらがうろついてる。捜索範囲をどんどん広げてるみてーだ」
「そこを何とか。王宮の人には見つからないように周囲には気を配りますし、今回限りにしますので」
頼み込むしかない。
王宮の人に見つかるのは怖いけど、町でお世話になった人たちの心配にはかえられない。
ゼクスさんは少し考えたあと、がしがしと頭をかき、ため息を吐いた。
「今回限りだ。ドラゴンでいけよ。あとあんま目立つな。長居もすんな」
「了解です」
よし。条件は大量につけられたが、何とか許可が下りた。
とにかく町の人に、私は無事なので心配しないで、とだけ伝えられればそれでいい。
「早速準備してきます!」
「夕方に行けよ。昼間だと目立ちすぎる」
「はーい」
夕方に町に着くようにしても、今夜遅くなる前には帰って来れるだろう。
遅い時間でも気にせず移動できるドラゴンって、この世界では本当にありがたいな。
さて、どのドラゴンにお願いしようかな。
私はパタパタとゼクスさんの部屋を飛び出した。




