第41話 ドラゴン懐柔計画
ドラゴンたちと仲良くなるぞ。
私は両手を握りしめた。
ここで生活を始めてから、これまでほとんどドラゴンとは関わらずに来た。
やっぱり……ちょっと怖いし、向こうから近寄ってくることもないので、それで何も問題なく生活できてしまっていたのだ。
でも、せっかくならばドラゴンと関わりたいと思うし、できればお友達になりたい。ついでに掃除も手伝ってくれれば、なおありがたい。
ならば、こちらから近づくしかない。別に、向こうが攻撃的という訳でもないのだから。
ドラゴンは城のそこらじゅうを歩いているが、大きい個体が多いので、だいたいは一階の客用らしい広い廊下や大広間などに集まっていることが多い。
私は自室のある二階から一階へと降り、大広間へと向かった。
大広間の扉をそっと開けると、四匹のドラゴンが見えた。皆で昼寝中のようだ。
私が広間に足を踏み入れると、近くにいたドラゴンは片目を薄く開け、こちらを確認するように見てきたが、すぐに目を閉じて昼寝に戻ってしまった。
さて、仲良くなるってどうしたらいいんだろう。
あ、見覚えのあるドラゴンもいた。
広間の奥にいるあの黒いドラゴンは、たしかこの間ゼノスさんがギルゼヴァルトって呼んでいたはずだ。王宮で私を助けてくれて、この城まで私を連れてきたドラゴン。
それより、ドラゴンはみんな名前が長くて覚えづらいんだよね。名前って、全部ゼノスさんが決めてるのかな。もしそうならだいぶ趣味が悪いと思う。
「この子の名前は……うーん、なんだったっけ。全然思い出せない」
ドラゴンは首を傾げた。
というか、そもそもこのドラゴンの名前はゼクスさんに聞いていただろうか? それすら記憶があいまいだ。
「うーん。じゃあ君は『ポチ』でいいか。私はそう呼ぶよ。いい?」
ドラゴン——ポチはうなずいた。別にいいらしい。
「他のドラゴンたちも決めようかな。君は『タマ』、君はなんかカラフルだから『ミケ』ね」
犬と猫の名前がごっちゃになっているが、まあいいだろう。
ドラゴンたちも特に異論はないようだ。
「せっかくだからギルゼヴァルトにもつけようか。ギルゼヴァルトって長いし。じゃあ黒いから『クロ』ね」
さて、名前はつけた。どうやって仲良くなろうかな。
というか、別によそよそしいわけではないんだよね。
名前もあっさりOKしてくれたし、ゼクスさんが言っていたほどプライドが高くて気難しいわけではないのでは?
「ドラゴンたちって、普段は何やってるの?」
私がそう言うと、ドラゴンたちは顔を見合わせて、一斉に移動を始めた。
どこに行くんだろう。
とりあえずついていってみると庭に出た。雑草が伸びて、荒れ放題になっている。さすがに私もまだ庭の掃除までは手を付けられていない。
「ここで何するの?」
私はドラゴンの顔を見上げた。
その瞬間。ドラゴンたちの何匹かが急に地面を蹴り、飛び上がった。その勢いで突風がおこり、周囲の雑草が大きくなびいて、砂埃が舞い上がった。
「うわっ……」
私は反射的に腕を上げ、目元をかばった。
そのとき、空を飛んだドラゴンが、もう一匹のドラゴンにタックルするように強くぶつかった。ぶつかられたドラゴンは、火を噴いて応戦する。
「え、え、急にどうしたの」
止めなくていいのか、と周囲を見回すが、地面にいるドラゴンたちが焦っている様子はない。のほほんと見上げて観戦しているようだ。
私もそのまま眺めてしばらく経つと、戦っていたドラゴンたちが地面に下りてきた。これといって険悪な様子はない。
つまり、さっきのは摸擬戦、いやもっと単純な「闘いごっこ」とでも言うべきなのか。別に勝敗も決めてはいないようだ。
優勢も劣勢も関係なく、今はただ楽しそうにじゃれ合って転がっている。気性が激しいのか穏やかなのか。
私としては物凄い大迫力だったが、彼らにとっては本当にただの遊びらしい。
流石にこの遊びに私が付き合ってあげることはできないけど……。
「あ、いいこと思いついた」
私は倉庫に行き、掃除のときに見つけた細長い棒を持ってきた。そして棒の先にボロボロの大きな布を結び付ける。
ボロボロの布はこの城にいくらでもあるので、わざわざ探すまでもない。
棒をためしにブンブンと振ってみれば、大きなボロ布はパタパタとはためいた。
よし。完成だ。
私は完成した棒をかついで、足早にドラゴンたちのいる庭へと戻った。
「ほーら、みんな! こっちだよー!」
私がたった今つくった即席・巨大猫じゃらしをふると、最初はポカンとしていたドラゴンたちはすぐに目を輝かせた。
まずポチが飛びついてきた。巨体をドスンドスンと跳ねさせて、必死に布切れに前足を伸ばして追いかけ回し始める。
ポチのするどい爪が布に刺さらないように、私も気を付けて棒をあやつる。
「あははポチいいねー。火は吹かないでねー」
そんなポチの様子を見て、他のドラゴンたちも続々と参戦してきた。ドラゴンたちはみんな楽しそうにボロ布を追いかけまわす。
庭の地面はドラゴンの爪でどんどん抉れ、土煙が舞った。
「こっちだよー! クロおそーい!」
しばらく遊ぶと、ドラゴンたちはもっともっととまだ遊びたそうだったが、全身で棒を振っている私はすぐに疲れてしまった。
「ちょっとまって……さすがに休憩……」
私は肩で息をして、地面に座り込んだ。
棒が長くてそれなりに重量があるので、本当に全身運動だ。明日は筋肉痛だろう。
ドラゴンたちはまだかまだかと、休憩している私の肩を頭でつついてくる。
そのまま座って休んでいると、さすがに庭が騒がしいことに気づいたらしいゼノスさんが珍しく庭まで出てきた。
「…………おめーら何やってんだ?」
ゼクスさんは不審げな目で庭を見回した。
あちこち抉れて、雑草が掘り返されている地面。分厚く舞っている土煙。そして、楽しそうに私を取り囲むドラゴンたち。
そりゃあ不審だろう。
「あはは、秘密です」
私はゼクスさんを振り返り、いまだに上がったままの息を整えながらゆるく笑った。
本当のことを言ったら怒られそうだから、ゼクスさんにはもうしばらく秘密にしておこう。




