第39話 役割
「そろそろお前の本来の仕事をしてもらうぜ!」
掃除中の部屋のドアをバンッと開け、突然現れたゼクスさん。
私はほうきを持ったまま首を傾げた。
「本来の仕事ってなんでしたっけ」
「忘れんな! お前の仕事は異界の技術とかを俺に教えることだ! 魔法はないって言ってたからな!」
「ああ、そうでしたね」
「そうだ!! なんかねーのか! 国家転覆に使えそうなすげー技術は!」
そう言って私が拭いたばかりの椅子にドカッと座りこんだ。
ゼクスさんが指を鳴らすと、ポットと紅茶が入ったティーカップが二客、ポンッとテーブルに現れた。
完全に居座るつもりらしい。仕方ないので掃除は中断だ。
私も椅子に座り、紅茶に口をつけた。
それにしても、なんという急な無茶振り。
国家転覆に使えそうな技術なんて、国家の要人でもない私が知ってるわけが……。
「……あ、そういえば王宮でも電話の話をしたか」
「デンワってなんだ!」
ゼクスさんは目を輝かせた。
言っている内容は王宮の人たちと大差ないのに、反応が全く違うよなぁ……。
「私が元いた世界には魔法も魔法石もありませんでしたが、魔法石を通じて会話するのと同じことができる機械はありましたよ」
「魔法も魔法石もないのに、そんなことができんのか!? どうやって!?」
「私が作ってるわけではないので、詳しい原理とかはわかんないですよ」
「実物は持ってねーのか!?」
うん。本当に、王宮の人と言ってることは一緒なのに、全然違うのが面白いよなぁ。あといちいち反応が大きくて見ていて楽しい。
「うーん。この世界に来たときは持ってたんですけど、王宮に置いてきちゃったんですよね……それに、一台だけあっても話はできませんから。あんまり意味ないですよ」
「現物があれば、俺が魔法で話せるようにできるぞ。多分」
あっさりとすごいことを言われたな。
「……そんなことできるんですか? 王宮ではそんな話は全く……」
「そうなのか? でもその機械は誰かと話すために作られたものなんだろ?」
「???」
急に話が要領を得なくなった。
『話すために作られた』って何? スマホだから確かに話すために作られたのだろうが、それが何の関係が???
「あーそうか。異界には魔法はないんだったな」
ゼクスさんはぐしゃぐしゃと頭をかき、「まず、」と言って人差し指を立てた。
「物っつーのはなんでも、自分に与えられた役割を全うしようとするもんだ」
「与えられた役割……ですか?」
「ああ、例えばランタンは照らすために作られたモンだからたくさん照らしたがるし、ポットは注ぐためのモンだから注ぎたがる」
ゼクスさんがそういうと、ポットはひとりでに浮き上がり、中身の少なくなった私のカップに紅茶を注ぎ入れた。
ゼクスさんとティーセット。かなり似合わない組み合わせだな。
「……そういえば、よくティーセットなんて持ってましたね?」
「あぁ、この城に最初からあったやつだ」
「……ちゃんと洗いました?」
「知らね」
このティーカップがちゃんときれいに洗われたがったことを祈るばかりだ。でもパッと見はよごれもなくきれいなので、多分大丈夫だと思おう。
「だから、お前が持ってたっていう機械も、他の誰かと話すために作られたモンなら、話せるようになりたがってる。魔法はそれを助けてやるだけだ。何でもできるわけじゃねぇ」
そうか。なら王宮からスマホを持ってこれていれば、ゼクスさんの魔法で使えるようになってたかもなぁ。
「まあ、話すくらいなら魔法石で簡単にできるからいいか……でも魔力なしでも動くなんて、何かに応用できたらすげぇことできそうなのになー」
「魔法石で簡単にって言いますけど……魔法石ってすっごく高価なんですよね?」
「は? 誰がそんなこと言ったんだよ」
え、違うの? また私は王宮で騙されてたんだろうか。
「王宮でそう聞きました。宝石に魔法を刻むうえ、使い切りだから普通の宝石以上に高価だと……」
「へー。この国の王宮つってもそんな感じなんだな。俺が王になったら俺の天才魔法技術でこの国を魔法大国にできそうだぜ!!」
ゼクスさんが自信たっぷりに笑った。
一体どこからそんな話に派生したんだ。
「俺が使ってる魔法石は全部俺が作ったやつだけど、元は全部ただのガラス玉だぜ。それに、使い切ったらまた魔力を入れなおせば再利用できるし」
「え、ガラス玉でいいんですか。じゃあ何で王宮ではわざわざ宝石なんかに…」
「さぁ? 俺は宝石なんて持ってねーから、ガラス玉でやってみたらできただけだしなー」
ゼクスさんはあっけらかんとしているが、これは革命的な話じゃないのか。
さすがにこの国の魔法使いが、だれもガラス玉で試していないとは考えづらい。もしかしたら完全に盲点だっただけかもしれないけど。
少なくとも、再充填は絶対にだれかが試したはずだ。高価な宝石を使うのだ。できるならば再利用したい、と誰もが一度は考えるだろう。にもかかわらず、その技術はまだ王宮には伝わっていないのだ。
……もしかしてこの人、口だけではなく本当に天才なのでは。
私はまじまじとゼクスさんを見た。
ちょっとだけ見直した。私のスマホなんかより、そっちの方がずっとすごいんじゃないのかな。
……あれ? そういえば、
「魔法がなんでもできるわけじゃないなら、この間の吹雪はどうやったんですか?」
「あれは……あれだよ。ほら、俺は魔王で、天才だから」
さっきまで自信満々だったくせに、急にしどろもどろになった。
まさか、ここまでの説明、ほとんど適当だった?
これまでの魔法の話、全ての信憑性が一気に下がった。話半分ということにしておこう。
カップに少しだけ残った、もう冷めてしまった紅茶を、私は一気に飲み干した。




