第37話 魔王城
「よし! 決まりだな!」
ゼクスさんは椅子から勢いよく立ち上がった。
「俺の城を案内してやる! ついてこい!」
そう言って意気揚々と歩きだし、部屋を飛び出していった。ドラゴンもさっさと立ち上がって彼についていってしまう。
私も、ドラゴンに一歩遅れて彼の後を追いかけた。
「こっちは雨漏りするから使ってねー部屋。んで、こっちは窓から蔦が入りこんでいっぱいになってるから使ってねー部屋」
大きな城をあちこち歩いて案内してくれるが、どこも廃墟同然の部屋だ。それ以外はない。
天井が抜けていたり、壁に大穴が空いていたりする部屋まであった。
そしてなんと、様々な形をしたドラゴンが、城のいたるところをのしのしと歩いている。
すごい。この数のドラゴンも一緒に暮らしているのか。
「……ドラゴンがいっぱいいる」
「すげーだろ! 全部俺の眷属のドラゴンだぜ!」
私の独り言のはずだった言葉を拾って、ゼクスさんは誇らしげに笑った。
眷属って、ゼクスさんとドラゴンが何かの契約をして一緒にいるってことなのかな。よくわからない。
「あっちにいるのはアステリュオン、こっちにいるのはナスティアリュールだ」
ゼクスさんはあちこちにいるドラゴンを指さして言った。みんな名前がついているらしい。
それにしても、みんなどれもすごい名前だ。なにより長い。覚えられるかな。
「あ、あと、お前を連れてきたこいつはギルゼヴァルトだ」
「そうなんですね。よろしくね、ギ、ギルゼヴァルト」
ゼクスさんの後ろを歩いていた黒いドラゴンに視線をやった。
うーん。ドラゴンは表情がないから、何を考えているかはよくわからない。
ドラゴンたちは近くを通っても、こちらをチラリと見るだけで、大して気にした様子もない。ゼクスさんも平然とドラゴンの横をすり抜けて歩いていく。
彼らの様子から、身の危険はなさそうだとわかっていても、私は反射的に身構えてしまう。
……元の世界でたまにあった、すごい数の犬を飼ってる犬屋敷みたいなものだと思おう。
この城はまさにドラゴン屋敷だ。
そんなことを考えている間に、城の案内はだいたい終わったらしい。
ゼクスさんはこちらを振り返った。
「見ての通り、空き部屋はいくらでもあるから、お前の部屋は好きな部屋を選んでいいぜ!」
選んでいいぜと言われましても。ほとんどまともな部屋がなかったのだけど。
「あ、でも雨が吹きこまねぇ部屋を選んだほうがいいぞ! 天井が開いてた方が景色はいいんだけどな!」
だれが景色を目的に天井が抜けてる部屋を選ぶんだ。そんなことをするのはゼクスさんくらいだろう。
「そうですね。あとで選んでおきます。……そういえば、ゼクスさんは最近ここに住み始めたんですか?」
私は今も足元に転がっている大量の埃や砂を眺めながら尋ねた。足を少し動かすだけで、ジャリ、と音が鳴る。屋内なのに。
「いや? 前々回の転移者が来た時くらいからだから……もう二年くらいはここに住んでるな」
「その間に掃除とかしなかったんですか?」
いくらこの廃墟でも、二年もあれば少しくらいは片付くだろうに。
「別に、そんなんしなくても死なねぇだろ」
ゼクスさんは事もなげに言い、首を傾げた。
そんな反応をされると、私が変なことを言っているみたいじゃないか。
「……勝手に掃除してもいいですか?」
「? 別にいいけどよ」
「じゃあ勝手にやります」
ゼクスさんはなぜかまったく気にしていないが、これは絶対に人の住む環境ではない。
しばらくは掃除が生活の中心になりそうだ。
ゼクスさんの不思議そうな顔を見て、私はため息を吐いた。
「じゃあ、さっそく掃除をしようと思います。このままじゃ、どの部屋も使えないので」
「潔癖だな~」
ゼクスさんが呆れたように言ったが、どう考えてもゼクスさんがおかしいだけだ。
そうしてこの廃墟……もとい魔王城での、私の生活はスタートしたのだった。




