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第36話 転移者とは

 部屋に重い沈黙が流れる。


 ゼクスさんは震える手で私を指さした。


「ほ、本当になんのスキルも持ってねーのか……? 本当に? なんにも? ちょっとも……???」


 私はバッと顔を上げた。


「本当に!!! すこしも!!! これっぽっちも!!!!! なーーーーーんにもないです!!!!!!」

「は……」


 私はもう、やけになっていた。

 ゼクスさんは口を開けてしばらく完全に固まっていたが、正気に戻った瞬間に絶叫した。


「はあああああああああ!!?? お前なんにも能力ないのかよ!? じゃあ俺は何のために王宮からお前を連れ出したんだ! せっかく苦労して王都の結解までぶっ壊したってのに!! とんだ無駄足じゃねーか!!」

「え……」


 ゼクスさんは頭を抱えて床をのたうち回った。

 今度は私が固まる番だった。

 

 まさか、会ったばかりの人に、こんなにあっさり信じてもらえるなんて。


 こんなことは初めてだった。


 これまで何度言ってもずっと疑われて、誰にも信じてもらえなくて、私を転移者だって知っている人はみんなそうだと思ってたのに。

 こんな、さっき会ったばっかりで、ちょっと話しただけなのに。



 ——この人は、私を信じてくれるんだ。



 本当に嬉しくて、安心して、涙があふれた。


「……そうなんです……私、本当に…………本当に何にも能力とかないんですぅううう!! うわぁああああん!!!」

「は、はぁ!?? な、なんで急に泣くん、べ、別に泣くことねぇだろ! まあ転移者だって、そういうこともあるよな! な!」


 突然大声で泣き出した私に、ゼクスさんはあからさまに慌てふためいた。


 そんなゼクスさんのまったく要領を得ない慰めの言葉に、私の心は不思議なほど安らいでいだ。



 しばらくして私がようやく落ち着くと、ゼクスさんは今までの転移者のことを教えてくれた。


「お前、王宮にいたんだろ? 王宮で聞かなかったのか?」

「なんか口止めされてるみたいで、誰も教えてくれなかったんですよね。全員何かのスキルを持っていた、ってことぐらいしか……」


 私の言葉を聞いて、ゼクスさんは目を輝かせた。


「その通りだ! 転移者はみんな、スキルっていうすげー能力をもってた! そんで、そのスキルでこの国をぐっちゃぐちゃにしたんだぜ!! 王都を半分くらい消し飛ばしたりな!!」

「え」


 え、そういう感じ? てっきり私は、スキルを国の役に立ててた、とかかと……。

 だからやたらと転移者のことを嫌ってる人がいたのか。


 つい先入観で思いこんでいたけど、冷静に考えれば確かに、国をめちゃくちゃにしたって方が王宮の人たちの対応とはつじつまが合う。


「そんな力があるなんてすげーよな! だからスキルを使って国をぶっ壊して! 俺が王になってやろうと思ったのに! 全部台無しだぜ! どうしてくれんだよ!!」

「いや、わかりませんが……」


 そんな私の声はゼクスさんには聞こえていないようだ。


「まあ連れてきちまったもんはしょうがねえ。おまえも手伝えよ! 俺が王になるまで!」


 今の今まで怒っていたはずなのに、ゼクスさんはケロッと笑った。

 よく表情が変わる人だなぁ。


「え、でも私、スキルもないし、本当に何も特別にできることとかないし……」

「転移者って、異界から来てるんだろ? なら、俺にこの世界にはない異界の魔法とか技術とかを教えろ。それで十分だ。俺もそろそろドラゴンだけじゃなくて、人間の部下がほしかったからな!」

「……私、元の世界に帰りたいんです。だから、帰る方法を探したくって……」

「帰りたい? ……まあ、こっちに来る前はずっと違う世界で暮らしてたんだもんな。普通に考えればそりゃ帰りたいか……よし! じゃあお前が元の世界に帰れるまで俺を手伝え! そのかわり、俺もお前が帰る方法を探すのを手伝ってやる!」


 本当に何でこの人は、私の話を全部、こんなにあっさりと信じてくれるんだろう。

 止まったはずの涙がまたあふれそうになった。


「そういうことなら……よろしくお願いします」


 私は涙をこらえながら頭を下げた。

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