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第35話 魔王

「ま、魔王……?」


 私は思わず彼の言葉をオウム返しにした。


 魔王ってなんだ。この世界にはそんな存在がいるのか……?と思ったが、目の前の少年と魔王という言葉が、なんというか、ずいぶんと馴染まない。


 目の前の玉座にも見える大きな椅子に座っているのは、どう見ても私と同じような年ごろの少年だ。


 年齢はせいぜい十七か十八くらいだろう。背も私と頭一つも変わらないと思う。

 黒いローブを羽織っているところだけは多少それっぽいかもしれない。

 ただそれ以外は魔王という言葉とはかけ離れた……悪く言えばものすごく子供っぽい雰囲気で、ちぐはぐだった。


 だが魔王ゼクスと名乗った少年は、自信に満ちた表情でこちらをまっすぐに見ている。


「そうだ、魔王だ!」


 ……ところで、さっきからずっと気になっていたんだけど、この声と話し方、ものすごく聞き覚えがある。

 私はゼクスさんの後ろにいるドラゴンと、彼を見比べるように見た。


「あの、なんでそのドラゴンと声が同じなんですか……?」

「はぁ?」


 ゼクスさんは訳が分からないとでもいいたげな顔をした。

 よく感情が顔に出る人だな。


「え、他人の空似ってことですか?」


 片方は人ではないけど。いや、魔王も人ではない、のかな?


「ドラゴンがしゃべるわけねーだろ! アホかてめーは!」

「え」

「そんなことも知らねーのかよ!」


 そう言われましても。

 本当に私が何にも理解していないとわかったのか、ゼクスさんはため息をついてドラゴンを指さした。


「このドラゴンの首に魔法石がついてんだろ」


 そう言われて、私はドラゴンの首元を見た。

 ドラゴンの首には首輪がついていて、それには確かに大きなガラス玉のようなものがつけられていた。

 全く気付いてなかった。


「この魔法石を使って、魔法石から俺の声が聞こえるようにしていただけだ」

「へぇーじゃあ、ドラゴンはしゃべれないんですね……」


 ちょっと残念だ。夢があっていいなぁと思ってたのに。


「そんなことより! 人が名乗ったら自分も名乗るもんだぜ」

「あ、すみません。私は立花こころです……」

「そうか、ココロ。おまえ、転移者なんだろ?」


 頭を強く殴られたかのように、ぐわんと揺れる感覚。


 またなの。また私は転移者に戻るの? やっと終わったと思っていたのに。


 ゼクスさんは楽しそうに話を続ける。


「転移者って全員、『スキル』っていうすげぇ力をもってんだろ? その力、俺が使ってやる!」

「……」

「スキルを使ってこの国をひっくり返す! そんで俺が王になって、この国を魔王が治める国にしてやるんだ!! ハーーッハッハッハ……?」


 しばらくしゃべり続けた後に私の反応がないことにようやく気付いたらしく、ゼクスさんは私の顔を覗き込んだ。


「?? 嫌なのか? 俺がこの国の王になった後も、別にお前のこと放り出したりしないぞ?」

「……」

「言っただろ。おまえを魔王の右腕にしてやるって。ちゃんと部下の面倒は見るぜ! 魔王だからな!」


 ゼクスさんは胸を張った。


 私は心を無にして、王宮にいたころにはよく言っていた言葉を、久しぶりに口に出した。


 もう二度と、言わないで済むと思っていたのに。


「違います。私はスキルがないんです」


 私の言葉に、ゼクスさんはポカンと口を開けた。


「…………はぁ?」

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